「悪魔の倫理学」

akumanorinrigaku

2013年の韓国映画「悪魔の倫理学」を見ました。サスペンス映画なのですが、非常にハラハラ…するかと思いきや、テーマは「犯人捜し」ではなく「誰が彼女を死まで追い詰めたのか」というもの。つまり、誰が“悪魔”なのか?という話ですが、カメラのアングルなどが凝っていたり、暴力が非常にシャープに描かれていたりと、ユニークな作品であることはたしか。
人間がいかにしたたかでたくましいものなのかを描いている印象です。

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あらすじ

美しき女性、ジナ。
彼女の突然の死に衝撃を受ける男たち。
果たして、ジナはなぜ死ななければいけなかったのか。彼女が死んだ理由を巡り、4人の男たちが対峙する。

登場人物

キム・ジョンフン:ジナの隣人。彼女の電話を盗聴し、部屋の様子も盗撮していた。職業は警察官である。
ハン・ヒョンス:ジナの元恋人。彼女に執着していたが、現在は別の恋人と交際中でもある。しかし、それでもジナが忘れられない。
パク・ヒョンロク:借金取り。一見物腰が柔らかいが、怒らせると怖い。金の亡者である。ミンテという運転手兼用心棒をいつも連れて歩いている。
キム教授:ジナと不倫していた恋人。彼女を愛していたが、妻には頭が上がらない。ジナを殺した疑いで逮捕、拘束される。

ジナ:美しい女性。多額の借金を返すためにモデルとしても活動している大学生。突然殺されてしまう。

この映画の大前提として、その登場人物のパートに入る時には頭上からカットインするという設定があります。
これが面白い。その人物の背景とか、生活感みたいなものがすぐにわかるのです。

ネタバレ

殺されたジナは、モデルもする美しい女。街を歩けばみんなが振り返ります。
彼女が歩いているシーンから物語は始まり、ウエディングモデルのバイトとは別に、カメラマンのプライベートモデルもするシーンが挿入されます。彼女がいかに美しいかを強調する場面なのかな。そして彼女は恋人を呼び出し、激しく自宅で求め合うのです。

そんなジナの隣の家の青年、ジョンフンは、なんと彼女を盗聴・盗撮しています。大好きな彼女の声を聞き、映像の中の姿を眺めるのが彼の日課。しかし、ジナが殺されたことを知り、ジョンフンは激しく動揺します。
ジョンフンは映像をチェックしていくうちに、元カレのヒョンスが彼女を殺したことを突き止めます。ヒョンスも彼女の家で自殺をしようとした時に、首吊りロープを吊った電灯部分からジョンフンの仕込んだ機材を発見、ジョンフンの存在を知ります。
お互いに悪感情しかないので大喧嘩になりますが、大事には発展しないまま2人は別れます。

ジョンフンはとりあえずジナの家のカメラやマイクを回収しようとしますが、今度はミョンロクと鉢合わせします。借金取りの彼は、大金をもたらしてくれたであろうジナが死んだのが悔しくてたまらない。だから、ミョンロクは何かを知っていそうなジョンフンをタコ殴りにしてジナの音声も映像も奪い、ヒョンスの存在を突き止めて彼を追いかけます。

しかし、それとは入れ違いでヒョンスは助っ人を連れてジョンフンの元に戻ってきます。でも、ボロボロになっているジョンフンを見て愕然。ヒョンスは自分の現恋人のところに電話をしますが、彼女のところにミョンロクが現れていることを知って慌てて駆けつけます。

ミョンロクを不意打ちで襲撃しようとするヒョンスですが、まったく歯が立たず。彼は捕まってしまいます。ミョンロクは「本当の犯人を捕まえた」と誰かに連絡するのですが……。

その一方で、犯人として捕まっているキム教授。自白を強要されますが、そこに彼が最も恐れる存在である妻が登場。キム教授はジナを殺していないのに、「そのほうがまし」と犯人として収容されようとします。

ジョンフンは彼の家に唯一残っていたジナの音声データを聞きなおします。彼女の歌声が入っているそのCDを聞きながら彼は涙を流し、銃を持ち、あるところに向かう決意をします。

