「ザ・ゲスト」

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2014年のアメリカ映画「ザ・ゲスト」を見ました。主演のダン・スティーヴンスさんは「ナイトミュージアム」の最新作にランスロット(騎士)の役で出ていた方だそうです。この映画ではワイルドなイケメンを演じております。
何に似てるって、ライアン・ゴズリングの「ドライヴ」とビジュアルが似ているのよね。

 

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2011年の「サプライズ」でホラー・ファンの注目を集めたアダム・ウィンガード監督が再び脚本のサイモン・バレットとタッグを組み、謎めいたイラク帰還兵の青年を主人公に描く衝撃のサスペンス・ミステリー。主演はTV「ダウントン・アビー」のダン・スティーヴンス。

イラク戦争で息子ケイレブを亡くし、悲嘆に暮れるピーターソン一家。ある日、そんな一家のもとを一人の青年が訪れる。デイヴィッドと名乗るその青年はケイレブの戦友で、彼の最期の言葉を伝えるためにはるばるここまでやって来てくれたのだ。一家はこの礼儀正しい好青年を家に招き入れ、ゲストとしてもてなすことに。こうしてピーターソン家にしばらく滞在することになったデイヴィッドは、家族の問題を一つひとつ解決していき、彼らの心を捉えていく。そんな中、長女のアナは徐々にデイヴィッドに対する違和感を抱き始めるが…。

http://www.allcinema.net/prog/show_c.php?num_c=350232

 

残念ながら同監督の「サプライズ」は脳天をミキサーでシェイク!というシーンと、主人公の女子が無双しまくっていたこと しか印象に残っていないのですが、この作品はどうでしょうか。
脚本のサイモン・バレットは「V/H/S」シリーズで脚本や製作をやっていらっしゃいますが、それぞれのエピソードをつなぐ軸の部分の脚本を書いているようなので、まぁ……あの……プロデュース能力があるってことだよね!

息子のケイレブを失い、悲しんでいる家族。
そこに現れる謎のイケメンマッチョ。好青年で爽やかで、優しくて。すぐに家族や周辺の人々を魅了する彼ですが、実は……という、あるある話。

この手の「謎の男の来訪」がテーマの作品の場合「なぜ、彼はこの街にやってきたのか?」「正体は何なのか?」という、その男そのものに秘められた秘密、からくり、彼を駆り立てた原動力。そして、この男の殺しのテクニック、という2点に注目したいものであります。

正体そのものはなんでもいいと思うのです。「ヴァンパイアだった」「家族の誰かに恨みがあった」「快楽殺人鬼」とか、まぁパターンは星の数ほどありますけど。
ただ、ありがちでもいいからスコーン!と脳天を一撃するような何かは欲しいですよね。

また、こういう男は大抵殺人をしまくるわけですが、その手法や表情にも注目したい。
どうせなら「ストーカー 逃げ切れぬ愛」(※ドラマです)の渡部篤郎が浴槽のなかに沈み込んだ状態からヌラーッと顔を出す時ぐらいのショッキングを求めたい。
(このシーン、面白いっすよね)

登場人物

デイヴィッド:ケイレブの友達を名乗るイケメン
アナ:ピーターソン一家の娘。学費を稼ぐためにダイナーでバイト中。麻薬の売人をしているミュージシャン志望の彼氏がいる。
ルーク:ピーターソン一家の息子。高校生。いじめられっ子である。優しいデイヴィットに信頼を寄せる。
スペンサー:父親。部下が先に出世したのが悩みの種。
ローラ:母親。ケイレブの死を受け入れがたく感じている。
ケイレブ:イラク戦争で亡くなったらしいが……??

ネタバレ

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突然ピーターソン一家のもとにやってくるデイヴィッド。
彼の突然の訪問に不信感を持つ家族ですが、あまりに紳士的な彼に一気に信頼を寄せます。
「もしかしてなりすまし?」
「ウソつきなんじゃ?」
と思いきや、彼らの家に飾られているケイレブの写真には、デイヴィッドもしっかり写っています。写真のすりかえが起こっているわけでもありません。
しかし、デイヴィッドはひとりになった瞬間、その笑顔は剥がれ落ち、不気味なまでに無表情になるのです。

彼はピーターソン一家のために行動を始めます。
まず、ルークをいじめていたイケイケ生徒たちをボコりまくります。
さらにアナが参加したパーティ(アメリカでよくあるような、自宅でやるパーティ)に共に参加して、悪いやつらに銃を売ってくれるように注文。その一方で、アナの親友の元カレを撃退して彼女を抱いちゃいます。このシーンは大変にいやらしい。
しかし、このデイヴィッドのパーティへの登場シーンがものすごい。
左肩にビールのタルを乗せて、右腕にもうひとつタルを抱えて現れ、力持ちアピール&イケ顔アピールっす。
オス力が強そう。

ここまで見ていて、ケイレブへの恩義?で、ピーターソン一家のために暴れまくり殺しまくる話?つまり、行き過ぎた親切話なのか?と思いきや、話はどんどん変わります。

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アナのワル仲間から銃をたっぷり買いこむ……というか強奪するデイヴィッド。
もちろんアナの友達を殺します。しかも、アナのろくでない彼氏の車の中に銃を放り込んでおくのです。

さらに、パパより先に昇進したというパパの同僚も殺してしまいます。パパ、そのことにショックを受けちゃうピュアぶりを披露。
そうなんですよね、両親が本当にいい人たちとして描かれているので、これはもう明らかにフラグなのであります。

