カルトの狂気がもたらす一家残酷物語「ヘレディタリー/継承」

ヘレディタリー 継承

カルトに飲み込まれていく家族、といえばホラー映画でも比較的珍しくない題材だと思う。でも、この目の離せなさは何なのだろうか。2018年のアメリカ映画「ヘレディタリー/継承」のことです。

まず、一家の祖母・エレンの葬式から話は始まります。その娘のアニーと夫のスティーブ、ちょっとチャラつきたい年頃の兄・ピーターと寡黙な妹・チャーリーが登場人物です。

アニーがミニチュア作家という設定のため、実際の建物がミニチュアっぽく撮影される手法がとられていたり、現実とミニチュアの建物(一家の住んでいる邸宅と、アニーが作った自宅のミニチュア)がダブったりするのも面白い。

そしてチャーリー役の女の子のキャスティングがものすごい。むっつりしていて暗くて、頑なに閉じている性格をうまく演じている。最初男の子かと思ったくらい、女の子らしくない外見にしているのもすごい。しかも、この子は死んだ鳩の首を切り落として持ち帰るという歪みも持っているのです。

母が死んでから、なんだか胸がざわつくアニー。母からの手紙を見つけてしまうのですが、そこには「ごめんなさい」的なことが書かれています。何がごめんなさいなのか?
そしてその死んだはずのエレンがチャーリーの前に現れるようになります。そして、彼女にもだんだんと不思議なことが起こるようになってくるのです。なぜか死んだ祖母が彼女を呼んでいるようなシーンもあり、これは暗示なのか?と思わせられる。

実は、アニーの家系は精神病者が多く出ており、祖母も祖父も兄も精神病を患っていました。祖父は餓死(!)、兄は首吊りして死んでいます。アニーだけは精神病ではなかったものの、母との折り合いがやや悪く、母にチャーリーを育てさせることで関係を修正してきたような節があります。つまり、自分に向けられるものを娘のほうに向けさせ、アニーは仕事に没頭してきたという感じ。

ある日、ピーターは母に頼まれ、チャーリーを高校生のパーティにつれていくことに。しかし、パーティでアレルゲン反応が出てしまったチャーリーを連れ帰る途中、交通事故を起こしてしまうピーター。ドラッグでフラフラのままなんとか帰宅したのですが、彼は気がついていなかったのです。自分の妹の首がふっとんでいることに…
翌日、道端に落ちているチャーリーの生首を発見する通行人。これがもう、この映画を選んだことを後悔するレベルの禍々しさです。現実ではなさそうでありそうな、でもあったとしたらこんな悲劇はつらすぎるよなあという展開。

当然荒れ狂うアニーはいやいやながらも遺族の会に通うようになり、そこでジョーンという女性と出会います。
それでも現実を受け入れられないアニーはミニチュアで事件を再現するアートを作ったり(病んでる)、夢遊病になったりと大変な精神状態に。そして、降霊会をやって孫の霊と出会ったというジョーンの話を聞いて、自分も降霊をやる!と乗り気になってしまうのです。

その反面、ピーターが死ぬ夢、ピーターと自分にシンナーをかけて炎上させる夢など、ろくでもない夢ばかりを見るアニー。個展を予定していたのに作品をめちゃくちゃにしてしまったりと、どんどん不安定に。降霊会をやろうとするも、夫に怒鳴られ息子にも困られるなど、ヤバみを増していきます。

ですが、ジョーンの家でピーターの写真やチャーリーの私物を発見してしまったアニーは、一気に彼女を怪しむように。一方、ピーターは突然眼の前に現れたジョーンに「肉体から出ていけ」と謎の叱責を受けるのです。学校で勝手に体がぐにゃぐにゃに曲がってしまい、自分で自分の頭をガンガン打ち付けることになったりもするピーターくん、散々です。

実は祖母・エレンとジョーンは知り合い。というよりも、エレンが教祖でジョーンが信者のような関係だったのです。そしてアニーの家の屋根裏にはなぜかエレンの遺体が…??

夫はアニーが狂ったと思っており、ぜんぜんアニーの言うことを聞いてくれません。遺体も嫁が掘り返したと思っています。結果としてスティーブは自然発火して焼死してしまい、アニーも狂気に飲まれてしまいます。

帰宅して父の遺体を発見したピーター。しかし、天井に張り付く母に追い詰められ、なぜかどこからか出てきた裸の男女が彼をニヤニヤと笑います。
チャーリーがなぜか入り浸っていたツリーハウスに信者たちが集まり、そこに紛れ込むピーター。焼け死んだはずの父と、何かに操られている(既に死んでいる?)母も、信者と同じくひれ伏しています。ピーターはエレンと同じく、『器』に選ばれたのだ…というエンディングでした。

てっきり次の器としてチャーリーが狙われて、家族で結束して対抗する(でも負ける)みたいな話かと思いきや、まずチャーリーを殺して、それでできた心のすきを狙って家族をバラバラにして邪魔な両親を消し、ピーターを手に入れたというカルト宗教のサクセスストーリーなわけであります。ゾゾッ。

この家族は女性陣がとにかく不安定で、男性陣はその影響のせいかすごく冷めていて疲れている、という印象だったんですけども、だいたいみんなが平等にひどい目にあっているのはなんだかすごい。徹底して悲劇だ。

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