「犯人は生首に訊け」

犯人は生首に訊け

2017年の韓国映画「犯人は生首に訊け」。最近見たサスペンスの中でも、非常に良作。「全員悪人」という言葉がぴったりの、震えるサスペンス。

登場人物

スンフン:もともとは都会で自分の病院を持っていたが、現在は田舎で雇われ医師をしている。
ミヨン:病院の受付。高価なブランド品をたくさんもっている。

チョン:スンフンが間借りする家の大家。精肉食堂を営む一家の長だが、認知症を患っている。
チョンの息子:常に笑顔で、スンフンにやたらと話しかけてくる。
チョンの息子の嫁:明るい女性。
チョンの孫:前妻との間にできた子供のため、母親はフィリピン人。なぜかスンフンに冷たい目を向ける。

ネタバレ

雇われ医師をしているスンフン。彼は離婚して、15年以上未解決の連続殺人事件が続くこの町に引っ越してきた。

彼の大家である精肉食堂の老人・チョンは認知症であり、生の豚肉を食べているところをスンフンは偶然目撃してしまう。彼の息子の嫁は、スンフンのいる病院に老人を連れてきて、結局彼が内視鏡検査を担当することになる。

麻酔を使っている間、老人は意識がもうろうとしたのか、いろいろ話し始める。
関節の外し方。脚と腕、胴体はバラバラに捨てれば、バレにくい。指紋は指を切ればいいし、指紋を切り取ってそれだけ別で捨ててもいい。頭は、まだ冷凍庫にある。
彼の告白に驚き、取り乱すスンフン。
昼休み中だったはずの待合室に出ていくが、そこにはひとりの中年男が立っている。彼は順番待ちをしているようだ。

スンフンは、精肉食堂で謎のビニール袋を見かけてしまう。それは冷蔵庫の中にあり、髪の毛のようなものがはみ出していた。そして、ちょうど頭くらいの大きさのものが入っている。

スンフンは久しぶりに息子と会うが、彼は父を見下しているように見える。

町ではまた死体が見つかる。

スンフンが帰宅すると、チョンの息子が待ち構えている。「人間の横隔膜を持ってきました」という彼だが、それはもちろんジョークだ。だが、2人はスンフンの部屋で一緒に飲むことにする。ここで、チョンの孫が、彼の息子と前妻の子供であったことを知る。

スンフンは元妻に呼び出される(なぜかサーティーワンで会う)。
彼は元妻を家に連れて行くが、そこで息子が彼と暮らしたがっていると聞かされ、困惑する。嫁は鏡を割り、その音でチョンの息子がやってくる。
そのことをきっかけに、チョンの息子とまた飲むことになった2人。
(元妻はいつの間にか消えている??)
精肉食堂で飲んでいるうち、スンフンは気が付くと1人になっている。彼は冷蔵庫を覗くが、そこに置いてあったのは、やはり生首だった!

という夢を見たスンフン。寝坊してしまう。
その日の昼、チョンの息子から「いつ帰ったんだ」と職場まで電話がかかってくる。
チョンはインフルエンザ?ワクチンを打つためにまた来院するが「アレは、一度やるとクセになる……」とスンフンに囁く。スンフンは、チョンの元妻と、チョンの息子の元妻が2人とも失踪していることを知ってしまう!

帰宅したスンフンは、精肉食堂にあったはずの生首の袋が、自分の部屋の冷蔵庫に移動していることも気が付き、愕然とする。
それ以来、病院の宿直室で寝泊まりしていたスンフン。

久しぶりに帰宅すると、やはり生肉はない。その代わり風呂に行くと、奥に通路が伸びており、その先でチョンとその息子が女性の死体を解体しているのが見える。息子は「おかえりなさい」とニコニコ笑う。血抜きを始める彼ら。
「先生、頭だけ、もっていかないでくれる?」
だが、それもまた夢だった。

スンフンは、帰宅中にいじめられているチョンの孫を目撃する。だが、彼は知らんぷりしてしまう。

相変わらず、宿直室で寝ていたスンフン。すると、受付のミヨンが薬を盗んでいるところを目撃してしまう。ミヨンはブランドバッグなどを大量に持っている。彼氏に購入してもらったというが、それは薬の横流しで手に入れたものだろう。
とりあえず通報はせず、どうするかは先送りにするスンフン。

肉屋を覗きながら、帰宅するスンフン。
だが、チョンの息子に見つかってしまった。彼の妻は、実家に帰ってしまったらしい。そのせいで、店を閉めることになってしまったらしい。
チョンの息子は「奥さんは無事に帰ったのか」などと聞いてくる。さらに「飲み会の日、いや、なんでもないです」とやたらと口ごもる。

その後、彼のもとに警察がやってきた。元妻のスジョンが失踪したのだ。最後に会ったのはスンフンだった。だが、ミヨンはその刑事の聞き込みが自分の逮捕のためのものだと勘違いして、スンフンの家に乗り込んでくる。彼は否定して彼女を家に帰すが、謎の男が尾行しているのを窓から目撃し、彼女を追いかける。逃げるミヨン、謎の男、追いかけるスンフン。だが、途中でスンフンは殴られて倒れてしまう。

