『樹海』と『コトリバコ』…都市伝説まみれの鬱々ホラー『樹海村』

樹海村

2021年の邦画『樹海村』を見ました。

実はLINE漫画に掲載されていたコミックを少し読んだ(絵柄がどうしても受け入れられず途中で断念)のですが、今回は都市伝説をなんと豪華盛り合わせ!有名な青木ヶ原樹海にまつわる都市伝説(なのか?)と、怪談「コトリバコ」の両方をストーリーの軸に持ってきています。

つまりは「場所」と「システム」の両方から恐怖をもたらすわけですが… 樹海の都市伝説については、私も子供の頃によく目にしていたし(心霊番組や心霊写真をテレビで取り扱っていた時代だし、漫画にもよく登場していた)知ってはいるものの、地元の人からするとたまったものじゃないんじゃ… という気持ちのほうが先にきちゃう。自殺志願者がくるエリアって大変そうですよね…

コトリバコについては情報なしで見ています。

まず、強く言いたいのが(私見だけど)『犬鳴村』より怖いということ。地面からわらわら人沸いてくるし、特殊メイクは素晴らしいし。今作の鬱々とした感じは見逃したら損をすると思います。主人公も有名どころの女優さんよりも、雰囲気に合った女優さんをちゃんと起用していていいなあと思いました。他の出演作も見てみたくなった。『ミスミソウ』、まだ未見だし。

一方で、既視感があるなあという印象も拭えない。森の中の奇妙なモチーフは『ブレア・ウィッチ・プロジェクト』、突然の交通事故はまんま『ペット・セメタリー』。最近リブートされた映画ばっかりやんけ!村人の感じは『地獄』をイメージしてたりもするのかなぁ。

あと、コトリバコの形状が『ヘル・レイザー』のルマルシャンの箱っぽい…と思って画像検索したら違いました。全然違った。まぁ、世界観は完全に80年代ホラーのそれな感じでかっこいい。『死霊のはらわた』の死者の書のほうが似てるかも。

連想してしまうのは個人の感想ではあるので気にしないで下さい。

個人的に気に入っているのは、主人公グループの仲がホンットーに悪いこと。表面上は仲がいいのに裏ではぐじゃぐじゃしているのが、なんかいいですね。全員クソ人間に見える。ホラーはそうであってほしいね。

登場人物を整理。

:主人公(姉)なんだけど無個性でよくわからないキャラ。大学生?社会人?なのかもわからない。幼馴染の輝のことを好きだった時期があり、まだ思いを消せていないような雰囲気。

:鳴の妹。幼いころに樹海村を見てしまい、それ以来引きこもりに。軽い予知能力があり、樹海の情報を集め続ける。なぜかばあちゃんのごはんを無視。髪型(顔もだが)かわいい。

:姉妹の幼馴染。美優と結婚する予定で、鳴からプレゼントされたライターを突然返してくる。まだ俺のこと好きなら諦めてくれってサインか?イケメンだけど、え、演技がね…

真二郎:鳴の幼馴染であり彼氏。自宅が寺。鳴たちが泊まりに来た時夜這いに来る。気を遣って外へ行く響がかわいそう。なんだコイツ。

美優:輝の嫁で妊娠中。鳴と輝の絆に何かを感付いており、引っ越し中のアパートの部屋の中から外でじゃれている2人をじっと見ている。こわい。

出口:謎の事情通。樹海の遺体を見つけるボランティアをしている模様(あまり語られないので本当にそういう職なのかはわからん)。この俳優さん(国村準さん)の存在でおかげで怖さ5割増し。

あと、この出口さんの話の聞き役?新人ボランティア??としてなぜか出てきた山下リオ、狂気に呑まれていく医師をドランクドラゴン塚地さんが演じています。塚地さん、私が見る映画でことごとく死んでる…『アイアムアヒーロー』2回目見た後だからだけど… あとまだまだいろんな人が出てるけど、まあいいや。

ではストーリー。

冒頭は、出口に助けられる謎の姉妹。2人は樹海で迷っていたらしいが… これは過去の回想です。

で、突然まーたユーチューバーの配信映像。しかも名前はアッキーナ。本人かと思ったじゃないかよ!樹海に潜入したこの配信者、さまざまな伏線をばらまいて失踪。

  • 生きている人を追いかけていたらその人の自殺体を発見
  • 謎ありげな記号が彫られた石
  • 苔むした石とその上に根付く木
  • 謎のオブジェがプラプラ揺れてる
  • 苔が動いているような描写の後、カメラがブラックアウト

その配信を見ていた響ですが、鳴に引っ張り出されて輝夫婦の引越しの手伝いへ。しかし、その床下で見つけたのがコトリバコ!

