ブロンドの天使で天才的犯罪者でも誰からも愛されない。その矛盾が生み出すモンスターの暴挙『永遠に僕のもの』

永遠に僕のもの

「ブロンドの天使」なんて言葉、もう聞くことがないんだろうな。ルッキズム問題って、うまく言えないけどすごい。まぁブロンドの天使という言葉自体もなんだかスゴイが。

アルゼンチン/スペイン映画『永遠に僕のもの』を見ました。2018年。周囲にブロンドの天使と言わしめるほどの美少年が犯罪に手を染めていくさまを描いているのですが… と書くと、何も知らないかわいい子が犯罪者になっていくのかと思うじゃない?違うのよ! 生まれ持っての犯罪者なのよ!

あらすじを知らないまま見始めたので最初は単調に感じられたのですが、途中からどんどん引き込まれる。

 

とにかく、主人公のカルリートスがキレーーーな顔してるんですが、その美しさに反比例するようにソシオパスなんですね。知らない家に入り込んで窃盗を繰り返し、その盗んだものは周囲の人にプレゼントして人気取りをするという謎の盗癖の持ち主。

そんな彼が転校先で出会ったラモンという青年。彼は父親がモロ犯罪者(プロの窃盗犯?強盗犯?)、母もそれを黙認しているという仲はいいけれど狂った家庭環境の持ち主。ラモンの父に犯罪の才能を見抜かれたカルリートスはスカウトされ、窃盗・強盗を繰り返すようになりますが、そのことに罪悪感はまったくなし。躊躇することもまったくなし。自分の父親に「まじめに生きろ」とさとされてもキョトンとしています。

しかし、ひょんなことから芸能界デビューを目指すラモンとカルリートスの間に生じる温度差。カルリートスはラモンを愛しているのか?彼が自分を求めていないのならば、いっそいなくなってしまえばいいと思っているのか?

徐々に不安定になっていく2人の関係。逮捕されたラモンは、自分を助けなかったカルリートスを突き放しますが、カルリートスはラモンと新しい相棒に付きまとい、犯罪に再加担。襲ったトラックの運転手を射殺し、ついにはラモンを乗せたまま危険運転を行って彼だけが死亡…

小汚いラモンの相棒も手にかけたところで、ようやくカルリートスの犯罪が明るみに出ます。しかし脱獄して逃げ込んだのは、ラモンの実家(既に空き家)。彼はそこでダンスを踊り、そのまわりをコントみたいな大人数で取り囲む警察たち…

というラスト。

 

犯罪に手を染める若者×スタイリッシュな演出の映画という点では『ベイビードライバー』を思い出すのですが(ホラーだから紹介してないけど、この映画は本当に最高だった)、内容はもちろん違う。あちらはポップでかわいくて、でもハードボイルドなエンターテインメントという感じですが、この映画はもっと救われない。

絶対にいつか破綻するような犯罪行為を繰り返し、自分のしてきたことに飲み込まれてしまう若者を描いているという点では『ナチュラル・ボーン・キラーズ』のような刹那的な印象も強い。しかも、カルリートスには隣にいるべき相棒も、恋人もいないのです。誰もが彼を愛したいと思うのに、うっすらと本能で「おかしい」と思っている。彼の恋人も、母親でさえも。

 

カルリートスはラモンが好きで、だからこそ「永遠に僕のもの」にしたかったのかはわからない。そもそも、恋愛要素で彼を求めていたのだろうか?性愛を満たす対象というよりは、自分と同じくらい壊れていて、本当の自分を拒まない人がラモンだったのか。

こういった若者が主人公の映画には珍しく、性的なシーンがない(ラモンが盗品を買い取ってもらうために、美術品収集家のおじさんにイチモツを捧げるシーンはあったが、カルリートス自身の性欲を感じさせるシーンはない)のには驚きました。

しかも調べてびっくり、実話がベースだったという…

そして主演のロレンソ・フェロはこの映画がスクリーンデビューだったという…(難しい役をよくもまあやりきったよなという印象)(ラモンの役の俳優さんも演技も歌もうまかった)

すごいエピソードが詰まった作品でした。

映画として優れているなと思うのが、ちゃんと緩急があるところ。激しいシーンばかりではなく、くだらないシーンがあるのもいい。ラモンのお父さんとカルリートスが初対面する時に、パパンがパンツ1枚なんですね。そこから思いっきり金〇がはみ出しているシーンを見た時には「はあ?」となりました。オシャレ映画なのに…

絶対に話には必要ない(まあ、ラモンの父親が初対面の人に金○を見せても平気なくらい頭がオカシー人だというキャラクター付けにはなるが)けど、こういうシーンが切ない場面を際立たせているのかもしれない。

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