人は食事だけでこんなに狂えるのか…スペインの不条理実験映画『プラットフォーム』

プラットフォーム

2019年のスペイン映画『プラットフォーム』を見ました。

不条理で理不尽な実験モノの映画は久しぶりに見ましたが、面白かったな。実験モノと分類するには乱暴ですが、『CUBE』などと似たテイストを感じる。ものすごく皮肉が効いている風刺映画という印象。

ルールは以下の通りですね。

  • 2人一部屋(相部屋)
  • 1人につき1つ好きなものを持ち込むことができる(主人公が持ち込んだのはドン・キホーテの本)
  • 死ぬ、もしくは契約期限がくるまで脱落不可。運営とも接触不可
  • 食事は、上階から降りてくる食べ物のみ。持ち出し不可(部屋に持ち込んだ時点で室温が上がる、もしくは下がる)
  • 階層は1ヶ月につき1度変わる

主人公のゴレンは、「認定証」の獲得と休暇気分で面接を受けて通過、実験に参加することになります。ただし、同室の男性は殺人犯であり、1年近くこの実験に参加していることもわかります。最初は48階で、上から降りてきた残飯に顔をしかめるゴレン。しかし、途中から食べざるを得なくなります。

このおっさん、ナイフを持ち込むなど危なっかしいのですが、主人公の温厚さに心を許し始めます。一方で、自殺者を目の当たりにしたり、毎月息子を探して食卓(プラットフォーム)に乗って降りてくるミハルに驚いたりという日々を過ごします。

1ヶ月後。目を覚ますと171階。とても食事が降りてくる層ではないのですが、そのため、老人はゴレンを食べるために縛り上げます。それを助けてくれたのがミハル。助けられたゴレンは老人を殺し、ミハルはその血や肉を倒れたゴレンに与えて生かします。(もともと、ミハルに親切にしたゴレンに対し、彼女も心象がよかったよう)

2ヶ月目。目を覚ますと、33階でイモギリという女性と同室に。彼女は犬を連れている変わった女。よく見たら、ゴレンの面接官でした。彼女は下の階に食事がいきわたるように34階の男たちを説得しようとしますが(食事をとりわけたぶんしか食べるなとか、その下の階の分をとりわけろとか)笑われて終わり。彼女を助けるゴレン。

3ヶ月目。なんと、202階にされたゴレン。イモギリは自分を食べさせようとゴレンに申し出て驚かせます。彼女は実はガンにおかされていて、実験のために自分を差し出そうと決めたという経緯がありました。接する人が全員アタオカで狂いだすゴレン。

4ヶ月目。今度は6階!バハラトという黒人と同室になりますが、彼は脱出を試みます。同調するゴレン(ちなみに、ゴレンは5階に上がろうとして大便をかけられるという衝撃シーンが!!)。彼らが選んだのは、プラットフォームに乗って下に降り続けること。

途中でなぜかバハラトの尊敬する偉人が実験に参加していて再会するのですが、彼の「誰も手をつけない状態で食事を1品戻せ、それがメッセージとなる」という助言で、パンナコッタを守ることに。

とにかく下に降り続けるものの、想像以上に深い層。なぜなら、死者だけの部屋にはプラットフォームは止まらないから… ちょうどモグモグ仲間を食べている瞬間に居合わせたりと気まずいのですが、ゴレンはミハルが殺されているところを見てショックを受けます。

喧嘩に巻き込まれボロボロのゴレンとバハラト、383階に到着します。ここが最下層。ここには子供はいないはずなのに…!?(これがおそらくミハルの探していた子供)

降りた瞬間にプラットフォームはいってしまい、その子供にパンナコッタを渡すゴレン。バハラトは死んでしまい、死んだはずの老人がゴレンのもとに現れて話しかけます。

そして老人とゴレンは、パンナコッタの代わりに子供をプラットフォームに乗せ、メッセージとすることにします。

ゴレンは死んでしまったのか?それとも救われたのか?誰にもわかりません。

このそれぞれの層にいる人間たちも非常に興味深い感じ。なかにはバイオリンを持ち込んでいる青年、ビニールプールを持ち込んで入っている男たち(なぜ?)もいたり、言葉の通じないアジア人が参加していたり、反対に殺し合って死んでいる人たちがいたり…

最上階で料理を作り続けている人たちの目的は不明なのですが、非常にこだわり、小さな毛の混入も許さないこだわりっぷり。いかに美しい料理を出すかに心を砕いている感じ。実際に非常においしそうなのですが、その麗しさが映画全体に漂う虚しさをかきたてています。それに、映画を見ている側も残飯しかほぼ見てないんですよね。セットも衣装もわりとシンプルな感じなのに、頭の中にこびりつくような薄気味の悪さ、後味の苦さ。久しぶりに渋くていい映画を見られてうれしいです。