「ヒメアノ~ル」

himeanoru

2015年の邦画「ヒメアノ~ル」を見ました。公開時のキャッチコピーが「めんどくさいから殺していい?」。
・監督は吉田恵輔監督
・主演はV6の森田剛
・原作は古谷実

吉田監督の映画はほとんど見させていただき、さりげない悪意、無意識の甘えみたいなものを描くのがうまい方だなあという印象だったのですが、今回は原作への愛のほうが勝ってしまった。つまり、う~んと思ってしまいました。
あとで原作と本編との違いをざっくりまとめましたが、個人的には原作のほうが好きです。原作ではのんびりしているシーンと殺人や暴力のシーンが入れ違いにやってきて、映画ではセックスと暴力が入れ違いにくる感じ。なんだか、本質的に違うものを表現しているのだと思う。

あらすじ

「さんかく」「麦子さんと」の吉田恵輔監督がカルト的人気を誇る漫画家・古谷実の問題作を、主演に「偉大なる、しゅららぼん」の濱田岳とV6の森田剛を起用して実写映画化した衝撃のサスペンス・スリラー。ひょんなことからヒロインと思いがけない恋に落ちた冴えない青年が繰り広げる甘いラブコメ展開と、対照的にヒロインをつけ狙う森田剛扮するサイコパスな殺人鬼によってもたらされる戦慄の恐怖が交錯していくさまをスリリングに描き出す。共演は佐津川愛美、ムロツヨシ。
ビル清掃会社でパートタイマーとして働くお人好しの青年・岡田は、夢も希望もない退屈で孤独な毎日を送っていた。ある日、職場の風変わりな先輩・安藤にキューピット役を頼まれ、彼が思いを寄せるユカが働くカフェに向かう。するとそこで高校時代の同級生・森田正一と出会う。かつて酷いイジメに遭っていた森田だったが、すっかり別人の雰囲気になっていた。そんな中ユカから、森田が店に現われるようになってから、彼女の周りで妙な出来事が起こるようになったと聞かされる岡田だったが…。
http://www.allcinema.net/prog/show_c.php?num_c=354629

登場人物

(※映画におけるキャラクター設定を表記します)
森田(森田剛):高校での過剰ないじめ、加害者の殺害を経て精神的に歪んでしまった。上京したもののパチンコをして暮らしているようで、ユカに目をつける。
岡田(濱田岳):清掃員のアルバイトをしている。人生の目的がなく、それをコンプレックスに感じている。童貞。
ユカ(佐津川愛美):カフェでバイトをしている。安藤に片思いをされるが、岡田に一目惚れをしていたと告白し、隠れて付き合い始める。
安藤(ムロツヨシ):森田の先輩であり、正社員。ユカにフラれ、岡田とユカが交際していることを知って彼と絶交を宣言する。

ネタバレ

himeanoru1

・清掃のバイトをしている岡田。ミスをきっかけに、安藤と親しくなる。
・安藤が片思いをしている女の子・ユカを見に行った際、そこに同級生の森田がいたことを目撃する岡田。思い切って話しかけるが、ウソをつかれてしまう。安藤は森田がユカのストーカーだと言い張る。
・岡田は安藤の代わりに、ユカを見張ることになる。だが、それをユカに見咎められ、森田の知り合いではないかと問いただされる。彼女には本当にストーカーがおり、無言電話や郵便の抜き取りなどの被害にあっていた。悩むユカと、岡田は親しくなっていく。
・ストーカーの存在を知り、張り切る安藤。安藤と岡田は、森田が来ないか張り込みをすることになる。だが、森田は姿を現さない。
・森田と岡田は居酒屋に飲みに出かける。ここで、森田がユカのいるカフェに何度も言っていることが発覚し、嘘がバレる。だが、森田は悪びれないし、それをさらりと流してしまう。岡田はしゃべり続けるが、森田は前向きに生きようという岡田の言葉を全否定し、「俺もお前も底辺、そこから抜け出せない」「他の人間とは違う(ダメな部類の人間だ)」と語調を荒げる。
・安藤は、ますますユカに夢中になる。
・森田は高校の同級生の和草に電話をし、金をせびる。彼は森田に金をとられていることを、婚約者に知られてしまう。