ここで突然、日焼けした謎のおじさんが登場。おそらく不動産屋?なのでしょうが、引退しても部活に来るめんどくさい先輩みたいな人かと思ったじゃん。コトリバコを処分すると持ち去ろうとして、止める響の前でトラックに轢かれてしまいます。トラックの運転手かわいそう…

コトリバコに触れた美優は突然ケガで入院、お腹の赤ちゃんも天国へ… しかし輝くんの男泣きは我々二度見を強いるレベルです。

一方、アッキーナの配信のリスナーたちは彼女を探しに樹海に行くことに。響も誘われますが、赤ちゃんの声が聞こえたり、パソコンの画面が自殺の写真でいっぱいになったりと、違法エロサイトみたいな嫌がらせをしてくる“何か”であります。

オフ会で樹海に入る6人のリスナーですが、響が折ってしまった木の枝がフルフル震えて動いているのがなんとも怖い。感度が強いのね。他の男子に絡まれ、トラブルを起こした響は悪い気配を感じ、そのまま家へ逃げかえります。しかし、夜中、響の部屋にコトリバコが出現!それは勝手に動き始めます。

真二郎の寺でコトリバコのお祓いをしてもらうというエピソードもあるのですが(響はここでも大量の亡霊と遭遇)その寺は放火され、真二郎の父は焼死。真二郎もケガをしてしまいます。お見舞いに行く鳴ですが、突然病室に警察が登場。全員に監視カメラの映像や証拠品を見せ始める無能ぶりを見せ、その場で犯人が響だとわかります。

響は精神病と診断され病院へ収容。面会に行く鳴ですが、響はコトリバコは家系を途絶えさせる呪われた存在であり、自分たちの母親は姉妹を守るためにそれを樹海に返却して犠牲になったと明かすのです。

ここらへんからよくわからない。そもそも、姉妹が樹海から持ち出したものではないですし。勝手に押しかけてきてムチャクチャではないでしょうか。

響の犯罪のせいで家はいたずら&落書きされまくり、輝たちからは縁を切られてしまう鳴。心労がたたったおばあちゃんは恐怖の表情で固まって死亡(原日出子さんにこんな役をやらせないでほしい…)。しかも片手の薬指が切り落とされていて…

葬儀の後、泣き疲れて眠った鳴。自分たち姉妹がコトリバコを幼い時に目撃したこと(迷い猫みたいにフランクに倉庫に出現していた箱)、母はそれに怯えていたことを思い出します。

一方、帰宅した美優。天国に行ったはずの赤ちゃんをあやしていますが、よく見たらそれはコトリバコ… 投げ出して息を呑む美優であります。

その直後に彼女は失踪、スマホのGPSは樹海の真ん中を示しています。慌てて3人(鳴、輝、真二郎)で探しに行くと、出口と鉢合わせに。樹海は神の森であり、かつてその森を鎮めるために生贄がささげられていたこと(それは名目であり、単なる人減らしだった)なども語られます。ちなみに森の中につっこんでいき、5秒で足をくじく輝くん… コントかな?

鳴は何が起きているかを妹に聞きますが、響はパニック状態で答えられず。ただ、「私が死ぬ時に一緒にいてほしい」とフラグを立ててきます。

響の担当医師に直訴している鳴と輝、真二郎(妹のお医者さんに何を求めているのかはよくわからなかったけど)。しかし彼も様子がおかしく、暴走しかけた輝の上に飛び降りて2人そろって死亡します。この遺体の様子がホント怖い。頭へこんでるし。

そしてここで友情出演するのが『犬鳴村』に登場した遼太郎。って、よく見たら遼太郎くん、『にほんごであそぼ』のアキラくんじゃないか! アキラくんの顔を見るとなんだか不安になることが多かったのですが、理由がわかりました。

その頃、失踪した美優を捜索する出口と捜索隊。ですが、見つかったのは木の中に埋め込まれた(飲み込まれた?)美優の遺体でありました…

あ~思い出した、木のザワザワといい、遺体と木の組み合わせといい、なーんか既視感があるなぁと思っていたのですけど『スリーピーホロウ』ですね! あーすっきりした。 まぁお話は全然似てないけどね。

鳴を守ってくれそうな雰囲気の真二郎ですが、やはり彼も狂気に呑まれ、朝ごはんを作っているという彼の手元を見たら薬指を自分で切り落とそうとしているし、救急車を呼んでいる間に自分で首切っちゃうしで大騒ぎ。一応「手術中」という描写になったから死んではいない(生死は最後まで不明だと思うが)のか??

