「アメリカン・ドクターX」

americansmary

2012年のカナダ映画「アメリカン・ドクターX」を見ました。主演のキャサリン・イザベルは「フレディVSジェイソン」や「人造人間13号」、ドラマシリーズの出演が多いよう。監督のジェン・ソスカとシルヴィア・ソスカは「ABC・オブ・デス2」で『T』(TPRTURE PORN 残虐ポルノ)を担当。陰鬱で血まみれで愛すべき短編です。
こういう短編集で気になった監督を見て、打ちのめされるの最高にすき。

・医大に通う貧しい女の子が、あることをきっかけに大金を手に入れる
・だがそのせいで、思わぬトラブルに巻き込まれる
・彼女のなかの残虐性が目を覚まし、周囲の人を巻き込みながら、物語は転がっていく
数年前に医師のサスペンスやらスプラッターやらがちょこちょこ出ていますが、「グッド・ドクター 禁断のカルテ」よりも「マッド・ナース」のほうに近い映画かもしれない。とはいえ、主人公が何を考えているかわからないサイコキラーというわけではなく、考えていることや胸の痛みがそのまま描かれています。

登場人物

メアリー:医大に通う美女。優秀である
店長:メアリーがお金を稼ぐために入店しようとしたダンスの店(というか、ストリップの店?)の店長。粗野だが、メアリーに惹かれていく。
ランス:店の用心棒。メアリーにとって、よき味方となる
ベアトリス:人形になりたいと願い、整形手術を受け続けているストリッパー。
ルビー:ベアトリスの友人であり、自分自身も整形手術を受け続けている
双子:肉体改造をし続ける双子。改造界のカリスマである
教授:メアリーを指導する教授。彼女に厳しく接する
ウォルシュ:病院でメアリーを指導している医師。彼女にしつこく絡む

ネタバレ

外科医のたまごであるメアリー。彼女には両親がいないようで、祖母と毎日携帯で話している。そのせいで、携帯の料金が払えずに回線を止められてしまう。
いかがわしい店で、ダンサーとして働くことを決めて面接に行くメアリー。しかし、その面接中にトラブルが起き、店長は5千ドルの報酬である仕事をしてほしいと持ち掛ける。ヤク中の男が、自分の体を裂いたのだ。血まみれの男を手術することになるメアリー。彼女は家に帰り、扉が閉まったその瞬間に泣きだす。

翌朝、ベアトリスという女性からの電話に困惑するメアリー。昼の仕事(ウェイトレス)も、店の都合でクビになる。そこにベアトリスが家まで押しかけてくる。彼女は、闇の手術をメアリーに頼みたいのだ。高額な報酬に惹かれたメアリーは準備をするが、そのせいで授業をすっぽかしてしまう。

ベアトリスの姪?が受付をしている動物病院を借りることになり、そこを来訪するメアリー。何の手術を求められるのか、彼女は知らない。ルビーと対面するメアリーだが、彼女が人形に近付くために、乳首をとり、股を縫合し、“余計なもの”を切除してほしいと言われる。メアリーはその手術を成功させるが、家に帰ってきて扉が閉まった瞬間、吐きまくる。

時は流れ、メアリーは病院で研修を受けている。家族に病状を伝え、さらに患者の死を伝える実践をさせられるが、動じない彼女をウォルシュ医師は褒める。

しかし、ベアトリスが病院前で待ち伏せしている。デザイナーのルビーからの感謝のドレスを持ってきてくれたのだ。しかし、それをウォルシュに見られてしまう。
そして、教授のパーティに誘われることになったルビー。喜んで参加することを決める。

ルビーはベアトリスに教わったルビーのサイトに行く。手術の出来栄えに満足するメアリーだが、ルビーのサイトから別のサイトにとんでしまう。「アブストラクト・ミー」というサイトには、肉体改造をした人の写真が大量に掲載されている。思わずノートパソコンを閉じるメアリー。

