「獣は月夜に夢を見る」

獣は月夜に夢を見る

2014年のデンマーク/フランス映画「獣は月夜に夢を見る」。美しい田舎の風景と、残酷な展開。見た目にもキレイなお話なのですが、王道のようなストーリー運びでありつつ、まだ真相が明らかになる前の前半、世界からつまはじきにされているように感じる少女の孤独さにまず胸を打たれる印象。

登場人物

マリー:美しいが、孤独な少女。車イスでほぼ寝たきりに近い母親を持つ。
マリーの父:ずっと献身的に妻の看護をしている。
マリーの母:ほとんどしゃべれず、動けない。何の病気なのかはマリーに隠されている。

ダニエル:仕事先でマリーが出会った親切な青年。
エスベン:仕事先でマリーが出会った意地悪な青年。しょっちゅういじめに近いことをしている。ヒゲ面の友人といつも一緒にいる。
フェリックス:仕事先でマリーに仕事を教えてくれた青年。友人に近い関係。

ネタバレ

マリーは病院にかかっている。だが、その理由はよくわからない(本人にもわからない)。
母は車イスで生活している。

マリーは魚の加工業者のもとで働き始めるが、エスベンに転ばされたダニエルを助ける。だが、エスベンに水槽に突き落とされ、唖然とする。それがこの会社の「通過儀礼」(新入社員?はみんなやられる)だったにしても、水槽から落ちてズブ濡れだし、そのままホースの水をかけられてゲラゲラ笑われ、彼女はどうしていいかわからなくなる。

マリーは母のカルテを盗むが、どうにもよくわからない。

エスベンはマリーのことを母親をネタにからかう。それをフェリックスがかばってくれる。
だが、マリーが更衣室にいる時、マスクの男が入ってきて彼女を襲おうとする。といっても、顔に魚を押し付けられて終わり(エプロンの下にあるのはアレかと思いきや、魚だったというくだらないジョーク)なのだが、彼女は深く傷つく。
その夜、マリーは胸に赤いあざができていることに気が付く。

母と散歩しているマリー。ダニエルと偶然出会うが、彼は礼儀正しく母親に挨拶し、優しく手を握る。嬉しそうな母親。
だが、食事を拒む母親に、マリーは無理やり食べさせようとして父と喧嘩になる。母親は何の病気なのか問いただそうとするマリー。自分の胸のあざも見せてしまう。

医師と父に説明を受けるマリーだが、彼女の母親は体中に毛が生え、短気になり、人を襲うことがあったと聞かされる。そして、それがマリーにも遺伝しているであろうことも。だが、マリーは投薬治療を拒む。

あるボロ船を訪れるマリー。そこで何かを思い出す。いや、見たというほうが正しいのかもしれない。船には大きな爪痕が残っている。
彼女はフェリックスの元へ行き、母親がその船に乗せられていたかと尋ねる。だが、彼は答えない。マリーの母親はとても美しい人だが怖がられている。お前も同じだ、と言われるマリー。
2人はクラブに繰り出すことにする。

そこにいたダニエルを誘うマリー。
「怪物になる前に、抱かれてみたいの」
彼女はダニエルを誘い出し、関係を持つ。

家に帰ったマリーだが、寝ているところを父と医師に襲われる。2人はマリーのために、彼女を換金しようとしているようだ。だが、マリーは強い力で医師を突き飛ばしてしまう。そして、母は医師を襲って殺してしまう!

医師は死んでしまった。マリーの母親はもとに戻ったように動かない。彼を埋める父だが、マリーは船の持ち主のロシア人も母親が殺したのだろうと気が付く。

すぐに医師がいなくなったことで、村人たちが騒ぎ出す。マリーの母親を疑い、服を脱がせて全身をチェックする村人たち。だが、証拠はない。

その後、出かけていたマリーだが、帰宅すると浴槽の中に母が沈んでいた。まるで襲われたように、リビングには水が。落ち込むマリーと、号泣する父。

母の葬式。マリーの爪から、血がにじみはじめる。
彼女は自暴自棄になったように、葬式のあとの食事会でみんなにコーヒーを配る。父は彼女を家に連れ帰るが、夕食の時間になってもマリーは挑発的で、グラスを噛み砕いて口から血を流す。

父親の反対を押し切って仕事に行くマリー。だが、帰り道でバイクや車に追い回される。暗闇、草むらの中に隠れるマリー。バイクの男にとびかかって殺してしまう!
ダニエルと寝た廃墟に隠れているマリーだが、そこに彼がやってきて、エスベンが死んだことを明かす。そして、2人で逃げようと持ち掛ける。

一度家に帰るも、父と鉢合わせするマリー。だが、父は彼女の頬を撫で、涙を浮かべながら「キレイだ」と呟き、送り出す。
ダニエルのもとに戻ったマリーだったが、そこにいたのは村人たちだった!連れ去られるマリーと、それを目撃するダニエル。彼らは船に乗り込む。

船の上でマリーを殺そうとする村人たちだが、次々と襲われていく。獣人と化したマリーは、村人たちを容赦なく殺し回る。エスベンと仲が良かったヒゲの男や、フェリックスも。しかし、最後に隠れていたダニエルが現れ、彼女を止める。

爽やかで美しい朝。船の上には、冷たくなった死体がいくつも、無造作に転がっている。
マリーは目を覚ますが、その顔にはうっすらと毛がのこっており、まだ獣のような顔にも見える。だが、ダニエルはそこにいる。
「ここにいる。君のそばに」
彼は、彼女の手を優しく握る。

感想

・田舎町の風景が美しい。美しい風景とエグい人間関係はセットになりがちですよね。
・いわゆる「狼男」に近いテイストのものなのですが、女性にしか遺伝しない?というのも面白い。また、獣の時にはしっかり特殊メイクをしているのですが、「セクシー」「かわいい」なんて要素は皆無。普通に気味が悪いように作りこんでいるのがいいなあと思いました。
・村人たち全員にいじめられる、のではなく数人の村人が暴走した感じなので、嫁姑ドラマみたいなネチネチを期待していると機体を裏切られるかも。しかし、朝に船に転がるいくつもの惨殺死体、という絵の残酷さは際立っています。
・死んだ魚で満杯の水槽に落とされた時に、「はーい!ドッキリでした~!」と皆が出てきて大笑いするシーンがあるのですが、「えっ……」みたいな顔でずっと戸惑って困っているマリーの演技がすばらしすぎて胸が痛い。この時、オバハンがまた無神経に、普通にホースで水ぶっかけて大笑いしてるんですよね。「モールス」にも通じるさびしさがある映画だと思います。