・安藤と岡田、ユカとその友達でWデート。だが、ユカの友達は性格が悪く、盛り上がらない。そこでユカが今片思いをしていることがわかる。
・ユカに、安藤の代わりに告白する岡田。だが、その場でユカが岡田のことが好きだとわかる。しかも、それを安藤に立ち聞きされ、2人ともその場から立ち去ってしまう。岡田は困惑して、その場に残る。

・安藤の無断欠勤が続き、自宅を訪れる岡田。だが、安藤は親友の岡田がユカと付き合うわけがないと信じており、「裏切ったら殺す」ということをほのめかされる。その部屋にはチェーンソーがある。
・だが、ユカと岡田はこっそり付き合い始めていた。
・和草は婚約者に、高校時代に河島という同級生に森田と和草がいじめられていたこと、そのいじめっこを復讐で殺したこと、それ以来森田は頭がおかしくなり、人が変わったようになったことを告白する。

・安藤はまだ、ユカを諦めていない。その裏で、ユカと岡田はデートをしている。その日にお泊まりをして、コンドームを買い、イチャイチャしながらキスをして、セックスする2人。だが、そのユカのアパートを、森田がじっと眺めている。ユカの嬌声が響くなか、タイトルとキャスト名が登場する(ちなみに、BGMがめちゃくちゃ怖いです)。

・森田は和草に電話をかけ、岡田を殺すと宣言する。そして、彼に手伝うように命令する。
・岡田はセックスした後、ユカの経験人数や初体験の年齢と問いただす。自分と全然違う(恋愛経験豊富な)ユカにショックを受ける岡田。
・和草は自首しようとするが、婚約者の久美子は「あなたが捕まるのはおかしい、森田を殺すべきだ」と主張する。
・すねる岡田だが、ユカのテクニックに懐柔されてしまう。
・和草は久美子と東京に向かう。河島を殺した後、森田が自慰をしていたことを思い出す和草。和草は森田の家につき、彼に飛びかかる。だが、森田も力が強い。久美子がもたもたしているうちに、彼は和草の首に鉛筆を刺して殺してしまう。そして、森田は久美子も撲殺する。久美子は殴られて失禁しながら死亡する。 獣のようにまぐわう岡田とユカに、久美子を殴り殺す森田の姿が混ざり合って、重なっていく。
・森田は和草と久美子にガソリン(ライターオイル?)をかけ、そのままアパートを燃やしてしまう。

・森田はその足でユカのカフェに行くが、そこには岡田と安藤もいる。彼は立ち去る。
・火事に巻き込まれ、結局森田のアパートでは3人が死んだ。そのニュースを見ている森田。
・駅で暴れる森田を、通りすがりのOLが笑う。だが、そのOLが帰宅すると森田が後から侵入し、彼女の衣服をはぎとる。だが、彼女が月経中だということがわかり、下着についているナプキンを見て興ざめする。
・森田はパチンコをしているが、大当たりする。しかしその金をカツアゲされてしまい、イライラしてユカの部屋のドアを蹴りつける。隣人が彼を注意すると、森田はそこを去る。
・その頃、ユカは岡田の家に泊まっていた。大人のおもちゃや元カレのことで口論をする2人。

・満喫にいる森田は、ヘッドホンをアイマスクをして寝ていて、いじめのことを思い出す。エアガンで撃たれ、犬の糞を食わされた記憶。聞こえないはずなのに、どこからか「うんこ食えよ!」という声が聞こえる。森田は自分の耳を殴り続ける。
・ユカの部屋の隣人は、不審な男が来ていたことをユカに告げる。ユカはドアの足跡を見て凍りつく。
・安藤はユカに告白すると言い出し、岡田は真実を彼に告げる。
・その一方で、ユカは岡田の家に避難することになる。
・あるサラリーマンの男性が、自転車で家に帰宅する。彼がリビングに行くと、カレーの匂いがする。だが、それを食べているのは森田だ。彼の足元には、ほぼ裸の男性の妻が絞殺され、倒れている(性被害を連想させる)。男は逃げようとするが、森田にめった刺しにされる。男を殺した森田は、そのまま何もなかったようにカレーを食べ続ける。

