「殺されたミンジュ」

korosaretaminjyu

2014年の映画「殺されたミンジュ」を見ました。原題は「ONE ON ONE」。
公開時のフレーズは「少女が葬り去られた日、良心はすべてこの世から消えた」。
とにかく素晴らしい。
・少女を殺した実行犯たちが次々血祭りにあげられる
・復讐犯の目的は?彼らの正体は?
また~、女子高生の身内が復讐してるんでしょ?と思いきや、全然違いました。私たちの想像の遥か上を行く、おぞましさと孤独を感じる映画であります。

※未見の人はブラウザバッグをして、先に映画をご覧になることをおすすめします!

あらすじ

「嘆きのピエタ」「メビウス」の鬼才キム・ギドク監督が、女子高生殺人事件の容疑者たちを次々と拉致して拷問にかける謎の武装集団の目的とその顛末を、寓意に満ちたミステリアスな語り口で描き出したサスペンス・ドラマ。主演は「悪いやつら」「群盗」のマ・ドンソク、共演に「春夏秋冬そして春」のキム・ヨンミン。

とある5月9日の夜。ソウル市内で一人の女子高生が男たちの集団に捕まり、無惨に殺された。しかし事件は表沙汰になることなく闇に葬り去られた。1年後、事件に関わった7人の男たちを一人、また一人と拉致しては、激しい拷問によって自白を強要する謎の集団が現われる。はたして女子高生はなぜ殺されたのか。そして謎の集団の正体とその目的とは。やがて事件の真相が徐々に明らかになってくるかに思われたが…。
http://www.allcinema.net/prog/show_c.php?num_c=354136

ネタバレ

女子高生をつけ、襲う男たち。「片付けた」とどこかに電話している。

時は流れ。
デートをしている実行犯の1人(名前がクレジットになかったため、Aとする)。彼女を送り届けた後、車の中にいるところを拉致される。

男Aは、そのまま廃墟のようなところに連れていかれて「5月9日にあったことを書け」と命令される。抵抗するも、汚い洗面台(というよりモップ洗うところですかね。なんていうのだろう、この場所?)に顔を沈められ、即席の釘バッドでしたたかに殴られる。
全部を書いた男Aは「バラしたら殺す」と脅される。

そのまま道に捨てられる男A。

実行犯たちは複数おり、リーダー的な存在の男以外に、1人の女性やおじさんたち、若者も数人いる。
そのうちの1人が、レストランで働いている。金持ち男に散々バカにされた男。その男の注文したチーズにツバを吐くが、それを店長に見咎められ、叱責されている。

妊婦の妻と一緒に出掛けている男。この男も実行犯の仲間だ。彼も捕まって吊るされて、股間を殴られまくる。復讐犯の女性のひとりは、手加減をしたことでリーダーから怒られている。
彼は自分のしたことを悔いていたが、このことが決定打になって自殺する。

DVされている女。恋人から激しく殴られ、そのまま組み伏される。彼女もまた、復讐犯のひとりだった。

コンビニで顔をかくしながらラーメンをすすっているのは、最初に殴られた実行犯Aだ。彼は仲間であり、先輩の自殺を知り、激しく驚く。この男性は上司に電話をするが、彼は出ない。既に捕まっているからだ。

上司の男は、捕まっているのに生意気だ。彼は手をハンマーで砕かれ、自白する。復讐犯のひとりは、リーダーに自分のコンプレックスを独白する。この青年は兄の支援でアメリカに留学したが、それだけだ。アイビーリーグに行っても就職できるわけじゃない。兄からはそのことを責められている。

上司の男は解放されているが、ケガをして妻の前で泣きじゃくっている。その様子を、最初に殴られた実行犯の男が盗聴している。

先般の復讐犯の青年が帰宅すると、兄が責めてくる。英語が話せても何にもならないと嘆く青年。兄嫁が兄弟の仲を取り持とうとする。

また、犯行に関わった男がさらわれてきている(後になるにつれ、階級が上になっていく。つまり、冒頭で捕まった実行犯はもっとも下っ端である)。
その様子を撮影している男A。

復讐犯のひとり。チャラついた青年は、車の整備工をしている。ボスに自分の彼女をセクハラされるのを黙ってみているしかないし、店の高いパーツを使いこんで偽物のライターを買わされてしまうなど、かなりのバカのようだ。

男Aは上司(ハンマーで手を砕かれた男)に調べてわかった真実を告げる。復讐はんたちは軍服を着て勲章をつけ、それらしく見せているが全員偽物だ。彼らは単なる素人の集まりであり、ニセモノなのだ。だが、上司は真実が明らかになるのを恐れ、隠蔽の方向に走る。

