ヴィーガンが一番“美味しい”という皮肉なホラー『ヴィーガンズ・ハム』

食はその人を知るうえで欠かせない要素のひとつ。

そういえば、日本ではあんまり浸透していないイメージがあるヴィーガン。圧倒的に女性が多いイメージがあるのはなぜなのか。

他人様の主義主張に口を挟むのは無粋ではありますが。

ヴィーガンってどうなの?ちょっとやばない?

というヴィーガン以外の人の本音を、嫌味たっぷりに描いているのがこの映画。

2021年製作『ヴィーガンズ・ハム』。フランスのブラックコメディです。

環境保護を訴える意識高い系学生が監禁されて好き放題される『グリーン・インフェルノ』(だいすき)なんかも煽りの姿勢強めでしたが、この映画も負けていない。

だって、ヴィーガンの若者を攫ってはハムにしちゃうんだから。

主人公は自分の肉屋を経営する中年夫婦。店は景気が悪いし夫婦仲は最悪だし(離婚寸前)、ヴィーガンの奴らに店を襲撃されてめちゃくちゃにされるし…

で、たまたま目撃した襲撃者のひとりと別日に鉢合わせ、カッとした店主はその青年を車で轢いてしまいます。なぜか、職業病?彼をハムにしてしまった店主。そのハムを何も知らずに売ってしまった店主の嫁。

だが、余計なものを食べずに体を鍛えていたヴィーガンのハムは美味しいと評判になり…!?

という、トンデモナイお話なのであります。

こういう「人を襲ってたべたべする」系のお話はたくさん存在するのも恐ろしい。自分にとって害になる(店を妨害する、無礼な人間を裁く意味合いもある)人間を襲う人もいれば、何の罪もない人を何も考えずに襲う人(サイコパス)もいる。あとは家族に伝わる掟とか(人間社会になじみながらこっそりやっているパターンと、森の奥に住んで化け物一家になっているパターンもありますが)。そうそう、美食家金持ち集団がおにくパーティしている映画もありますね。タイトルを挙げるとキリない!!!

人はなぜ、こんなにもおにくたべたべの映画を作っちゃうのでしょうか?

ただ、この人たちはもう、ヴィーガンのハムを一口食べて、その肉が忘れられなくなってしまうという、新しいジャンルのホラーなのです。妻は夫を言葉巧みに操縦し、殺人鬼に育てていく。旦那の心が折れそうになると、甘い言葉を囁いて思い通りにする。粗暴な旦那が暴走するパターン化と思ったら、旦那のほうがまだ人間味がある。嫁のほうが陰険。というよりも、欲深い。金とヴィーガンズハムのことばかり考えているのですから。

登場するヴィーガンも悪意を持って描かれます。肉屋を襲撃して火をつける集団、動物を守ることばかり考えていて他の会話が通じない男、おクスリ中毒と精神病が進行しすぎてヴィーガンに依存している若者たち。「肉くさいからあっちに行け!私がここでヨガをするんだ!」と、初対面の主人公たちに暴言を吐く男もなかなかにひどい。

さらに主人公夫婦の娘の彼氏もヴィーガンなのですが、「お前は肉屋の娘だから」と美人の娘ちゃんをモラハラしまくり、主人公夫婦が準備した食事には因縁をつけまくって食べないなど、むちゃくちゃ陰険。

もちろん、ニコニコで優しそうなヴィーガンもたくさん登場するのですが…

中盤はひたすらノリノリでヴィーガン狩りをする夫婦がテンポ良く出てくるので、すさまじいインパクト&情報量で脳が破壊されそうになります。この映画を撮影したファブリス・エブエ監督はこれがメジャー1作目なのか?絵を作るのがすごくうまいですね。色味も綺麗だし、構図も新鮮だし、笑えるし。脚本も面白いと思います。

そして、ものすごく下品なシーンもあるのもこの手の映画の魅力。ヴィーガンのチ〇〇で店主が嫁の頬をつついて遊んだりします。ギョッ!しかもチ〇〇はさすがに食べたくないから、愛犬に放って食べさせるんですね。愛犬もヴィーガンの肉が大好きなので(闇深い犬に育てないで欲しい)。

しかし、これがものすごい伏線なのです。

ヴィーガン狩りをする彼らの主な手口は、ヴィーガンを装って彼らに近付き、拉致・監禁・ハムにするというもの。しかし、過激派ヴィーガンにそのことがバレてしまい、嫁が捕まってしまいます。すると、その場に旦那がヒーローのようにやってきて彼らを倒すという展開があるのですが、ここで犬が大活躍。そう、ヴィーガンのひとりの股間にくらいつき、生で食べちゃうのです。オエー!いやいや、生で食べるとかナイナイナイ!!!

最後、主人公夫婦が抱き合っている横で、まだ股間をあむあむと食している犬がいるのがホント怖い。このヴィーガンは股間食われ死したようでピクリともしません(失血死にしては血の量が少ない気がするけど、生きてても地獄だよね)。

ハッピーエンドで終わるのかと思いきや、ちゃんと捕まって映画が終わるのは「正しい」ですね。それでも夫婦は全然反省していない、というオチもあります。

「悪意のある笑い」がふんだんに詰め込まれたこの映画。結局のところ、他人の在り方を否定して自分のやり方を押し付けるのはいけない、というよくある教訓を読み取るのが正しいのか。

まあ、確実に言えるのはこの映画を撮ったスタッフの皆さんは絶対にヴィーガンじゃないと思う。もしヴィーガンだとしたら自虐センスが高すぎる。

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