香港映画の『ラン・アウェイ 香港脱出』を見た。2017年。
香港ホラーって完成度が高い作品が多いイメージですが、この作品に関しては…
わけがわかりません!
ストーリーはめちゃくちゃ、キャラクターは全員いいところなし、伏線はまったく回収しないまま終了。面白くなりそうな伏線やキャラがあるだけに、ビックリする内容です。
ゾンビコメディだけど笑えるシーンはたぶん1シーンのみ。しかも香港あるあるっぽいネタなので日本人にはピンとこないという悲しさ。
まあ、「不動産屋はゾンビよりもしつこい」ってネタなんですけど。おじさんが飲み屋で鼻をほじりながら言ってそうな言葉でもある。
あと、ゾンビみたいな奴が襲ってきたから逆に噛んでやったぜ!→感染して死亡 という流れのギャグもありました。それよりも、このゾンビを噛んだ出前持ちがもってきたケータリングのお弁当が、薄焼きたまごとにんじんと米だけのお弁当だったのが気になって。
香港ではこれでいいの?肉とか魚とかないの?全然お腹にたまらなさそうでそっちのほうが気になったわ。
ざっくりとストーリーを紹介すると
うだつの上がらない主人公はヒーローを夢見る男。だが、現実は甘くなく、彼女はおらず仕事も恵まれず、服役中の父が出所してきてメンタルもボロボロ。しかし、突然のゾンビ発生により、彼らはホンコン脱出を目指して戦い始める…!
みたいな内容なんですけど。
全体的に既視感のある設定が多い。しかも、漫画からの。
たとえば、パンダの着ぐるみを着てバイト中にゾンビに襲われる設定は『パンダミック』(すごく前から連載しているらしいが、どこで連載しているのかも覚えていない。冒頭だけ読んだことがある。この作品は完結したのだろうか??)。
怪しげなゆるキャラが人をゾンビ化するのは『PYGMALION』を思い出させる(こちらは食われるだけだが、ゆるキャラに襲われる恐怖はしっかり描かれている)。
もしくは『魔法少女・オブ・ジ・エンド』(こちらは着ぐるみではなく魔法少女だが、攻撃されて死亡した人間が魔法少女化して襲ってくる)のようなパニック感と騒々しさもある。
もちろん、こちらのこじつけなんですけどね!
他にも
- 自分がヒーローのアニメが脳内再生。妄想の中では俺ツエー!
- 劇団(広東オペラ…って京劇みたいなものなのだろうか?)の小道具係なので、ゾンビを倒す武器も全部手作りしちゃう!→親の顔よりよく見た気がする、ゾンビサバイバル映画でありがちな「手作り武器がテンポよく次々と拡大される」カット
- 嫌っていた父親がゾンビに噛まれて泣きながら許す
- ライバルキャラを助けたら感染してて襲われる
- 憧れの女性有名人を救出していい感じになる
- 本当の敵はうじうじした自分だ!という誰も望んでない主人公VS主人公の戦いが始まる
みたいなシーンが詰めあわされています。
設定上の大きな欠陥をあげるとしたら、ゾンビが出てくるまでが長い!というところかな。前半はず~っとキャラ説明、状況説明のシーンばかり。
まあ、そもそも脚本が破綻しているんですけどね!!!
ゾンビもウイルスで広まるタイプではなく(ウイルスで広まるのはゾンビではないが)、死体が蘇っているわけでもなく、ゆるキャラモンスターちゃんが霊魂を吐き出して、その霊が生きている人間の体に入ってゾンビになるという謎システムで発生。
このゆるキャラちゃんも、どこからきたのか?目的はなんなのか?っていうのは気になるところですよね。普通なら宇宙人ってオチか、クリーチャー系の怪物なのかってところで収まるでしょうが。この映画はそうはいかないのだ。
気になったところ。
・主人公の父親の設定
主人公の父親が息子の医療費を稼ぐために交通事故の罪をかぶっているんですけど、その被害者のうち1人は亡くなり、もうひとりは杖がないと歩けなくなっているんです。
でも、父親は最後までそのことを伝えず、自分が犯人じゃないって言わないまま逝くっていう… いや、言えばいいのに!律義!
あと、被害者に謝罪を受け入れてもらえない時に、持っていたでっかいナタで自分の髪の毛を切り取って坊主にしようとしたシーンは引いた。長さ40センチくらいのナタでだよ?怖いよ!