ジナが冒頭、撮影をしていたスタジオ。
そこには、ほぼ裸で折檻されているヒョンス。拷問を行おうとするミョンロクとミンテ。そして、ミョンロクの車に乗せられていた女子(風俗嬢?彼を接待しようとする男が無理やり車に乗せた)も居合わせています。しかし、そこに突然現れたジョンフンが銃を持ってきたことでパワーバランスが崩れ、ジョンフンはミンスを撃ち、ミョンロクにジョンフンが刺され、そのジョンフンがミョンロクを撃ち返すという壮絶な戦いに。

倒れているミョンロク、ジョンフン。死んだミンテ。そして、拘束されていて動けないヒョンス。
そこに現れたのは……ミョンロクに「真犯人を見つけた」と呼ばれていた、キム教授の夫人でした。

奥さんはイスに座り、彼らの話を聞きます。そして彼女が持ち出したのは「和解」。犯人はキム教授だということにして、刑務所に入ってもらう。
そして3人が和解すればめでたしめでたしではないかというのです。
盗聴や盗撮をしたけれど、ジナを直接傷付けてはいないジョンフン。
愛しているからこそ、殺してしまったヒョンス。
夫人からも莫大な利子をとるような金の亡者だが、犯人を捕まえたミョンロク。
お互いにそれを理解し合えばいいんじゃないか、というのです。そうしようと努力をする彼らですが、やはりお互いが許せない彼ら。そうこうしているうちにジョンフンが出血多量で死亡、そしてまだまだ息があるミョンロクは奥様が窒息死させます。残ったヒョンスに、彼が口走った「自殺」というワードを引き合いに出し「あなたは自殺するんでしょ?」(だから殺さないでいてあげる、という意味か)とナイフを投げて去る奥様。
しかし、スタジオの責任者がそこにやってきた時、逃げていく女の子(ミョンロクの車の中にいた子)とすれ違い、切られたロープと手錠、そしてジョンフンとミョンロク、ミンスの死体を発見するのです。

奥さんを裏切ったヒョンスが出頭したことで、教授は無実だとわかります。
既に離婚が成立し、奥さんにほとんどの財産をもぎとられているキム教授ですが、現場を目撃した例の女の子とコンタクトをとり、話を聞こうとしています。この女子に甘えられ、ニヤつく教授。それを横目で見てあきれている弁護士。そして、その女子はキム教授の嫁にも電話をしており、彼女を脅迫するようなことを言っています。もしかして、また悲劇が繰り返されるのだろうか?と思わせる展開です。
そしてカメラが頭上に上がっていき、冒頭と同じ交差点にいる(つまり、冒頭に戻ってきたような印象)のシーンで終わります。

ずーっと「犯人は誰?」と探し続けて、実は別に犯人がいた!という映画かと思いきや犯人はヒョンスなのは確定。
でも、彼女のプライバシーを妨害し続けていたジョンフンや、彼女を傲慢に愛して自分の思い通りにしてきたキム教授、金のために彼女を動かし続けたミョンロク。
すべてが彼女の死のきっかけになったのでは?ということなのでしょうが、いやーヒョンスがぶっちぎりで悪いでしょという印象しかありません。

ミョンロク役の俳優さんが最初は優しそうなのにすぐ女の子をタコ殴りにしたり、「俺は今、猛烈に怒っている。だから足をくすぐれ」と言って、女子に足をくすぐらせながらべらべらしゃべり続ける場面があったりと、かなり面白い役どころだったかなあという印象はあります。

アメブロのほうで以前レポートした「LOFT」というベルギー映画なんかは、男たちが共同で借りていた秘密の部屋で女が死んでいた!犯人は誰?という映画。邦画だと「キサラギ」あたりが、クローズドサークル×殺人謎解き映画としての印象が強いですよね。こういうののほうが好きかもしれない。
でもこの映画は、犯人はわかっているのはおいといて、それぞれがそれぞれを許せない!ジナは俺のものだったのに!とずっと思い続けており、それがこんがらがったまま終わってしまうのが魅力。キム教授の妻の悪女ぶりはテンプレながらもいかにもという印象で好感が持てましたが、他は誰も……だったなあ。
個人的には、ミンテとキム教授の奥さんが通じていて、皆を揉めさせてジナを殺させようとしたのなら面白かったかもしれない。