・岡田のカミングアウトがショックだった安藤は、逆モヒカンのような髪型に突然してきて、上司を激怒させる。
・森田は件のカレーの豪邸で眠ってしまったが、そこに警察官がやってくる。連絡がとれない家の人を心配して、警察に届けが出されたのだ。庭に何かを埋めた跡があることに気付く警官。森田は自分のズボンの後ろに包丁を隠し、警官を中に入れる。家の主人の弟だと言い張る森田だが、台所にある血まみれの衣服(肉片?)を警官に見られ、彼を殺してしまう。そして、警察官の銃を盗む。「殺せ、殺せ」という声が彼を責め立て、駆り立てる。
・だが、森田が探すユカはバイトをやめ、家も引っ越していた。ユカが住んでいた部屋の扉をまた蹴る森田。隣人がまた出てきて通報すると言い出すが、彼は銃を取りだす。躊躇なく撃つ。森田は顔に軽いケガをしただけの隣人の家に入り込み、頬を撃ち、次に頭を撃ち抜く。
・岡田は警察に呼ばれ、森田が殺人犯だと知る。そして、和草も殺されていたことをも知る。

※ここから、原作と異なるオリジナルラストとなります

・岡田を待ち伏せしている森田を見つけた安藤は、彼を怒鳴る。彼につきまとうがそのまま撃たれ、安藤は倒れてしまう。
・安藤は緊急入院した。安藤の回復を待つ岡田は、ユカに高校入学当時は森田と仲が良かったこと、いじめが始まって距離をおいたこと、河島に命令されて森田に嘘をつき引きこもっていた彼を登校させたこと、そしてその結果、森田は女生徒の前でズボンを脱ぎ、自慰をさせられたことを告白する。それを、岡田も笑ってみていた。岡田は自分がいじめられるのが怖くて、傍観者になったのだ。
・安藤は目を覚ますが、岡田を怒っていない。「俺らは、親友だよね」とつぶやく。
・森田は弾のなくなった銃を川に捨てている。

・ひとりで帰宅するユカ。だが、風が彼女の髪の毛を揺らす。顔を上げると、窓ガラスが割られていた。逃げようとしたら、もう森田がそこに立っている。
・岡田は、彼の母が騙されて森田に現住所を教えてしまったことを知る。慌てて通報し、家に帰る岡田。
・森田はユカを脱がせ、抵抗する彼女をボコボコに殴りつける。そこに走り込む岡田。森田の首を絞めて対抗するも、もみあいになる。「こんなことをやめろ」と説得する岡田だが、森田は「お前ら殺したらやめてやるよ」と言う。
しかも岡田は森田が河島の件で自分を恨んでいたと思っていたが、森田は岡田のしたことを何も覚えていない。森田の包丁を枕で受け止める岡田。パトカーがやってくる音がする。森田と岡田はさらに揉みあい、窓から落下する。

・森田は岡田を人質にして、たまたま停車していた車を盗んで逃げる。運転手をめった刺しにして、警官に車でぶつかり、道に倒れた人(めった刺しにした運転手?)の頭の上を通過して逃走する車。パトカーが後を追う。 岡田は森田を説得するが、足をめった刺しにされる。
・だが、たまたまいた散歩中の犬を避けようとして車は電柱に激突してしまう。 森田は意識が混濁し、高校入学当時の森田に戻っている。彼はぼそぼそと呟く。
「岡田君?岡田君、来てたんだ。借りてたゲーム、返さなきゃ(ダッシュボードを探る)。おかあさ~ん、麦茶、2つもってきて~」
そこで、森田は警官に運転席から引きずり出される。岡田は、森田の右足が事故でちぎれてしまっていることに気が付き、驚愕する。 
「岡田君、またいつでも遊びに来てよ!」 ものすごい笑顔で警官に連れ去られる森田。岡田はまぶたを閉じ、白く溶けていく(なんだこの描写)。

2人の出会い。

夏休みの思い出。制服姿でゲームに興じている森田と岡田。森田は「おかあさ~ん、麦茶、2つもってきて!」と叫ぶ。軒先には、彼が轢き殺しかけてとっさに避けた犬に似た白い犬がつながれている。

映画と原作との違い

感想の前に、原作との違い。 ざっくりと原作ベースで映画を比較してみた。
(長文なので、総合的にまとめたものがご覧になりたい方はこの下にある「総合的なまとめ」をご覧ください。)