丸坊主謝罪をしたアイドルのことも思い出してしまった。
自分でめちゃくちゃに髪の毛を切り落とそうとする行為って自傷に近いものを感じる。(ちなみに、人の髪の毛を許可なく切り落とす行為は傷害罪になるらしいですね)
また、身寄りがなくなった主人公を引き取ったのが当の被害者だという設定も唐突である。あと、主人公とコンビを組んでいるバディ的存在の青年もついでに引き取られているのも謎。お前誰やねん感がすごい。
・ライバルキャラの謎
主人公コンビと敵対しているらしいイケイケチンピラコンビも登場するのですが、この人たちがまぁ無個性でびびる。彼らの性格もわからないし、なんで主人公たちとバチバチしているのかもわからない。ただ、なんとなく仲が悪い2人のおじさんがぼんやり登場して感染して終わり。
・子供ゾンビが壁に激突
ゾンビ化した子供が出てきますが、主人公コンビがぶっとばして壁にバチーン!!と激突。あまりの容赦のなさにちょっと笑ってしまった。
・おばさんの死がエグすぎる
主人公を引き取ってくれた足の悪いおばさんは、事故の加害者である主人公父を最後に許してくれるのですが、なぜか突然頭が爆発して頭蓋骨だけになって死亡というシーンがあるのです。
っていうと、頭蓋骨だけ残ったのかと思うじゃない?
カラッカラの頭蓋骨と無傷の体が残るのよ。
どういうこと?と思ったんですけど、ゾンビパンデミックの原因・ゆるキャラちゃんがやっていることらしいから説明がつかない。ちなみに主人公のお父さんは集中攻撃を受けて大爆発しました。それを見ていた主人公たちは無傷でしたが。硬いですね。
・武器が謎すぎる
チェーンソーとかオノとか芝刈り機あたりが対ゾンビの武器として有名ですけど、フラフープに刃物をくっつけたものとか、パーマを当てる時に頭を入れる機械?とビールサーバー?を組み合わせたもの(デコられていてもう何がなんだかわからない)とか、オリジナリティがすごすぎる。重いのか軽いのか、彼らが超人だから操れるのか、単なる見掛け倒しの武器なのかも推測できない。
・ヒロインの存在が薄すぎる
ヒロインは2人いて、主人公たちの育ての親であるおばさんの親戚の少女(ややこしい)。彼女はこの超常現象について専門で学んできた過去があり、詳しく調べ始めるのですが、パンデミック直後に姿を消してしまいます。そして中間でちょこっと出てきて、またラストは消えて単独行動…という、謎ムーブ。出演スケジュールがなかったのかな?
そしてもうひとりのアスリート系芸能人のヒロイン(主人公の憧れの人)はとっても強くて頼りになる存在。ウエディングドレスで登場し、そのまま戦うのもカッコイイ。…のですが、この人もいったいどういう人なのかわからないまま映画が終わってしまうのです。結婚をすっぽかされたというエピソード、芸能人、めちゃくちゃ強い、この情報のみ。
まあ、よくよく考えれば主人公と親友も腐れ縁以上の描かれ方はされておらず、どうして親友なのか?を教えてくれるエピソードの1つでも入れておけばよかったのに…とは思いました。
・ゾンビの登場の仕方が謎
ボウリング場で休んでいたら、入り口ではなくピンが出てくるほうからゾンビが大量発生。どういう構造の建物なんだ。
・ラストが非常に謎展開
ゾンビに追われて地下道で戦闘になるも、腹を刺された主人公は親友とヒロインと離れ離れに。
しかし気が付いたらゆるキャラモンスターが目の前に、後ろにはゾンビとなった親友とヒロインが…!こっからどう持ち直すんだ??と思っていたら、着ぐるみの中の人が颯爽と衣装を脱ぎ捨てます。えっ、中に人がいたんだ…という驚きがすごい。
その人とは、なんと… もうひとりの主人公!
はあ?
主人公は躊躇しつつも、突然覚醒。ここからまたまた唐突なアニメパートとなり、着ぐるみモンスターと戦う主人公の姿が延々と描かれます。
「どっちの世界が現実かはわからない」
でも、俺は戦うぜ!今こそヒーローになるんだ!と、もうひとりの自分と戦うことを決める。
と再び立ち上がる主人公の姿で映画が終わります。
いや、あんたなにをいってるんだ?正気??
弱い自分は嫌だ、今こそ変わるんだ!というメッセージはわかるのですが、もうひとりの自分ってそもそもなんなんだよ。なんでゾンビが絡んでくるんだよ。親友とヒロインをゾンビにしてどうしたかったんだよ。というモヤモヤばかりが残ります。
結論。ネタで見るにしてもなかなかにつらい映画ではある。あと、答えは求めちゃダメなタイプの映画です。どっちの世界が現実かわからないってさあ、どっちも現実じゃねーよ!アホタレ!!!と耳たぶつねりあげながら怒鳴りつけたくなりますね。