空飛ぶ“アレ”と目があった時、私たちは全員死亡する。『NOPE/ノープ』

2022年のアメリカ映画『NOPE/ノープ』を見ました。

『ゲット・アウト』『アス』のジョーダン・ピール監督がメガホンをとり(という言い方もめちゃくちゃ古いですね)、『ウォーキング・デッド』のグレンでお馴染みのスティーヴン・ユアンも出演しています。

ハリウッドで撮影用の馬の調教を行う牧場を経営する兄・OJと、兄とは正反対に自由に生きる妹・エメラルドがオカルティックな事象に巻き込まれていくさまを描くSF映画です。

もともと牧場の上に現れる奇妙なモノ。この“モノ”の落とし物に、OJの父親は殺されてしまったという伏線があります。

それをいち早く見つけ、魅せられてしまった元子役のリッキーをスティーヴン・ユアンが演じているのですが…

この人の子役時代もものすごく闇があって、オランウータンも出演するファミリーコメディドラマに出演していたところ、オランウータンが突然狂暴化。大人はおそらく食い殺され、ヒロインの女優は顔をズタズタにされたという大惨事のなか、唯一無事に生存した人なんですね。しかも生放送でお茶の間に大惨事が垂れ流されてもいたらしい。

このエピソードは、実は本編とほぼ関係ないんです。それがとにかく怖い。どういうエピソードなんだよ、と。

とはいえ、日本だとオランウータンを定期的に出演させていたほっこり番組がありましたが、実際に暴れた時は大変だったようで、ネットニュースにもなっていましたね。

OJとエメラルドは牧場を守るため、謎の生物の動画を撮影することに。ハリウッドの第一線で活躍するカメラマン・ホルストと、家電量販店で働くチンピラ・エンジェルの助けを借りて撮影を行うことになります。

「普段は透明化している」「テリトリーに入ったものを食い殺すが、目を合わせなければ襲われる確率が減る」「たまに消化できないであろうもの、人間の血液をドバーッと吐く(おそらく人間の肉は消化可能だが、血はダメらしい)」「デジタル技術の撮影機材には映らない(アナログならOK、8ミリフィルムとかポラロイドならいいみたい)」という謎習性があり、探り探りの状態が続くのですが、とうとう撮影決行の日。

邪魔者の記者が乱入してくるわ、ホルストは興奮してカメラもって突撃して吸い込まれるわ(ただ、彼のカメラマンとしての美学と興奮はビンビンに伝わってくる。絶望もすごいけど)、エンジェルもOJもエメラルドもしつこく何回も攻撃されるのがさらに恐怖を煽る。

最後は映像はダメになってしまったけれど、リッキーのアミューズメントパークにある古いカメラでエメラルドが撮影に成功するというラストでした。

この監督の作品は、毎回紆余曲折がすごくて誰が生き残るのかまったくわからないですね。

この『NOPE』の素晴らしいところは、このよくわからない生物のようなものの造形だと思う。巨大なエイのような、クラゲのような何かが空を悠々と飛びながら追いかけてくるのはなかなかのスリルです。私はホルストの意識高い系のファッションも好きだったが。シンプルだけどめちゃ高そうな服に見えた。いや、俳優さんのスタイルがいいのかもしれないけど。

ただ、私は空飛ぶクラゲを見ても、空飛ぶエイを見てもそんなに怖くないと思う。

全速力で飛んできてバードストライクする天狗の悪夢を見たことがあるんですけど、あれが一番怖かった。人に追いかけられるのが一番怖い気がするのよ。

もうひとつ、ノープ監督はアフリカ系アメリカ人俳優を主演に据え、その思考やルーツ、おかれてきた立場も映画に盛り込むのが特徴ではあるんですけれど、それに関しては何も意見はないです。そりゃ日本人監督だって主演に日本人据えることがほとんどだし。

でも、エメラルドが同性愛者(バイセクシャル)っていう設定、いる?と思った。別に恋愛がテーマの話じゃなんだから、伏線やキャラクター関係図に影響があるんじゃなければ「私の彼女が~ウンヌンカンヌン」みたいな恋愛話(しかも一言二言で終了)、いらなくない?と思いました。そういうセリフがなければ、全員異性愛者だと思う人がいるんでしょうか。

そして、たまたまこの映画の視聴後に『オカルトの森へようこそMOVIE』を見たので、なんというか、ピール監督と白石監督の脳がリンクしているみたいで怖い(※両方面白いのでぜひ見比べていただきたい!!!)。話のテーマは全く違うんですけど、なんというか、意識して観客に与えようとしているもののネガティブさ、エンタメとしての陰鬱さの方向性も似ている気がする。それが一番怖いって!

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