「ファイナル・アワーズ」

finalhours

2013年のオーストラリア映画「ファイナル・アワーズ」(※TSUTAYA限定レンタル)。
オーストラリア映画は秀作ホラーが多い印象ですが、この映画もやや小粒ではあるものの、なかなかに絶望する映画。
「あと12時間で死ぬんだよ、どうする?」という質問を、真っ向からツバのように吐きかけられた気持ちになります。
死ぬ前に、どうしても人を助けたいと思うその気持ち。すばらしいですね、などと言ってみます。

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あらすじ

ジェームズは世界の終わりが来るのが怖くてたまらない。
彼女・ゾーイを捨てて、もう一人のガールフレンドが待つパーティ会場に向かうことになるのだが、そこで男たちに拉致される少女を目撃して……!

ネタバレ

世界が確実に終わる、12時間前。
主人公・ジェームズは彼女が2人います。この大前提からしてクズっぽくてすばらしいですが、どっちが本命なのかよくわからないのもすごい。
1人は友達の妹で、美人でスタイルがいいけれど超ビッチ。もう1人はまじめでキレイ系なのですが、ちょっとマジメな感じです。

冒頭はこの主人公と、後者であるガールフレンド・ゾーイがガッツンガッツンと交尾しているところから始まります。
しかし、ジェームズはどうしても死ぬのが怖い。オクスリをやるのですが、ゾーイはそれに否定的です。
ジェームズは彼女を誘って。友達が開催しているパーティでしこたまクスリとお酒をキメようとするのですが、断られて仕方なしに1人でパーティに向かうことに。

車で移動中。住宅街では若者が暴徒と化し、ヒャッハーしまくりです。死体も転がり、車も炎上しています。
ですが突然、牛刀を持ったマジキチ男に車をハイジャックされるジェームズ。そのへんの人をメタメタに殺しまくるこの男にビビリ、車を捨てて全速力で逃げることに。

なんとかこの男をまいた後に、嫌がる少女を家に連れ込んでいる男2人組を発見します。躊躇しつつも、どうしても彼女を救わなければいけないと思う、意外にいいヤツ・ジェームズ。ロリコン男たちを乱闘の末に殺してしまいつつも、女の子・ローズを助け出すことに成功します。

パパと約束しているという彼女のために、待ち合わせ場所までローズを送ることに。しかし、駐車場の車のところにはパパはいません。辟易するジェームズ。
とりあえず、主人公の姉の家に行くことにします。
姉ちゃんはいい家に住んでいます。家の中にはなぜかクリスマスツリーがあり、誰もいない。ウロウロするジェームズですが、シャワールームで裸で死んでいる姉夫婦を、庭に埋められている姪っ子たちを発見するのであります。

落ち込みつつ、一刻も早くパーティに行きたい主人公は、図書館にいた警官一家にローズを預けようとします。
しかしながら、警官に逆に「俺の娘を殺してくれ、俺にはできない」と懇願されます。「そんなのできない」と断れば、「じゃあ、代わりに俺を許すと言ってくれ」という警官。警官はおそらく、自分の家族を殺すことを決意。主人公たちはそれを見ることなく、図書館を後にします。

さて、頼るところもないのでとりあえずパーティ会場に行ってしまったジェームズ。
たくさんの人がパーリータイムしているのですが、トランスがかかりまくるなかで、ガチのロシアンルーレットやら乱○やら行われており、その横で悲壮な顔で抱き合っている人たちもいて、もうなんだよこのパーティという感じ。
このパーティの主催者が彼の親友のモヒカンくんであり、その妹がもう1人の恋人です。

しっかし、この彼女がイジワルで頭弱くてワガママで、なんでコイツと付き合ってたんじゃ……という感じ。
主人公とガールフレンドは話し合いをすることにしますが、その間、乱○パーティにローズを置き去りにします。