・映画では森田がパチンコ屋で出会う、元警官は登場しない(1巻~2巻)。そのため、彼が持ち掛けた殺人事件のくだりも登場せず、森田がこの元警官を殺すエピソードもない。そのため、和草がこの元警官の死体を処理するのを手伝うエピソードも存在していない。
・原作では、岡田が安藤との仲直りを同僚のおばちゃんに命じられる。映画では、そのくだりは登場しない。その代わり、職場関連の登場人物は全て統合され、物語に必要な展開は2人の上司(大竹まこと)が担う。原作でも上司は登場するが、気弱な男性である。映画ではかなりきつい口調で安藤を怒鳴りつけるなど、違うキャラになっている。
・原作では、岡田はユカを振ろうとするも、号泣されてたまに遊ぶことを自ら提案する。映画では、ユカから「黙って付き合えばわからない」と提案される。
・映画では、安藤の家に泊まる女子高生(2巻のみ)は登場しない。そのため、安藤はむちうちにもならない。
・映画では、安藤は風俗店に行っていない。そのため、風俗嬢やその彼氏も登場しない(2巻~3巻)。
・原作では、森田は和草に自分が女性の首を絞めると興奮することを告白している。そして、「自分が人の首を絞めないと興奮できない」ことに「生きている意味がない、存在価値がない」と絶望感を抱いているふしすらある。だが、映画ではこのシーンはない。
・原作では、ユカと岡田はデート即お泊まりとはならない。キスシーンやユカが道端で岡田におっぱいを見せるシーンもカットされている。
・映画では、安藤が好きになる同僚・山田が登場しない(3巻のみ)。そのため、安藤が彼女にフラれる場面もない。
・原作では、森田は道を歩いていた女性の家に押し入るも、すぐに友人や彼氏がやってくることを知り、逃亡している。映画では、この女性が森田をバカにしたこと、生理中である描写などが加えられている。 なお、原作では森田はユカに執着しており、他の女性を積極的に強姦して殺そうという描写は見られない(「知らない女を殺したことがない」という動機で、前述の女性を襲っているが、彼の目的はあくまで「首を絞める」に位置付けられている)。だが、映画においては、かなりはっきりと性被害の描写や女性の裸が登場する。
・原作では、ぎっくり腰の安藤が岡田とユカの交際を許可する場面がある。だが、映画にはない。
・映画では、森田に協力するホームレスも登場しない(3巻~4巻)。原作では森田がホームレスを騙し、岡田がユカをDVしている男だと信じ込ませ、彼を連れ去る計画に協力させようとしている。しかし、それは和草の奇襲によって失敗する。原作ではそのまま、ホームレスが和草と久美子の死体を遺棄する手伝いをする。 ただし、この作品において森田の本性を知りながら殺されていないのは、岡田とユカを除き、このホームレスの男性のみである。
・原作では和草は森田に包丁で刺されて死亡しているが、映画では喉を鉛筆で突かれている。
・原作では久美子は車で待機しており、森田に騙されて呼び出しを受け、包丁で殺害される。映画では和草とともに部屋に侵入するも、彼女の不手際で和草が森田に殺されてしまう。殺され方も撲殺であり、失禁などのショッキングなシーンが挿入される。

・映画では久美子を殺害する森田、ユカとセックスする岡田が交互にシーン挿入されるが、原作ではそのようなセックスと暴力・殺害、つまりは生と死を重ねるような描写はない。