パーティには、男の医師ばかりがいる。グラント教授もおり、下品な男もいる。酒を飲んでフラフラになるメアリー。ルビーのドレスが美しく彼女を飾る。教授は急に怒りだす。メアリーが体を売っていると思い込み、失望したというのだ。彼女はベッドルームに連れ去られる。パーティ会場では、下着姿の女が混じり、さらに男たちが別の女を凌辱しているのも見える。
教授はメアリーを強引にベッドに倒し、口の中に指を入れて苦しめる。そしてそのまま強姦してしまう。メアリーは意識を失ってしまう。

次の日の朝、彼女は目を覚ますと、隣に裸の教授が寝ている。ぼろぼろと涙をこぼしながら、彼女は部屋を出ていく。マスカラが落ち、目元が真っ黒になってしまっている。

次の瞬間、メアリーは化粧をしている。革のボディコンを着た彼女が洗面室から出ると、そこには店長とランスが待っている。彼らは翌日にまた来るといって出ていく。
そこには、拉致されたグラント教授が転がっている。メアリーは医大を退学したことを告げ、身体改造(つまりは闇医者)の道を進むと告げる。そして、教授を練習台にすると告げる。「スプリットタン、インプラント。歯も削るわ」と、やりたいメニューを並べていくメアリー。性器の手術もして、最後に四肢を切り取るという。

それから少し経った後。メアリーは身体改造医として成功を収めている。スプリットタンの手術をして、次の客を迎え入れるが、ボディピアスの注文をした客に「ガキは帰れ」と怒りだす(そんなものはいきがっているガキんちょがやることだ!というのがメアリーの主張)。
しかし、外出したメアリーに刑事が声をかけてくる。グラント教授の失踪について調査しているのだ。

店長は雇っている女の子たちのダンスを見ているが、ふとあるダンスに釘付けになる。そのダンスを踊っているのはメアリーだ。彼女は血を浴びながら踊り続ける。だが、次の瞬間我に返ると、それが妄想だったことがわかる。
現実のメアリーが彼を訪れ、イライラしていると告げる。ウォルシュがグラントの失踪について、余計なことを警察にしゃべりそうだと危惧しているのだ。
その一方で、メアリーを慕うベアトリスは彼女に上客を紹介するという。それこそ「アブストラクト・ミー」を運営している双子姉妹だ。

彼女たちはさっそく風俗店を訪れ(店長がVIPルームを貸してくれた)、ダンサーの女の子とキスをして舌を噛み切る。彼女たちの背中には、直接リボンが通っている。
何が起きてもつながっていたいという双子は、自分たちの左腕を交換したいとメアリーに持ちかける。何も聞き返さずにテキパキと段取りを組むメアリーに好感を持つ2人。そして、彼女がネット上で「ブラッディ・メアリー」(血まみれのメアリー)という名前で呼ばれていることを伝える。メアリーは店長にいい助手になりそうな医師がいないか紹介してくれと頼む。

手術をするメアリーと助手。双子は左腕を交換するだけでなく、悪魔のような見た目を目指して彼女にオーダーをしていたようだ(ただし、その全貌は登場しない)。

地下に監禁されている男をボコボコにしている店長。その一方、メアリーはある倉庫に監禁していたグラントのもとを訪れる。手足がなく、顔に入れ墨やピアス、インプラントもされ、口を縫われている彼の写真をとるメアリー。双子の後押しもあり、彼女はサイトを運営して本気で肉体改造医になる決意をしたのだ。だからこそ、最初に手術したグラント教授のことを写真に残しておきたい。しかし、警備員がメアリーを見つけ、彼女を殴る。だが、メアリーは警備員を殺し、グラントも殺す。

その頃、ルビーは男性にアクセサリーをプレゼントされていた。にっこりするルビーは、そのままガウンを脱ぐ。男はつるつるの胸と股間を見て、衝撃に顔を歪ませる。

ランスはメアリーを店に連れ帰る。コートをかけ、食事を出す。そして思い出話を始める。ランスの母は、子どものような強盗に侵入された。傘で防衛しようとしたが、逆に傘で大怪我を負わされ、殺されかけた。そのことを思い出しながら、「彼らは自業自得だった。過ぎたことを考えるな」と彼なりに励ます。
メアリーは彼が買ってきてくれたチョコシェイクを飲みながら「美味しいわ」と微笑む。

