機能不全家族を暗喩?めちゃくちゃ後味悪い不条理ホラー『ビバリウム』

ずっと見たかった『ビバリウム』を見ました。ベルギー/デンマーク/アイルランド映画。2019年。

不条理ホラー?SFホラー?

とにかく、後味が悪い。この後味の悪さは『マザー!』に似ている。

シリアスなジェシー・アイゼンバーグを久しぶりに見られて嬉しかったし、イモージェン・プーツって本当にかわいい。『グリーンルーム』(ネオナチ軍団とパンクバンドで生死を賭けた大喧嘩をするトンデモネー話)、最近では『ブラック・クリスマス』にも出ていたな。

ダブル主演かと思っていたのですが、ほぼイモージェン・プーツの独壇場だった。『ゾンビランド:ダブルタップ』も同年公開されていたし、撮影時期がかぶっていて出番があまりとれなかったのか?コロナ的な事情なのか?

でも、この映画の裏テーマを考慮すると、だんだんとそうならざるを得なかったのだろうと理解も深まっていきます。女性が主軸にならざるを得ない構成なんですね。

そもそも、この『ビバリウム』は、若いカップルが物件の内見にやってきて、そのまま新興住宅地から出られなくなってしまうというストーリー。他に住人はおらず、おまけに段ボール入りの謎の赤ん坊まで届けられます。「育てたら出られる」というメッセージに従い、急激に成長する子供を育てる羽目になる2人ですが…

「出られない」「2人きり」という閉塞感。娯楽は一切なし。映画も音楽も本も、なーんにもない。

そして、まるでヒキガエルのように首の横を膨らませることができ、思い通りにいかないと叫びまくる子供へ募る恐怖。

トムは父親になることを放棄し、ひたすら家の庭に穴を掘って逃げるためのヒントを探します。

しかしジェマは母親のように子供に接して、子供に寄り添おうとします。

そのせいで2人に生まれる溝。

しかし、成長しきった子供は正論でジェマを翻弄し、その不気味さが彼女を苛みます。トムの言うように、子供のうちに彼を殺しておくべきだったと思うジェマ。

しかし、トムが体調を崩して死去。ジェマは青年に成長した息子に助けを求めるも、何もしてくれません。ストレスをためたジェマは息子を襲って殺そうとしますが、ここからがすごい。

襲われた息子は歩道の縁石をめくりあげてその中に滑り込みます。アンタ、トムとジェリーか?と言いたくなるような謎展開。後を追うジェマ。彼女は縁石の中にある不可思議な家の中を転がり、床にめりこみ、さまざまな部屋を通過していきます。

そこにはトムとジェマのように、住宅地に閉じ込められている人たちがいました。奇妙な子供に怯える女性や、子供の手拍子に合わせて夜の営みをさせられているカップルなどがいる空間を通過しながらも、ジェマも致命傷を負い、息子の前で息を引き取ります。

息子はトムの掘った穴の中に2人の遺体を放り込み、ジェマの車にガソリンを入れて乗りこみ、ある場所へ。

そこはトムとジェマが冒頭に訪れた不動産屋。2人を新興住宅地に案内した不動産屋は既に老いており、トムとジェマに育てられた青年の姿を見た瞬間に息を引き取ります。すると彼は名札を引き継ぎ、遺体を始末し、また新たなカップルを新興住宅地に案内していくのです…

まあ、シリアスなシーンなのに手拍子で腰を振らされているのにはちょっと笑ってしまったのだが。園監督の『トーキョーヴァンパイアホテル』でもそんな展開あったな(ヴァンパイアが人間の営みを急かすために手拍子する)。

機能不全家族を暗喩しているのか?(自閉症の子供、仕事に没頭して息子に向き合わない父、その様子に反発して懸命に育てる母…みたいな感じ)とも思ったのですが。結局子供は母親の望むような人間に育たず(正常な発達をしていないというわけではなく、むちゃくちゃ嫌な奴に成長している)、子育てへの後悔で夫婦の絆が取り戻されるという展開に。

これは家族の在り方として違うしな。子供=トムとジェマ共通の敵、みたいに描かれていたし。

子役の演技がすごかったです。

たま~にかわいいのですが、だいたいがめちゃくちゃ不愉快で奇妙。私は吹替で見たのですが、声優も子供らしい声ではなく、あえてちょっと大人らしい声で拭き替えていたから、奇妙さが増していた。大人のしゃがれ声で話す子供、みたいな感じですかね。

すべてが緑色の住宅地、生活感のない部屋、味気ない食事、動かない雲。ビジュアルが整っているが故の恐怖ってありますね。

そして、謎の生命体。彼らはカップルをさらってきて子供を育てさせ、その子供をまた住宅地の外に出して人を誘拐させるというループを作っていたのですが、その目的も正体も不明のままです。でもそれはそれでよいと思う。

そういえば、冒頭はカッコウのヒナが出てきました。巣から他のヒナを押し出して、親鳥のエサを独り占めにする姿が強調されていたのですが、このカッコウ=カップルに育てられている子供、みたいなことなのかな。ビバリウムも、直訳すると(動物の)飼育場って意味らしいですね。

ずらりと並べられた住宅地は“それ”を育てるための飼育場だったのか…そう考えると養鶏場っぽいビジュアルかもしれないですね。

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