しかしこんなに殺しまくっているんだから当然ですが、彼の存在をだんだん怪しむようになってきたアナ。彼女は軍にデイヴィッドのことを問い合わせますが、「その人は死んでおります」と返答があります。
ここで、実は彼は軍に追われているという隠ぺいすべき存在であることがわかり、ピーターソン一家のもとに軍の追手が向かいます。

そのころ、デイヴィッドに言われた言葉に従って、ルークはいじめっ子を撃退。
「やり返さなければ、永遠に負け犬のまま」。
そうあってはいけないと、いじめっ子をボコボコにしたルーク。しかし、そのせいで彼は退学の危機に瀕します。
でもそこにやってきたデイヴィッドは、「彼はルークを『ゲイ』とバカにした」「ゲイの少年に差別をするなんて、この学校の教育はおかしい」と騒ぎ立て、退学を取り消させます。
(ちなみにルークはゲイじゃないのですが、たまたまそう発したいじめっ子の発言を逆手にとった)
ルークは姉とは反対にデイヴィッドに心酔し、「君は僕の友達だ」と発言。アナが彼を怪しんでいることを明かしてしまうのです。

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※逆に目立つ追っ手

しかし、このあたりから話が急展開。
ほのぼのと洗濯ものを一緒に干していたローラ(ママ)とデイヴィッドですが、そこに軍の追手が来て銃撃戦に。
実はデイヴィッドは軍の特殊な能力開発チームに属し、その被験者だった模様。彼はその能力をもって脱走を図ったのでしょう。
ただし、テキトーにケイレブのもとを訪れたわけではなく面識はあったよう(いい奴だったと発言している)。
顔は変えているのかもしれませんが、接点はあったのでしょう。もしかしたら、ケイレブも被験者のひとりだったのか……?
ということは語られないのですが(聞き洩らしてないと思うんだけど、そういう説明がとにかく薄い映画です)「ここに男がいるわ~!」と叫んだローラママにナイフを突き差し、逃げるデイヴィッド。

さあ、ここからが問題なのですが、車を盗んで逃げ、たまたま帰宅中だった一家のおとんと正面衝突するデイヴィッドくん。
えっ、おとんは関係ないんじゃ……と思ったのですが、証拠を握られていては困るからという理由なのか?おとんも「ピーターソンさん、すみません」と言いながら殺しちゃいます。

ただし、次に向かったアナがバイトするダイナーには、既に彼女はいません。
(軍に連れていかれている)
そのことをアナの親友(一回パーティでドッキング済)から聞き出し、素早く彼女を切り裂いて手榴弾を転がします。鮮やかに爆発するダイナー。

ルークの安全を確保するために、学校へ向かうアナと軍の関係者。ルークはハロウィンパーティの準備のため、体育館に迷路を作っています。(退学を取り消してもらった代わりに、ボランティア活動をしろと言われた)
かなりできのいい迷路なので、このシーンを見ているだけで楽しい。ちゅうか、クオリティが高すぎてすごいです。
アナはルークと出会い、両親が殺されたこと。犯人はデイヴィッドであること。そして、自分たちも狙われていることを伝えて逃げようとします。
しかし、彼はもう既に同じ建物内にいるんですね!そして先生を殺し、軍関係者を殺し、ガンガン迫ってきます。パーティ用のBGMもなぜかガンガンなっていて、いやぁプロムパーティやらハロウィンパーティやらの惨劇系ホラーを思い起こしてニコニコしてしまう。ニコニコしている場合じゃないんですけどね。

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デイヴィッドと姉弟の戦いは、本当にドキドキします。
歩く殺人兵器であるデイヴィッドに対して、どう考えてもかなうわけがない。しかし、そこは映画ですからアナが銃で撃ち、ルークがナイフで刺して彼を倒します。
ルークが使用したナイフはデイヴィッドからもらった「なまくらじゃない、本当によく切れるナイフ」なのですね。このあたりはいかにも映画という感じですね。

その後火事が起こり、生き残った姉弟は警察に保護されます。しかし見つかった死体は「2つ」、両方とも歯が抜かれていて誰が誰だかわからない。
はっとする姉弟は、消防士のひとりに目をやります。そこにいるのはやはり、無表情なデイヴィッドなのです。

ロゴの感じとか、カットインの仕方は「ファニーゲームUSA」っぽいなあと思っていたのですが
(黒字にピンクのシンプルなロゴが、激しいBGMに合わせてピカピカ光る印象)
こういう「いい人だと思ったら殺人鬼でした」的な話は巷に溢れまくっているので比較するのもヤボですね。
しかしながら、デイヴィッドが何を考えているのかわからなさすぎて
・なぜピーターソン一家を頼ったのか?ケイレブとの関係性は?
・武器を手に入れた時点でどうして逃げなかったのか?
・なぜ、ピーターソン一家にとって不利な人物たちを殺した挙句、ピーターソン一家も皆殺しにしようとしたのか?
・サイコパスなのか、何か深い理由があるのか?彼は味方なのか?それとも敵なのか?ただただ、人を殺したかっただけなのか?

そのあたりの説明がまっったくないのですが「説明をしない美学」というものをまったく感じなかったので「サプライズ」と同じくらいがっかりしたような気もします。
雰囲気は好きですけどね。
キャストの演技はそれぞれ素晴らしかったので(特にアナ役の女の子のプラチナブロンドのカーリーヘアみたいなのがダサかわいくてたまらないし、目の演技もすごくいい)
不満はありません。
キャラクターの掘り下げとかキャスティングは面白いんですけど、いかんせんホラー(ゴア&スプラッター)描写がほとんどないし、ストーリーがつぎはぎっぽい感じでクルクル印象を変えるので「皆、酔っぱらって脚本書いて撮影したのカナ?」と言いたくなる。
とにかく「誰でも見られるサスペンス」って感じなのであります。