双子は手術に満足し、帰っていく。

メアリーは新居に引っ越す。そして、自分が手術した人たちの写真を撮り続ける。スプリットタン、インプラントをして角を作った男、手を切り落としている男、乳輪をハートにした女。彼女は今の生活に満足している。

そこにまた刑事がやってくる。彼女は殺人犯として疑われているのかと思い、刑事を殺そうとするが、彼はメアリーがグラントやウォルシュの被害者であることまでしか知らないことを知り、殺すのをやめる。しかし、ウォルシュも行方不明になっているようだ。なぜ?

店長はその頃、メアリーが何をされたのか、映像を見てしまう。店長が地下室に監禁していたのはウォルシュだったのだ。もちろん、彼はウォルシュを殺している。

そして、メアリーに電話がかかってくる。おばあちゃんが死んだのだ。

メアリーは店長を尋ねるが、彼は新人に“サービス”させている最中だった。店長は慌てるし、メアリーは顔を歪ませる。ウォルシュが消えたことが店長のしわざかと聞くメアリー。

メアリーは新人がいるトイレに入ってくる。トイレに入った新人はブルブル怯えている。メアリーは大きなナイフを出して刃を爪でかきならし、洗面台に投げる。さらに手術道具を大量に出して、新人を追い詰める。だが、彼女は殺さない。

店長はメアリーにマッサージをさせた(面接のときの)動画を見ている。その動画を見ていると、後ろからメアリーがやってきてマッサージを始める。そしてキスをする。しかし、次の瞬間に腹を刺される店長。でもそれは全部夢だ。
メアリーはまた店長のもとにやってくる。「私はイカれてる?」と尋ねるメアリーに「いいや」と彼は答える。
そして、ベアトリスが失踪したことを告げる。連絡もなしにやめるなんてと寂しそうな店長。そして、メアリーをドライブ旅行に誘う。若者らしいかわいい旅行計画。だが、メアリーはそれに乗らない。

家に帰ったメアリーに、ベアトリスが電話をかけてくる。それに出るメアリーだが、ベアトリスは虫の息だった。ルビーの夫が逆上して、ベアトリスに彼女を手術した医師を教えろと拷問したのだ。何度も謝罪するベアトリス。次の瞬間、メアリーは襲われる。だが、反撃して彼を殺す。しかし、彼女も腹から大量の血を出している。自分で自分の手術を始めるメアリー。

次の瞬間、パトカーが彼女の家にいる。警官たちは顔を歪めながら、グラントを撮影した写真を眺めている。男は床で死んでいる。ウォルシュとグラントの件で彼女のもとを何度も訪れていた刑事は、憐れむような眼で手術室の床を眺めている。そこには、自分で自分の腹を見事に縫合させたものの、失血死したらしいメアリーの死体が転がっている。

感想

・「オーディション」のサイコキラーヒロインのような魅力のある主人公。ボンテージや下着姿がとってもセクシー。手術着もオシャレ。監督や演者が「見せたいもの(映画のために説明すべきもの)」をちゃんと見せてくれるのでわかりやすい。
・人形(もしかしてベティー・ブープ?)になりたいというベアトリスの優しくておせっかいなキャラ、気持ちをメアリーに伝えられない店長の弱さ、ランスの過去など、それぞれのキャラが魅力的。
・肉体改造っていままでまっったく興味もなかったのですが(「蛇にピアス」は読んだけど)、「オシャレ」「サブカルチャー」の両方からもアプローチしなかったことには非常に好感が持てる。「肉体改造ってカッコイイ~☆」「そんなんするオレカッコイイ~☆」的な目線も、「こんな危ないテーマ扱うこの映画ってサブカルチャー!」的な目線もない。いい映画だよ。