誘拐と監禁を繰り返して作られた「理想の家族」の空虚な薄っぺらさ『ファミリー・プレイ』

ファミリー・プレイ

「理想の家族」を力づくで作ろうとする人は、大抵頭がおかしい。もちろん、自分が努力してその役割を担おうとすることは素晴らしいことなのですが(理想の母親を目指して子供とたくさん遊ぶぞ!ごはんも美味しいの作るぞ!ぐらいのイメージだけど)。

2022年の映画『ファミリー・プレイ』は、家族をそれぞれ誘拐してきて理想の家族を作ろうとする男の姿が描かれています。

 

彼が命を賭けて育てている息子には英才教育(といっても、男の持論や信念をひたすら学び、なぞり、洗脳されるだけのもの)を施している。さらに、息子が懐いている“姉”も作ってやる。

誘拐されてきた女の子は、この「姉」役を演じることを求められる。反抗しながらも、状況を探り、弟を手懐け、脱出の手がかりを探す女の子(暴れたり騒いだり無謀に逃げようとしないところに非常に好感が持てる)。

しかし、女の子と息子が作ったお芝居の内容に激怒した男は、子供たちを痛めつける。息子は男を殺してしまった。

男の妻は一目散に逃げだしており(彼女も誘拐されてきた)、女の子は行きがかり上、息子を連れて車で逃げだす。

「世界は毒で満ちているので外には出られない(ガスマスクをつけたら出てもいいが、体に悪い)」などと吹き込まれてきた息子は、血に濡れた手を呆然と見つめている。

 

みたいな話なんですが、この映画でまず珍しいのが、アジア系のキャストがほとんどを占めるということ。男だけが白人で、妻はアジア系(ベトナムとかだったかな?)、子供たちはミックスなのかなという感じのルックスです。まあ、キャストは4人しか出てこないんだけど…

誘拐されてきた妻を演じている女優さんのヴィヴィアン・ンゴーさんが、製作にも関わっているみたい?

そして主演のキャスパー・ヴァン・ディーンは『スターシップ・トゥルーパーズ』とか『スリーピー・ホロウ』などに出演されており、あの『マッド・ハイジ』(『アルプスの少女ハイジ』を現代版バイオレンス・アクションに生まれ変わらせた問題作。目の前で恋人のペーターを処刑されたハイジの復讐が見られるらしい。プーさんのホラーと同じ匂いがするが…?)にも悪役で出演しているらしいですよ!

 

この映画がめちゃくちゃ気持ち悪いなあと思うのは、監禁をメインに描いているところはもちろん、男のトンチキ具合も凄いからだと思う。

世界は汚れている、終わりだ、助かるのは自分たちだけ…

こんなことをひたすら繰り返しているのですが、もちろん嘘。レンタル家族やら、家族を乗っ取る実在の犯罪者をモチーフにした作品やらは存在しますが、「僕のお気に入りの人たちで家族を作るよ」という映画はほぼ初めてかも。狂っています。

ちなみに誘拐してきた女の子には「息子がひとりだちするまで娘のフリをしてくれ」「その後は解放するから」など言い含めるのですが、「それならわかりました!頑張ります!」ってなるわけもなく。期限付けたからって納得できるわけないだろ!

おそらく、彼の家族の役割や入れ替わりを推測するに

  • 息子はほとんど入れ替わりなし(オリジナルの息子が存在したのかも謎)
  • 妻は以前に別の人がいたと思われる。全てを諦め、夫に尽くしている(が、最後にひとりだけ先に脱出しているところが生々しい。この男の家は荒野の真ん中にあるのですが、徒歩で逃げられたのかは不明)
  • 娘の入れ替わりはおそらく激しい。何人も入れ替わっており、それは息子も理解している。激しく抵抗する、男に否定的な態度をとる、逃げようとするなどすると処分される模様

という感じでしょうか。

 

原題は「DAUGHTER」なのですが、邦題は「ファミリー・プレイ」。家族の役割を演じる集団、みたいな感じかな。わりと好きですよ、この邦題。

激しい暴力シーンや女性への強〇シーンなどもないのですが、軟禁の緊迫感のようなものはものすごくくっきりと感じる。真綿で首を絞められているような、つま先だけで立ってあっぷあっぷと溺れているような、途方もない息苦しさ。

そんななかでも希望を失わず、生活パターンを解析し、助けを求める手段を模索し、他の家族を味方につけておく。ちゃんと行動できる女の子が素晴らしかったです。

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