復讐犯のリーダーはレストランに行き、客の飯にツバを入れた仲間に会いに行く。本来はこういう接触はNGのはずだが、このツバ入れ青年もまた、家族不和で人生に不満を抱えていた。

女子高生を殺した事件の関係者をまた拉致してきた男たち。首に鎖をまき、電気を流す。この関係者を殴ったことで、復讐はんたちが喧嘩を始める。

復讐犯のひとり。立ち退きを迫られるが、崩れ切った廃墟に住むしかない。母がボケているのか、徘徊もしている。
また、嫁に金を横取りされ、偽装離婚させられていたこともわかる。

将軍を拉致してきた復讐犯たち。だが、この軍人は彼らが偽物だと見抜く。手下に「自分の味方になれば、お前らは殺さないでいてやる」と言葉巧みに誘う。
だが、リーダーの持っていた銃は本物だった。彼は将軍を射殺してしまう。

復讐犯たちは将軍の死体を埋める。女と英語ペラペラ青年は仲間から抜けると言い出す。
女を追いかけるリーダー。彼は刃物を持ちだすが、「殴られても我慢している奴はムカつく」と彼女の態度を責める。だが、女は「殺したいならば殺せばいい」とすら言い、立ち去る。
警察に行こうとするメガネ青年を止めるリーダー。リーダーはいつか、自分が自殺して責任をとるからと頼み込む。

復讐犯のひとり。借金取りに追われている。彼は嫁が集中治療室におり、金がないという彼を、リーダーがやってきて借金取りたちから助けてくれる。

リーダーをつける男A。彼は山の中の小屋で暮らしている。お坊さんが「水をくれ」と頼みに来るが、その坊主が海兵隊時代の後輩だと知り、リーダーは驚く。「昔ひどいことをしたのを許してほしい」と謝るリーダーだが、お坊さんとなった後輩はそれをいなして去っていく。

自動車整備工の男もチームから抜けてしまう。

事件の全てを取り仕切っていた男を拉致したものの、内輪もめに発展する復讐犯たち。自分を裏切った仲間を見て、「俺はわかった。お前たちは踏みにじられても、抜け出さなかっただけだ」とその態度を責める彼。「人間は本当に哀れで悲しい。生きるのは苦しくて疲れる」とリーダーは思い込み、元凶となった実行犯たちを“ライギョ”に例える。ある魚たちは、敵がいない環境ではすぐ死んでしまう。だが、同じ水槽の中にライギョを入れると、緊張感で長生きするというのだ。人殺しも社会の必要悪なのか?

ここで、見張りをしていた仲間のひとりが戻ってきて、裏切った者をブン殴る。

ここで実行犯の男Aが乱入してくる。
「なぜ、こんなことを?」
「理由なんてない、上の命令は絶対だ」
「なぜ、あんなことを?」
「生きるために。俺が生きるために」
「僕たちがしたのは、誰のため?」
「わからない。俺にも」
実行犯Aは、拉致されていた偉い男の顔をテープでぐるぐる巻きにし、部屋を出ていく。

実行犯Aは、復讐犯たちが部屋に残していた軍服とガスマスクをつけ、外へ出ていく。街を歩き、山に辿り着いた男。そのまま山に踏み入っていく。
座禅を組むリーダーを見つけた男(出家しているのか?服が変わっている)。リーダーは突然、泣きじゃくり、号泣する。そのリーダーを殴りつける実行犯A。リーダーは血と涙にまみれて死んでしまう。

「私は、誰なのか?」
(※最後のテロップ)

感想

・女子高生がなぜ殺されなければならなかったのか?という理由はわからない。「わからないまま、命令されるがままに人を殺す」という構図が本当にあるものかはわからないが、ぞっとしますね。
・復讐犯は、この世に不満を持つ者たちの集まりだった(どうやら、ネットに不満を書きこんでいたものをリーダーがスカウトしていたらしいが)。家庭不和に悩む青年、高学歴なのに就職できない男、貧困層の男、DVに悩む女性。だが、彼らは「抜け出せない」のではなく、抜け出す勇気がなかった。だからこそ、最後にリーダーを簡単に裏切り、自己保身と欲に走ったのだ。ということなのでしょうが、どううまく記せばいいのかわからないほど、いろんな価値観が絡みあっています。誰も正しくないし、ただ哀れだと思わされる。