ホラー映画史に残るエモラスト。怪物を倒して「踊らないか?」は斬新すぎる『パラミドロ』

久々に、酒と煙草の香りを漂わせたオジサンの出てくるホラーを見た。

2021年スペイン映画『パラミドロ』。

スペイン映画なのはよくわかります。「闘牛」のワードが頻繁に出てくるので。

ただ、この映画はもう、すごい。わたしは大好きです。未見の方は、ぜひ先に映画を見て!

くたびれたおっさんが好きな人、特に見て!覚醒するから!!!

 

登場人物(4人)が全員凡庸なキャラクターのように見えて、それぞれ闇を抱えている。粘度と湿度の高いホラーシーン。最初は真っ先に殺されるんだろうな、と思っていたキャラクターたちが協力し、バディのようになりながら戦う。そして、切なくも渋いラスト。

ホラー映画における「なぜ私が」の理不尽さをすごく体現している。

しかも「なぜ、私が死ななきゃいけないのか」だけではなく「なぜ、私だけ生き残ってしまったのか」までしっかり描かれている。『オールド』でもそうですが、最後に生き残る生存者はハッピーでもあり、アンハッピーでもある。生きていられるという自由さと同時に、同時に「生きなければならない」という生存者としての責務があるから。

ブラスコというオッサンについて触れておきたい。登場当初、ものすご~く嫌な感じ。デリカシーなし、清潔感なし、ダメなおじさんそのもの。でも、そのブラスコが徐々に目覚めていく。マルタというひねくれた少女と協力して、生きようとする。

ホラー映画だとおじさんと少女という組み合わせは珍しくない。だが、多くの場合、おじさんが少女を守る、守らなければならないシチュエーションになって、だんだん情がうつって…みたいなノリが多い。そのため、ゾンビだったり終末世界だったりのサバイバル劇、もしくは壊滅状態になった都会から逃げて目的地へ急ぐがヒャッハー状態の人間たちに襲われる、でも子供を守るぞみたいなあきあきの展開につながっていく。

しかし、この映画では協力体制がすごく自然に描かれている。たまにクソみたいなこと言い出してなんだそら!みたいになるけど、そうなるのが自然。パニック時の人間同士ですから。それでいて、誰が脱落するのかまったく読めなかった。

登場するのは4人。あいのりワゴン(ってもラブワゴンじゃなくて、相乗り長距離激安タクシーみたいなもん)運転手のブラスコ、客で娘を夫に引き渡しに行くリディア、顔に大きなやけどのあとがるマルタ、そして病気で余命僅かの女性。

誰が主人公なのかよくわからない。マルタなのかもしれないし、リディアなのだろうか。ということは、親子で死闘を繰り広げる?でも、病気の女性もリディアと意気投合している。ということは、女性同士でガンバル系?

と思ったら、前述で触れてしまいましたが、ブラスコとマルタの話なんですね。

リディアは、元夫のせいでケガをしたマルタを支えることに疲れ、混乱している。マルタは大きな顔のやけどのせいか、ものすごく達観している(スレている)。ブラスコは片目を失明しており、子供を授からなかったことで妻と離縁している。

深夜、彼らを乗せて田舎道をひたはしるワゴンの雰囲気はなかなかに重い。

だが、寄生体が出てきたらもう重いとかそういう次元じゃないのよ。まず、道にいた一般女性(規制済)を轢いてしまい、病院に運ぶことに。すると病気の女性が襲われる。リディアはケガを負い、娘のために犠牲になる。

ブラスコとマルタはワゴンに再度乗り込み村を目指すが、そこは既に占拠された後。ガソリンスタンドで首をはねられる一般人の描写もありますが(これがまたセンセーショナル。CGのクオリティも高い)、驚きなのがママ。追いかけてくるんですね。

マルタの背後から、ねっとり現れて娘を見つめる… もう、この演技がすごすぎる。それで攻防戦になるのですが、ブラスコがマルタを助け、マルタがブラスコを助け、とお互いに守り合うのがすごくいい。闘牛士のポーズで寄生体を挑発したり、マルタがブラスコを襲う寄生体の頭を貫いたりと、いちいち感情を揺さぶる。あと、クリーチャーもよくできてます(じっくり観察できた)。

ちなみに、最近の映画では珍しくスライムを多用しています。昔のホラーといえばスライム(緑!!!)でしたけど、久しぶりに見るとおお!となりました。血糊じゃないのよね。

生き残ったブラスコがマルタに「踊ってくれるかい?」と尋ねるシーンもすごい。スペイン男ってこんなにキザなのかな。アジアだと出てこなさそうなセリフですね。

しかし!!!

やっとたどりついたレストラン。トイレに入ったマルタは天井から粘液がたれてきて…?

酒を飲むブラスコの前に現れたのは、寄生されている村人たち。そして、寄生されたマルタ。

ブラスコはバーカウンターでため息をつき、「乾杯」と酒を煽ります。ここで終わりです。もう、この終わりかたすばらしすぎない?ホラー×おじさんの組み合わせのなかでも最高峰よ。もしかしたら、諦めたのかもしれない。それとも、これから最後まで戦いぬくのかもしれない。どっちなの?と悶々とさせる終わり方。でも、どっちもつらい…。

見終わった後に、ブラスコのことしか考えられない。

日本でもタバコのシーンに規制があるし、「だらしない」とか「生活できていない貧困層」とか「アルコール中毒」とか、そういう描かれ方されるおじさんはいるけど、ここまでいい感じに崩れたおっさん、でも戦うとめちゃくちゃ熱いおじさん、出てきてほしいですね。

寄生体はミミズのような、タコのような、触手が長いタイプなのですが、寄生体になった人たちも微妙に顔が変形するのね(個人差がある)。目は黒目っぽい瞬間もあるし、白目っぽい瞬間もあるし。特殊メイクもすごくいいです。

もう1回、あのラストに出会いたい。前半はわりと長距離移動あるあるシーンみたいな感じですけど、後半は怒涛の展開&エモすぎラストなので、しっかり前半のたるたる感と後半の疾走感を楽しんで欲しいです。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

次のHTML タグと属性が使えます: <a href="" title=""> <abbr title=""> <acronym title=""> <b> <blockquote cite=""> <cite> <code> <del datetime=""> <em> <i> <q cite=""> <s> <strike> <strong>