ものすごく変わったホラーだと思ったら、イスラエルのお話だった。イスラエルの女性に求められる女性観だったり、現地の宗教観みたいなものを外様としてうっすら感じることができる映画。
それが2018年のイスラエル映画『ザ・ゴーレム』。PG12らしいですが、その理由はよくわからない。
シッチェス映画祭にて上映されてもいる作品だけれど、どちらかというと地味。というよりもホラー映画としての要素は薄い。
「女性」を描いている映画、「母」をテーマにした映画。
よく言えば普遍的、悪く言えば「見たことある」感じの作品です。
ストーリーは以下。
- 息子を失い、次の子供もなかなかできない女性(主人公)はひたすら悩む
- 主人公夫婦を含む村の一族と仲が悪い別一派が結婚式に乱入。娘が伝染病なのにへらへら祝うんじゃねえと難癖をつけ、花嫁を蹴り付けて流産させて(絶句する展開ではある)、「娘を死なせたらお前も同じ目に遭わせる」と医師を連れだす
- 村一族のなかでは、乱暴者一派を排斥するべきか、共存すべきかで意見が分かれる。とりあえず我慢することに
- 夫が別の女に言い寄られているところを目撃し、気持ちが乱れ、ゴーレム人形(子供)を生成してしまう主人公
- ゴーレムと息子がダブり、愛情が芽生える主人公。ゴーレムは主人公の心を読み取り、夫に言い寄った女を手にかける
- 村一族と乱暴者一派が大喧嘩に。夫を助けるため、ゴーレムは乱暴者一派をボコボコにして村から追い出す。しかし、ゴーレムを危険視する医師をも殺めてしまう
- ゴーレムの危険性を察知する夫だが、主人公は息子を失う悲しみをまた味わいたくないと主張。ゴーレムを土に返すことができない
- 乱暴者一派が村に復讐にやってきた(病気の娘と一緒に村を出て行ったのに彼女の姿が消えていることから、娘は命を落とし、その復讐と推測される)。殺されそうになる主人公を見つけ、ゴーレムは殺戮を繰り返す
- たくさんの遺体が折り重なるなか、主人公はゴーレムを土に返す
このディスコミュニケーションよ!!! 乱暴者の娘も「やめてくれよ…」って思ってそう。
この映画の軸になっているのが、やはり母親の愛。
ひたすら「子供を産みたい」と願う母の姿と、それを見守る周囲との温度差。どちらかというと自責の念が強い主人公ですが、やはり周囲も「子供を産まないと存在価値がない」という主張をやんわりぶつけてきたりして…
このあたり、どの時代もどの国もあまり変わりないのかもしれません(地域差・個人差はありますが。私自身は周囲の意見はどうでもよいと思っています)。
不妊の女性が魔術で子供を作り出す(息子の代替品として)とか、その子供が暴走してしまうとか、ホラー映画としてはわりとありふれたストーリーではありますが、シンプルながらけっこう見入ってしまった。
村の素朴な感じが「ミッドサマー」っぽくて不穏だったから。「ウィッカーマン」とか。
あのポカンと抜けたような青空と、目を刺すように鮮やかな花や食材や女性たちの表情、そして麦色で構成されたようなくすんだ色合いの被服やインテリア。
邦画だとあの空の色はもちろん、洋服の色合いって絶対に感じられないですね。着物だとああいう色合いのものってあまり見たことがない(リアルには存在していたかもだけど、映画とかドラマでは色合いにバラエティをもたせているからかな)。
江戸時代とかまで遡ると、日本の村人って質素で薄着なイメージよね。茶色、緑色、紺色あたりのカラーリングのイメージで、冬になると蓑を身に着ける感じでしょうか。
日本の昔のホラーも怖いですけど(わかりやすいのは八墓村とかかな)、海外のぽっかり青空って飲み込まれるような、心を持っていかれる感じの怖さがある。