彼を助けてくれたのは、元刑事のチョ・ギョンファンだった。
(老人の内視鏡をした時、待合室にひとりだけいた男がコイツ)
彼はスンフンが犯人を逃がしたと怒っているが、精肉食堂の親子を怪しいとにらみ、刑事を辞めた後も調べ続けていたのだ。刑事はスギョンを殺したのがスンフンじゃないか?と言い出し、彼をギョッとさせる。
「人殺しは特別じゃない。人は心の中にけだものがいる。それが暴れ始めれば、みな同じだ」
チョに無実を主張し、冷凍庫の中を見せるスンフン。チョは、親子が狙っているのはスンフンではないかと推測する。

ミヨンは無断欠勤している。
出勤したスンフンだが、ヨンフンが家のそばまで来ていると知り、大慌てする。しかもチョンの息子から、ヨンフンと一緒にいると電話があり、慌ててメスを握り、家に戻る。
自分の部屋に飛び込んだスンフンだが、手を血まみれにしてすぐに飛び出してくる。そして、続けてメスが目に刺さった男が飛び出してくる。この男は誰なのか??

そのまま、車に引かれたスンフン。目を覚ますとチェ元刑事がいる。
ヨンフンは無事だったと知り、スンフンは安堵する。
だが、スジョンの死体が見つかり、彼は容疑者になっていた。情報提供が会ったのだ。スンフンは、妻の頭が精肉食堂の冷凍倉庫にあると言い出す。
しかし、チェ元刑事のオフィスに、「ナム・インス」と書かれた封筒があり、彼はチェ元刑事を名乗る男に騙されていたことを知る。スンフンは元刑事を殴り、逃げ出す。

精肉食堂で生首を探すうち、チョンの息子に見つかり、ケンカになる2人。スンフンは首を絞められるが、そこに警察が突入する。落ちた生首の袋を蹴り飛ばしていく警察。それは人間の生首ではなく、牛の生首が入った袋だった!

関係者の取り調べが進んでいく。
・薬を盗んでいたのはスンフンだった
・病院の宿直室に泊まるため、「ボイラー工事があった」といっていたのがウソだとバレる
・スンフンは、精肉食堂から解体用の包丁を2本盗んでいた
・チョンの息子は、ヨンフンに親切にしていた(だが、スンフンは異常に激高した)
・チョンの孫は、借金取りにスンフンが殴られていたと証言。さらに、街で絡まれたともいう(スンフンが目撃したいじめの光景は、偽物だった??)
・スンフンの家の冷蔵庫から生首が発見される
・ミヨンは失踪していない。スンフンを怖がり、出勤していないだけ。
スンフンはプロポフォール(睡眠導入剤)の中毒で、ウトウトしている時に彼女に殺人を自白していた。元妻と一緒にいるところを目撃したと彼に告げただけで、スンフンはミヨンに激高。追いかけてきた(謎の男ではなく、彼女を尾行したのはスンフン本人。殴ったのはミヨン)

実は、スンフンは金融会社の女社長、ペ・ジョンジャを殺していた。先日見つかった首のない死体の正体は、彼女だった。そして、彼の家の冷蔵庫にある生首はこの女性のものだった。
そしてメスで目を刺された男は、彼女の部下だった。
不眠症の女社長は、普段からプロポフォールを注射してもらっていたのだが、スンフンの借金の利子代わりに、彼から注射を受けるようになっていた。だが、スンフンは彼女を殺した。部下はそれを目撃し、2億ウォンを口止め料として受け取った。しかし、男はさらに金をゆすりとるため、逃げたスンフンを探し続けた。なお、その犯行(川に死体を捨てるところ)はドライブレコーダーにすべて映っていた。

そして、チェ元刑事の正体はナム・インス。スンフンの先輩医師であり、彼のセラピストだった。
スジョンと最後に会った日。2人は久しぶりに関係を持つが、妻の顔が女社長に見えてしまう幻覚に苦しめられるスンフン。
だが、彼は元妻を殺していないと主張する。

その後。スンフンは逮捕され、チョンの孫はフィリピンに留学する。
精肉食堂にも監視カメラがついた。チョンの息子の嫁も実家から戻ってきたが、彼女の手には、義母の指輪がはめられている。気まずそうな息子。
チョンの息子は、父に対して「監視カメラがあるから、もうあんなことはしてはいけない」と戒める。

「日が沈み、暗くなれば 人が消えても何もわからない」

スンフンの妻を殺したのは、チョンだった。息子はそれを知り、妻の車からドライブレコーダーを外し、死体を山に捨てたのだ。
また、ミヨンもやはり、裏で薬を売買し続けている。彼女も、スンフンに罪をなすりつけたのだろう。

感想

スンフンは借金のカタをつけるために女社長を殺し、その死体を捨て、首だけは自分で保存していた。そして、脅迫してきた男から逃れるため?病院を閉め、田舎の病院に移り住んだ。しかし、彼は元妻を殺していない。
元妻を殺したのはチョン老人、その死体を処理して罪をスンフンになすりつけたのはチョン老人の息子だった。チョン老人は連続殺人鬼であり、おそらく自分の妻を殺している。
ミヨンは薬の横流しをしていたが、スンフンにその罪をなすりつけた。だが、スンフン本人がプロポフォール中毒だったというのもおそらく真実。

途中までは好青年(中年?)だったスンフンが、他の人間から見ると不気味で冷酷な男だったというのも怖い。とはいえ、編集がブツ切りであり、いかにもスンフンがあやしいと思わせるシーンもあったので、ラストが予想できなくはないのですが、この「全員悪人」感はたまりません。主演のチョ・ジブンの好演が光りました。監督のイ・スヨンは「4人の食卓」の監督でもありました。納得。