ローズはとりあえずプールに服のまま潜り、眼を開いて水中を眺めます。
と、そこに「アナタは私の子よ!」と言い出すマジキチおばさんが現れます。
このシーンが怖いんだ。いったん追っ払われたものの、人の群れの中を泳ぎながら、眼をカッと見開いていちもくさんに水をかきながら進んでくるのです。
この女に薬を飲まされて、具合が悪くなるローズ。

その一方、ジェームズと彼女は話が噛みあいません。「最後にセ○クスしよ!」と、『東京ラブストーリー』を彷彿とさせる(させねーよ)ゾーイ。とにかくオクスリと性行為に逃げている彼らに、主人公は苛立ちを隠せません。
簡易的な地下室を作り、1年間は暮らせるよ!とニコニコするゾーイに、隕石が衝突したんだから地上が焼け焦げて生き延びられるわけがない、そもそも生き延びたいならもっと深く、それこそ何千キロも掘らないとダメだ!とまっとうなことを言うジェームズ。その正論に彼女は泣き出し、彼女の兄はそれを見て激怒。ローズと立ち去ろうとするジェームズを射殺しようとします。
ですがその銃を奪い取って、しつこいマジキチママを射殺したのは他でもない、彼女だったのであります。

さて、ジェームズはぐったりする少女を連れてママのもとへ。
彼女は1人ぼっちでジグソーパズルをしています。他の住民はデマに惑わされて、なぜか森に隠れているそう。ママはそれを「バカ」と笑い飛ばします。
彼女は少女に手当てをしてくれて、服も貸してくれます。そんなママに、自殺した姉のことが言えない主人公。

女の子をパパのところまで送り届ける。それを「こんな時に?」と非難しかけたママですが、「あんたのしていることはいいことだ」とニッコリ。主人公もママに「パズル、完成させてね」と告げて立ち去ります。

そして少女のおばさんの家に彼女を送り届けるのですが、そこでは皆が既に集団自殺しており、パパの死体も転がっていました。ショックを受ける娘。しかし、彼女はパパの死体のそばで一緒に死ぬことを選択、主人公とハグしてお別れします。

最後、ゾーイ(最初に一緒にいたが見捨てたマジメ系美人のほう)のところに向かうジェームズ。気温が高くなりすぎたせいか、車がヒートしてしまい、さらに爆発!爆発はどういうこっちゃですが、ダッシュで彼女がいる海のそばの家に。

しかし、家の中に彼女はいない。ビーチに向かうと、そこには怒っているゾーイが!ビンタされつつ、「ごめん……でも、きたよ」と開き直るジェームズ。そんな時でも、海の向こうからは、赤く燃えるマグマのような炎と煙の塊がすごい勢いで押し寄せてきます。
それを抱き合いながら見つめていて、火に飲まれる直前。
「きれい」とつぶやくゾーイ。で、終わりです。

この映画はもっとクソ映画かなあと思っていたのですが、全然そんなことがなかったです。
・巨大隕石が巻き起こした炎と煙が押し寄せてくる描写が、恐ろしいながらも美しい(構図は『ドラゴンヘッド』に似ています。私はこの映画好きだよ)
・長いような短いような、奇妙な12時間。
・パーティでアゲアゲな人たちが滑稽。主人公ママの「世界が終わる時に孤独でも、平気さ」と言わんばかりの余裕のほうがなんだか、気高い感じがする。
・貴重な時間を人のために捧げることに、何の意味があるのか?
偽善?自己満足?このどちらでもないということを、この映画は教えてくれているような気がする。
・キチガイママが水中で迫ってくるシーンがホントに怖い。
でも、この人もいろんないざこざのなかで子どもを失い、そのせいで心が壊れかけてパーティに来て、オクスリやってるのかもしれませんけど。そう考えるとね……。

ビジュアルもコンパクトですがB級感が薄く、引きつけられるシーンも多かったです。なめてかかると、意外とヤラれる映画。