美しい人魚になるための醜く残酷な過程とは「ブルー・マインド」

ブルーマインド

2017年のスイス映画「ブルー・マインド」。
私のお気に入り映画「ワイルド 私の中の獣」という映画は狼と愛し合う女の子が主人公でしたが、この映画はそれと共通点が多い。といっても、魚に変化していく女の子が主人公です。しかし同じくらい映像美と孤独な女の子の内面を描くことに力を入れており、過激な描写も同じく多いです。

主人公のミアは初潮もまだの女の子。ただし両親とうまくいっておらず、自分が養子だと信じきっています。転校した学校で不良の女の子グループに気に入られようと話しかけ、痛い子扱いされながらもそのグループに必死に混じっていくミア。タバコ、お酒、男を必死で覚えつつも、なぜか足がどんどん魚のように変化していっていることに気が付きます。

人魚になるというとロマンチックな印象がありますが、足の指がくっつき、肌は紫に変色してうろこが生え、生の魚を貪り食ってしまうなど変化はいやに生々しく、まわりからは性病のせいだと思われるという恐ろしさ。
望まない方向への体の変化と初潮や第二次性徴を結びつけるのは、股間が男性器を食いちぎるようになってしまう女の子が主役の「女性鬼」と重なりますね。

また、彼女を取り巻く男性があまりにダメな男ばかりで、ロリコンや体目当ての男。そんな男たちを弄び、酒とドラッグとタバコでハイになりながら傷付かないフリをするミア。
ただし、最後はその変化をみんなの前で晒され、不良仲間の女の子が彼女を助けようとするも「構わないで!」と叫んでしまうのです。この不良仲間の女の子もイジワルでビッチな描かれ方をしているのですが、最後には彼女の唯一の味方となり、完全に足が魚になった彼女を海に運んで2人で涙を流します。最後は海に入るミアですが、オープニングでは幼少期の彼女が海を見つめている場面もあり、彼女の正体は謎のまま。

人魚になった彼女が家中に水を溢れさせ、ひたひたになったリビングでぼんやりするシーンや、海に還っていく途中で足ヒレを翻しながら潜り続ける場面などはとにかく美しく、どことなく投げやりで残酷で素晴らしい。
途中の展開が痛々しすぎて直視するのがつらい(共感性羞耻を刺激されます)し、スイスの不良はこんなにワルなの…?と言いたくなるくらい生活実態がヒドイのですが、最後のほうになるとただの子供にしか見えなくなります。

怖すぎたりまっすぐすぎて滑稽に見えるところがまったくないため、とにかく重い映画ですが、こういう映画が好きな方は一見の価値があります。