・映画では、森田に声をかけ自宅に連れ帰る精神病の女(4巻のみ)は登場しない。この女性は女性を物色するという不審な行動をしていた森田を豪邸に連れ帰り、依存する。彼女は死にたがっており、森田は彼女を殺すことを提案するが、彼女はそれに明確な回答をしていない。彼女は森田にATMの番号を聞かれ、答えるのを拒否したことで殺される。彼女は死にたがっていたのに、森田によって殺されることには抵抗している。彼女の衣服に涙がこぼれた跡が書き込まれている。 映画では、この女性ではなく、豪邸に住んでいた夫婦(カレーライスのくだりの夫婦)が代わりに登場している。だが、この家からは森田は金を持ち出していない。
・映画では森田が自慰をさせられるシーンがあるが、原作では屋上から立小便をさせられている描写がある。だが、森田はえいがとはそのことをまったく意に介しておらず、河島は彼の異常性をからかっていた。
・映画には、安藤に恋するスポーツインストラクター・織田は登場しない(4巻~6巻)。原作では安藤は織田と出会い、交際に発展する。その一方で、織田のストーカー(4~6巻)につきまとわれ、この男が包丁を持ち出すなど別騒動が起きる(だが、安藤は彼とPK勝負をした後になんとなく和解しているので、包丁を出させるほどストーカーを怒らせたのは別の人物である)。ただし、このストーカーは後日、岡田と安藤の同僚バイトとなり、安藤とは作業のペアを組むことになる。その時にも非常に頭がおかしい人物だということはわかるが、森田と比べるとコミカルなキャラクターである。 原作ではユカと付き合っていることを告白した岡田に、安藤が発狂するものの、自身がすぐに織田に告白されたため、事態は急展開している。
・映画には、森田がユカを監視していることに気が付く漫画家(5~6巻)が登場しない。彼は同じ店に居合わせた森田がストーカーではないかと気が付き、興味本位で尾行。ユカのアパートを包丁を持って訪れたところを目撃してしまう。そのため、ポストに警告文を入れる。岡田はそのメモを見て、ユカと共に引っ越すことを決意するため、彼は岡田とユカを助けた張本人である。 さらに、漫画家は精神病の女性が殺されたことも突き止め、彼の生活習慣も把握。通報する。だが、その通報で訪れた警官は森田に殺されてしまう。ここは映画とほぼ同じシーンであるが、原作では森田が彼を招き入れず、警官はそのまま家に侵入して殺されている。映画では、森田が彼を家に入れている。 漫画家は最終巻まで登場するが、たびたび出くわす森田に直接忠告をして、殺人をやめるように言う。だが、警察官から奪った銃で殺され、側溝に死体を隠される。
・原作では、森田は精神病の女の家でアイマスクをつけて眠るようになる。だが、映画ではアイマスクを愛用しているようである。
・原作では、森田は幻覚を見るようになる(5巻から)。映画ではそれが幻聴という形で続いている。
・映画では森田を目撃するのは安藤だが、原作では岡田である。原作では、岡田からタクシーで逃亡している。
・映画でも原作でも、ユカの隣人は殺害される。だが、原作では「10人で終わりだ」と自身の殺人について語ったり、隣人が「お前は病気だ」と主張しても彼なりの論理を展開するなど、森田の人格を知ることができる会話が続く。また、彼が殺された後、隣人男性を心配した友人が彼の家を訪れた描写や、連絡のとれない彼を心配する仲間たち(両思いの女性含む)がある。なお、彼らが隣人男性の死を知るシーンは描かれていない。 ちなみに、原作ではアパート外の通路で2発、部屋内で1発発砲しているが、映画内では通路で1発、部屋内で2発発砲している。隣人男性が撃たれる描写も、映画内でははっきりなされている。
・原作では、岡田はユカとともに横浜に転居する。映画では直接襲われるため、転居自体が実現しない。そのため、原作では岡田とユカは森田に直接暴力などの被害を受けていない。
・原作では、追い詰められた森田が幻覚に翻弄されながら、「普通でないことに気が付いた日、泣いた」ことを告白している。そのため、うたたねをしていた森田は逮捕直前に涙を流している。

総合的な違い

・安藤に関連するキャラクター(安藤の家に居候する女子高生や彼が好きになった風俗嬢と同僚、彼と恋人になる織田、そして織田を好きだった男など)、森田が殺害するキャラクター(元警官の伊藤、豪邸に住む女、漫画家の男)などが大幅にカットされている。

