最近、オムニバスとか短編集のホラーがあまりリリースされていない気がする。なんでだろう。
ということで、オムニバス形式の2015年のアメリカホラー『サウスバウンド』を見ました。サウスバウンドって南の方角に向かうって意味があるんですね。
ひとことでいうと疲れている時に見る悪夢を現実でも見ているような感覚の映画。なぜそうなった?という理由が一切なされないまま、砂漠のなかの奇妙なコミュニティに迷い込んだ人たちの困惑がひたすら描かれています。
5話構成です。
1話
2人組強盗が、ある店に辿り着く。彼らはガイコツに羽根が生えた化け物(上半身はガイコツ、下半身は根っこのようなタコのような体。それに悪魔の羽根が生えているが、基本は骨のみ。どうやって飛んでんだ?)に追いかけられている。
このもわもわと飛んでくる黒靄みたいな描写はNOPEっぽいというか、白石晃士監督の映画っぽくてちょっとアガります。
同じ場所に戻り続ける現象に悩み、1人は車を捨てる。もうひとりはまた車に乗り込むが、化け物につかまって体液を吸われてしまう。逃げた男はモーテルに逃げ込むが、幻覚に惑わされて狂ってしまう。
掃除係は彼が入っていった部屋(叫び声が聞こえてくる)に「掃除不要」の札をひっかけて去っていく。
2話
(1話の男が入っていった部屋から出てくる、という描写があるので微妙につながっているような気にはなるが、1話との関連性はほぼなし)
ボロ車で旅をしているバンド女子たちだが、旅路の途中でエンストを起こす。奇妙な夫婦に連れていかれた家で食事をご馳走になった後、2人の友達は様子がおかしくなり、家主の夫婦やその仲間たちに同調する言動を繰り返す。
1人だけ正気を保つ女の子は友達が洗脳の儀式に巻き込まれているのを見て逃げ出し、そのまま車にはねられる。
このエピソードは80年代っぽい雰囲気でよかったですねぇ。シンプル。
3話
バンド女子(2話の主人公)を車で轢いた男。救急外来に電話をするが、無人の病院で手術をさせられ、結局彼女は息を引き取る。男は病院を後にするが、その電話相手の女性は救命士でも医師でもなく、謎の中年女性だった。彼女は(なぜか)電話ボックスのなかにいたが、男との通話を終わらせる。
できないのに手術をやらされる、自分が轢いた人の体の中に手をつっこまされる。ってけっこうムチャクチャで怖いシチュエーションですね。今までのホラーではあまり見たことがない描写かもしれない。
4話
3話の中年女性が入っていったバーに、強盗が入る。失踪した妹を探しているという彼を、ある部屋に案内するバー店主。そこには失踪した人物たちが何人もとどまっている部屋だった。
男は妹を見つけるが、彼女は帰りたくないという。嘲笑うバー店主を撃ち、妹を連れ帰ろうとするも街を脱出できず、彼は命を落とす。
あまり面白味はないのだが、このエピのおかげでコミュニティの奇妙さが際立つ。現実と夢のはざまにある場所、という印象が強調されている。
5話
4話に登場した妹とすれ違った一家のお話。
引っ越してくるが、謎の強盗団に襲われて命を奪われる。その強盗たちこそ、1話の男たち。一家の体が割れ、上半身ガイコツ下半身タコの化け物が飛び出してくる。あと、地面からも出てくる。
強盗に襲われる描写はいつもの「ファニーゲームUSA」あたりをオマージュ?地面から飛び出す化け物はちょっと「トレマーズ」っぽい気もするなあ。
この一家がまた服装の印象が古いんですよね。50年代あたり?詳しくないのでわかりませんが、パパが緑のギンガムチェックのシャツを着ているのがかわいい。さまざまな年代のファッションや家具がごちゃごちゃ登場するので、それもまた奇妙な感じがする。自分がどこにいるのかわからなくなる感じ。
で、1話に戻る… 永遠にループ。
各エピソードの冒頭に必ず、ラジオのような音声で登場人物たちへの警告が入るのも昔のホラーっぽい感じがしました。
初見で見るとかなり混乱させられるし、ちょっと長いかも…(電話通話のシーンが多い3話は特に)と思うところもあるのですが、エピソード1のインパクトがものすごすぎて気になりません。
ガイコツが飛んで来て車のフロントガラスにビターン!とぶつかってくるシーンには、痛みすら想像してしまう。
こういう「脱出を許さない閉鎖コミュニティ」ホラーが大好きなんです。あれ、でも3話の男だけは脱出したのかな??
よくわからないですが、そこまで考えなくてもいっか!とおおらかに観られるのもいい。