「喰女‐クイメ‐」

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2013年の映画「喰女‐クイメ‐」。個人的には「オーディション」ぐらいに好きな話なのですが、あまりに話題になっていないのが哀しい。ちなみに英語のタイトルは「over your dead body」。

あらすじ

「一命」に続き、主演・市川海老蔵、監督・三池崇史、脚本・山岸きくみの3人が再びタッグを組んで贈るホラー作品。“四谷怪談”をモチーフに、俳優たちが演じる芝居の世界と彼らの実生活が交錯していく愛憎の顛末を描く。共演に柴咲コウ、伊藤英明、中西美帆。

スター女優・後藤美雪がお岩を演じる舞台『真四谷怪談』が製作されることに。相手役の伊右衛門には、美雪の強い薦めで彼女の私生活での恋人でもある長谷川浩介が大抜擢された。稽古が進む中、美雪のおかげで初めての大役を掴んだにもかかわらず、長谷川は共演者の新進女優・朝比奈莉緒に手を出してしまう。やがて愛する男に裏切られた美雪=お岩の情念は、次第に現実と舞台の境を越えて重なりはじめ…。
http://www.allcinema.net/prog/show_c.php?num_c=347267

ネタバレ

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冒頭からセックスシーンから始まる。
スター女優の美雪は、俳優の浩介と交際している。真っ白で無機質な部屋。

2人は「四谷怪談」の舞台稽古をしている。お岩の父を殺し、その死体を蹴り込んで隠蔽してしまう伊右衛門。お岩と結婚するが、その生活は明るいものではない。

「結婚して子供がいたら、幸せなのかな?」「幸せなんじゃない?」と会話をする2人。

DVのシーン。蹴り飛ばされるお岩。

次の瞬間、「大丈夫?やりすぎた?」と浩介は心配している。しかし、美雪は立ち上がれない。代役を立てて、芝居は続けられる。伊藤英明演じる順が、美雪をなぐさめに来る。美雪は具合が悪そうだ。しかし、マイコ演じる彼女の付き人に浩介は「いつでも代役OKだね」と優しく囁いている。それを見ている美雪。

伊右衛門は、姫と名乗る高貴な女性に呼び出される。姫は伊右衛門が気に入ったらしい。

この姫を演じていた莉緒が、美雪のもとに挨拶しに来る。宣戦布告にも聞こえる内容に「あなた、いい度胸してるわね」と呟く美雪。莉緒は平然と出ていく。
浩介は駐車場から車を出していく。しかし、その後部座席には莉緒が隠れている。
美雪は倉庫でかんざしを見ている。その横にある人形は、はらはらと涙を流していく。
浩介と莉緒は浮気をしている。
浩介から連絡が来ない莉緒は、鏡に頭を叩きつける。

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別日。浩介はふらりと美雪の家を訪れる。彼女の家のゴミ箱を漁る浩介。そこからは、陽性の妊娠検査薬が見つかる。

舞台稽古のシーン。お岩は伊右衛門に尽くしている。子供の顔を見て「伊右衛門さまを見て、笑っておりまする」とほほ笑む。しかし伊右衛門はうわの空だ。体調が悪いお岩のために、姫の女中が薬をもって現れる。もちろん、それは毒薬だ。
「殿方は皆、醜いものはお嫌いになられる」と笑っている。

稽古が休みの日。美雪の家には誰も来ない。ぐちゃぐちゃになったトマトソースの何かが食卓に飛び散っている。美雪の口元にもソースがべっとりとついている。
妊娠検査薬が、ゴミ箱にたくさん詰まっている。

莉緒は資産家の娘らしい。浩介と寝た後、彼に俳優をやめて自分の父の会社を継ぐようにそそのかしている。

美雪は薬をたくさん飲み、キッチン用品を煮沸消毒している。そしてシャワーを浴びながら、自らの子宮に肉焼きフォークを突き刺していく。

工事現場の手前で、ぼうっとしている浩介。ふと気が付くと、自分の横にお岩のようにやつれた美雪がいる。美雪は車の目の前に立っていて、ガラスを割って入ってきて彼の首を食いちぎる!しかし、それは彼の夢だった。

浩介は美雪の部屋に帰る。部屋中にラップが巻かれており、まるで違う部屋のよう。床には赤い何かが落ちている。ベッドには、手も下半身も血まみれの美雪がいる。「寝れば治るから」と病院を嫌がる彼女。「それとも、する?」ととんでもないことまで口走る。
「私が至らぬばかりに、申し訳ないことでござります」
彼女はお岩のセリフを繰り返すばかりだ。

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彼女抜きで稽古が行われる。顔がふくれ、髪が抜けていくお岩。彼女に焦がれていた醜い男に強姦までされてしまう。しかし、それを伊右衛門が見ていた。この時代、間男と通じている妻は重い罪に問われた。だからこそ、伊右衛門は間男も、嫁も、子供すらも殺してしまう。もちろん、間男が彼女を襲ったのは伊右衛門の指示だ。彼女に贈ったかんざしを、足元に捨てる伊右衛門。木につるされた間男とお岩が、舞台上でくるくると回っている。

姫との初夜。耳をべろべろと舐める姫だが、気が付くとお岩に変わっている。思わず斬り殺す伊右衛門。だが、それはやはりお岩だった。
だんだんと舞台と現実がリンクしていく。
稽古場にお岩の扮装の美雪が現れ、「この恨み、はらさでおくべきか」と呟く。彼女は目玉を抉り、浩介の首に噛みつく。浩介の生首が転がる。

と、工事現場の照明があたりを包む。気が付けば、そこは浩介が美雪の幻影を見た場所。そこには浩介の車があり、彼が事故を起こしたことがわかる。機材が彼の首を切り落としてしまい、体だけが社内に残っている。だが、生首はどこにいったのか見つからない。

稽古場。浩介の夢とは反対に、そこには浩介の姿だけがない。皆が訝しがっている。
美雪は「このお芝居、何があっても幕は開けて下さいね」と微笑む。
順は「早く終わったら飲みに行こうよ」と誘うが、既婚者の彼を「早く終わったら家に帰りなさい」といなす美雪。彼女のメイク台の下には、何かが入ったビニール袋が置かれている。それはちょうど、生首と同じくらいのサイズに見える。彼女は笑みを絶やさないまま、それを奥へ奥へと足で踏みつけながら押し込む。

 

舞台のシーンも緻密で見応えがあり、ラストも意外すぎるところに着地。何より、美人がホラーを演じるとここまでコワイのかと思わせられる。「四谷怪談」では女を裏切る男の罪深さ、本編ではそれを凌駕する女の怖さを思い知ることができる映画です。