・原作ではもうひとりの主人公のような存在である安藤は、映画では単なる「ユカと岡田を出会わせる人」「岡田をかばったいい人」の役割となっている。コミカルな印象は両方とも強いが、安藤特有の「アホでバカな理論」はほとんど見られない。
・原作では岡田とユカの関係は初々しいカップルという印象が強いが、映画ではユカの経験にかなり嫉妬する場面が見られる。セックス描写もふんだんに盛り込まれており、ユカ役の女優さんがギリギリまで露出していることからも「生々しさ」を強調しているように思える。
・もっとも大きな違いは、岡田と森田の関係性とラストである。
原作では岡田は森田とあまり仲良くないが、映画では『元親友』という位置づけがされている。河島のいじめに岡田も加担していたような描写は原作には見られず、むしろそのいじめすらほぼ覚えていないというほど薄い関係である。この「顔見知り程度だった人間が自分と恋人のことを恨み、ひたすら付け狙う」ことの恐怖、日常が恐怖に侵食されるさまがヒメアノ~ルのキモである。しかし、映画はそれとは違う恐怖を描いている。
・女性を襲って性行為を強要するシーン、女性の胸や尻、自慰のシーンなどの性的描写のシーン、糞を食べさせられるシーンや自慰強要などのいじめシーン、銃やバット、包丁を使用した殺害シーンなど、原作よりも性と暴力が強調されている。
特に、森田は「女を襲って殺す」ことに執着しており、「首を絞めて殺す」ことに執着する原作とは意味合いが異なる(原作では、河島の首を絞めて殺した時にも興奮したことを独白している)

・映画では安藤が森田に撃たれるシーンや、入院して仲直りをするシーンが挿入されているが、原作ではこのような描写はない。原作では心配しているものの、巻き込まれることはない。これは安藤が「ゆるゆるの日常」を担当する役割だからだろうか?
・映画では森田がユカを襲撃し、それを岡田が助けに来て2階から落下、逃亡するシーンもない。原作では、横浜に逃げた岡田とユカに「隣人が殺された」ことが一報として入り、岡田が事情聴取に協力するシーンがあるが、それ以降岡田は登場しない。最終話は森田のみのエピソードとなる。
映画のラスト「直接ユカを襲い、岡田と揉みあいになり、岡田を人質に逃げるも交通事故で意識混濁。昔の森田に戻る」というまったく異なる展開は、原作ファンを驚かせるに十分だろう。

・もうひとつ、追記しておきたいのが森田の内面についてである。原作では「当初は人の首を絞めないと興奮できない性癖に絶望した」が、その一方で今では開き直ってる。幻覚のなかでも、自分がおかしい人間だということは自覚しているが、どこかそれを「おれだってかわいそうな人間なんだ」と思っているフシがある。
映画においては、いじめの経験からくる精神の歪みが原因かと思われたが、そうではないことが発覚した。一方、はっきりとした幻聴に悩まされて、その言葉に従う描写もあり、明言はできないがおそらく精神病(統合失調症?)であることが推察される。

まとめ

・なんでこんなにたらたら考察したんだ、私は。
・とりあえず、ジャニーズっていじめられっ子に見えないんだよなあ……それにああいうタイプってむしろ「おさわり禁止」な人じゃないでしょうか。
・森田さんの下半身がすごく細くて驚きました。それが気になって、気が散った。
・この、ぼんやりとした不満がうまく表現できない。原作を読んで震えたあの感じが、映画を見て感じた印象と全く異なる。最終話で「普通ではないことに気が付いた日、泣いたんだ」という場面がすごく印象的で、でも、映画はただただサイコキラーを恐れるという印象。
・個人的にはこの手のエッチなシーンを見るのがしんどい。 「かわいそう」とかそれ以前に、なんだかぽかんとする気持ち。
・ユカちゃんが最後、ブラにパンツにストッキングという姿になっていたのですが、なんかシュールでした。ああいう時ってどうするの?ブラを先にとったらTHE江頭スタイルになるけどいいの?
・殺人鬼は犬が好きだった。だから人間は殺せても犬は轢かなかった!っていうのもどうなんでしょうか。
・「お母さ~ん、麦茶2つもってきて~!」って自分の中ではやりそう。 でも、麦茶は自分で入れてお友達に出してあげるべきだと思うわ。

・ラスト間際、目を閉じて真っ白な画面に溶けて行った岡田君はなんだったのでしょうか。「アイアムアヒーロー」でも見たけど、この演出だけは大嫌い。この描写が許されるの美少女だけ。
・原作のゆるいけれどキツい、でもそれが現実って感じの日常パートが全カットで、なんか重苦しい雰囲気がひたすら続くのがつらい。暴力・セックス・暴力・セックスのミルフィーユ。最後に犬もってきただけじゃ、気持ちは晴れないですよ……。