思い通りにならない彼女を多次元に飛ばす超能力少女「テルマ」

テルマ

2017年の「テルマ」。ノルウェー/フランス/デンマーク/スウェーデンの共同制作。テーマはずばり、超能力です。「キャリー」を思い起こす方も多そうですが、ずばり、共通点は多いですよね。
超能力を持った少女、歪んだ家族関係、報われない愛…でも、遠目には似ているけれど近くに寄れば寄るほど違う。「キャリー」(オリジナルのほう)はとにかく胸が痛い展開が続くし、エンディングも後味が悪い。とにかく救われない。でも「テルマ」は、それでいいの?それを選ぶの?あっ、やだなあ…という感じの展開が続くのです。

冒頭からもう不穏。子供時代のテルマを撃とうとする父。明らかに、テルマが無垢でありながら両親にとっては邪悪な何かなんだろうかと思わせるオープニングです。

時は流れ、大学生になったテルマちゃん。両親はとにかく過干渉。そしてなぜか母親は車椅子です。明らかにテルマのせいなんだろうなとしか思えないですが。マジメなテルマですが、図書館で突然発作を起こして、失禁して気絶。この時点で心弱かったら学校に通えなくなりそう。
しかし、このことをきっかけに現場にいたアンニャと友達になります。

徐々に仲良くなるテルマとアンニャ。テルマはアンニャへの恋心を意識して、アンニャもそれを受け入れてキス!だんだんと周囲に染まり、お酒を飲んだり夜遊びしたりするようにもなります。

しかし、実はテルマがかつて強い精神安定剤を処方されていたことが発覚。家族はテルマを精神科に通院させていたということがわかります。このあたりで、テルマが超能力者だということが明らかに。

なかなか自分の思い通りにならないアンニャを、無意識のうちに消してしまうテルマ(窓ガラスが割れて、それが元通りになったときにはアンニャが消えているというけっこうかっこいい演出)。
テルマの祖母も祖父を消していたらしく、同じ能力を持っていたことが伺えます。そして祖母がテルマを精神科に連れ行っていたらしいこともわかります。薬を飲めばぼんやりするものの、力を抑えることができるのです。

両親はなぜテルマを警戒しているのか?その理由も恐ろしいもの。テルマは子供時代に、生まれたばかりの弟を超能力で凍った湖の中にテレポートさせて殺していたのです。母親はそれを苦に自殺をはかったのですが、失敗して車椅子になっていたのですね。
また、超能力ではある程度人間の心も操ることができます。テルマの恋が成功したのも、実は無意識下にアンニャを操っていたからだということが父によって明らかにされてしまうのです。

すべてを思い出し、かつ理解したテルマ。また薬漬けになるものの、自分を抑圧していた父親を湖のボートの上で炎上させて殺してしまいます(このシーンは悪夢のようで怖い)。

そして、テルマはアンニャをこの世界に呼び寄せ直し、母の足を治して歩けるようにしてから絶縁。アンニャとキャッキャウフフしながら楽しく生活していくことを選ぶのです。たとえ、彼女が自分の意志に反して動くことのできない操り人形だったとしても…

この手の映画にしては学生生活がうまく行き過ぎているなあと思ったものの、失禁してもクスクスされないのも(もちろん発作起こしたんだから仕方ないし、そんなことをするのはいけないことなんだけど)、初めての恋愛でトントンと何も障害なしにうまくいくのも、アンニャの友達からスムーズに受け入れられて溶け込めるのも、全部そうなるように彼女が願ったからなんだなあということで納得。イージーだけど手応えがない、つまらない人生でも愛されるほうがいいということなのでしょうか。

アンニャが消えるシーンとお父さんが炎上するシーン、テルマが宙に浮くシーン、弟の体が凍った湖の中にあるシーン以外はあまりホラーっぽくないんですけど(じゅうぶん多い?)、物悲しさとか虚しさとか、作品のそこらへんに漂う雰囲気にじわじわと喉元を締められていくような映画です。過激ではないのですが、なーんか嫌な映画。

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