「鰻の男」

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2014年の韓国映画「鰻の男」。キム・ギドク監督が脚本を担当しており、監督はまた別の人のパターン。でも、この映画はなかなかに考えさせられるのであります。
原題は「MADE IN CHINA」。鰻の養殖をしていた中国人が、その鰻の再検査のために韓国に密入国するという話。私自身、すごく考えさせられた映画です。

あらすじ

鰻の養殖をしていたが、その鰻から水銀が発見されたため売り物にならず、父が倒れた中国人青年。もう一度検査をしてほしいと食品保全庁に申し入れにいくため、韓国に密入国した青年だったが、韓国から見た中国の現実は、あまりにシビアなものだった……。

ネタバレ

冒頭。体を切り裂かれた鰻が、シンクの中でのたうちまわっている。

中国から韓国へ密入国をするらしい人たちを乗せた、船のなか。食べ物を巡って喧嘩がおき、女性を強姦しようとする輩も現れる。主人公の青年はそれを助けようとして、親切な男と知り合う。
この男は、出稼ぎにいったまま韓国人と結婚した嫁を探しに密入国をするらしい。青年は鰻の検査をするために、わざわざ密入国をするという。水銀が発見された鰻は売り物にならず、父は心労で倒れてしまった。もう一度検査をして、父のためにも鰻を売りたいというのだ。

船が湾に近付いた時点で、海に飛び込んで岸まで泳ぐ2人。境界線を越えようとするが、男は間に合わない。妻を制裁するための拳銃を託され、青年は逃げる。男は目の前で射殺される。

サウナで服や財布を盗み、食品保全庁へ向かう青年。しかし、誰にも相手にされない。トイレの便器の中に鰻を入れ、世話をする。

食品検査を担当している女は、この青年の横を通って出勤。次々と鰻はアクシデントで死に、男は警察にも目を付けられる。

女は青年に後をつけられ、鰻の再検査をするように脅される。その通りに検査するも、鰻からは水銀が検出される。間違いだと言う青年は、「鰻を毎日食べているから」と自分の肉を抉って検査させる。しかし、その肉からも多量の水銀が発見される。肩を落とす青年。

青年を自分の家に連れ帰る女。女は青年にキスをして、そのまま体を重ねる。

青年は、自分を逃がして射殺された男の妻を探しに行く。やはり、男と暮らしているようだ。

中国にある鰻の店では、同じように中国人女性が働いている。やたらとからかわれている中国人女性。からかい続ける者と、それを諌める者が喧嘩を始める。

居候をしている青年は、女から買い物を頼まれる。買ってきてほしい物を、イラストのメモで書いている女。
しかし、帰ってきた女は青年の買い物を見て眉をしかめる。「中国産」ばかりだから。「中国産はダメよ!」といって、作った食事も買い物もすべて捨ててしまう。青年はそれを食べ、無理矢理口移しで食べさせる。

女は、青年に仕事を紹介する。鰻の店で、中国人女性が通訳をしてくれる。

女にキスされた青年。彼は「……メイドインチャイナ(俺は中国製だ)」とつぶやいた。

青年は倉庫番をすることになる。いかにも怪しげな倉庫だが、中に入ることは禁じられている。同じ倉庫番の男(韓国人)に「メイドインチャイナ」とからかわれる青年。しかし、腕っぷしの強さは青年のほうが上だ。

ホステスのいる店で、仲間と飲むことになる青年。
「兄さんたちをどう思う」と聞かれて「メイドインコリア」と答える。
中国人ホステスに無理矢理迫るチンピラたち。青年とチンピラたちは喧嘩になりかける。

この店の廊下で、女と青年はばったり会う。倉庫を管轄する会長と女は会食をするようだ。
こっそり家に帰る青年。帰ってきた女は泣き出している。青年はそれをベランダから覗いている。

倉庫の番をしている青年。倉庫のなかから、鰻が這い出して来る。中に入っていく青年。そこには、青年とその父が育てた鰻を流通させているチンピラたちの姿があった。つまり、検査ではねられた処分予定の鰻を、韓国企業が横流ししていたのだ。そしてその検査を担当し、横流しに加担していたのは他でもない、青年と一緒に住んでいる女なのだ。

女が許せない青年。しかし、青年に許してほしくて、女は冷蔵庫にあった中国産の食べ物を口に押し込む。

チンピラとまた喧嘩になる青年。「メイドインコリアはそんなに偉いのか!」と怒鳴る。

女は、青年を鰻の店に連れていく。中国人女性店員を通じて、「水銀が排出されて汚染された地域では、鰻の養殖はできない。諦めろ」と伝える女。そしてもうひとつ尋ねる。
「あの店のホステスの女の子と、あなたは寝たの?」
どうやら女は、やきもちを焼いているようだ。

女は保全庁にもう一度男を連れていく。自分の肉を切り、検査する女。その水銀値は、鰻よりも、青年よりも高い。「私もあなたと同じだわ」と泣き笑いしている。

倉庫に押し込み強盗をして、鰻を盗む青年。そのまま川に逃がす。

そして冒頭に死んだ男の妻を襲撃する。妻に「この男を愛しているならば足を撃て、死んだ夫に申し訳ないと思うならば、心臓を撃て」と銃を握らせる。足を撃つ妻。そのまま、青年は姿を消す。

女は金を偽造パスポートを用意して、青年を中国に逃がす手配をする。
しかし青年はその金を持ち、鰻の店で働く中国人女性のもとを訪れる。いつか自分の店を持ちたいと語っていた彼女に、「共同経営をしよう」と持ち掛け、金を全部渡す。「自分が中国で安全な鰻を育てて、送るから」と言う青年。しかし、店から出たところをチンピラたちに捕まってしまう。

呼び出される女。鰻の横流しをしている企業の悪事に、さらに加担させられることになる。青年を助けた女だが、2人で川を訪れると、そこには大量の鰻の死骸があった。その死骸を見て、泣きじゃくる青年。

女は車のところで青年を待っている。だが、青年は来ない。そのまま、女は霧のなか、車を走らせていく。

鰻をまじめに育てている青年とその一家だけれど、それが工場の汚染排水のせいでダメになってしまう。しかし、そのダメになった鰻をこっそり流通させている韓国企業。悪いと知りつつ、脅されて加担してしまう女。

それ以外にも、中国人の夫を捨てて韓国人男性に走る妻、「中国人ホステスならば何をしてもいい」と思い込んでいるチンピラ、中国よりも汚染されている(ラストの鰻の死は、韓国の河川も汚染されているということの表れなのか?)韓国。愛し合うようになる青年と女ですが、そもそも言葉が通じず、最後までちぐはぐな関係が続きます。
自分の中にも意識していなかった偏見があったのかもな、と考えさせられる話。