いやあ、友人全員がここまで役に立たないのすごい。コロナ時に撮影したのかな。

で、びっくりしたのがここで突然病院に出口が登場。鳴が呼んだんでしょうが、連絡先を交換していたのか。コミュ力高いですね。彼は姉妹をかつて助けたことを明かし、響は樹海村の何かを目撃したせいでああなってしまったんだと伝えます。

しかし妹にも魔の手が迫り… 真っ白な精神病棟で眠る妹に、プロジェクションマッピングの木の枝が迫る…! ただ、ちょっと触手プレイに見えなくもないけど…

家に戻った鳴はふと部屋のカーペットをはがすと、そこには響が彫ったメッセージ(村の成り立ち)が。鳴がスマホで撮影するとビジョンが頭に浮かんでくるという斬新システムなのですが、

  • 村のババアが縛られた女性の指を切り落とす
  • 村人大喜び
  • コトリバコに指をたくさん貯める
  • 村人大喜び

という謎過去しか判明しない。何を見せられているんだ我々は。やってることは気性の荒い山賊っぽいぞ。まあ、このメッセージの示すルートを辿ると樹海村に辿り着くらしい。

ということで、鳴は樹海の中へ。途中で迷っていたアッキーナや、彼女のリスナー(響が一緒に行動していた人たち)と合流し喜ぶも、次の瞬間に彼らは遺体となって鳴の前に姿を現します。このシーンは正直、すごく怖いと思う。木に飲み込まれ、貫かれているような描写がゾクソクさせられます。6人分の遺体の特殊メイクも大変そう。

しかし意識を失った鳴は樹海村に取り込まれ、すっかり樹海村に思考を乗っ取られた輝と美優に儀式を迫られます。薬指を切り落とすというその儀式に乱入したのは彼女の失踪した母(安達祐実)!娘の懇願を聞かずに指を切り落とした後は、こっそり彼女を逃がしてくれる母であります。なんと自分の指を切り落として囮にしてくれたお母さん。

地べたの苔が人の姿になって指を見て大喜びしている中、逃げる鳴は母とともに突然穴に落ちてしまいます。

そこで自分たちの母も同じように穴に落ちて犠牲になったことを思い出す鳴ですが、回想から目を覚ますとそこにミイラ化した実母の姿が!しかし、追いついた輝と美優がコトリバコの薬指を穴の中に放り込んできます。その指が膨らんでいき、なんとたくさんの人に成長。縁日にこういうカプセルあったよね(恐竜とかの形をしていて30倍に膨らむというおもちゃ)と思い出しましたが、その人の群れから助けてくれたのが響。

なんと響は念を飛ばして(実体は精神病棟にいる)姉を助けに来たのです。しかし、病室の響は服の中に木の枝が入ってきて(明らかに人の手っぽい)、次は顔の皮膚の下に手が入ってきて、体が浮いて、そのまま便器に叩きつけられます。か、かわいそう。何をしたというのかね。 でもしつこいけど、この精神病棟の壁にビタンビタンも既視感あるのよ… でもこれは思い出せないのよ… 『テルマ』だったかなぁ?

それでも頑張る響は自らが木に飲み込まれて亡霊と一体化、そのまま伸びた響with樹木はなんと天井を突き破った!優しい光が差し込んできます。

このへんで、私は開いた口が閉じなくなったね。どういうことなの… で、逃げた鳴を見つけてくれたのは出口さんでした。ハッピーでもバッドでもない、鬱エンドって感じかな?

しかしコトリバコはまた別の家庭(どうでもいいが、ものすごい富裕層)に入り込んで…!?

結論。ホント、よくわからない話だった。

コトリバコと樹海を無理やりくっつけたことで起きる化学変化がなんともぎくしゃくしている印象。樹海バージョンは手が込んでいてエキストラもわんさかで魅せられたし、コトリバコバージョンは生理的嫌悪感に訴えてくる感じで好感度は高いのですが、この2つのストーリーに親和性があるのかはよくわからない。それぞれのエピソードを深く見たかったなぁという気持ちがあるからか。

コトリバコって結局何なの?樹海に戻したら正解なの?中に薬指集めてどうするの?

そして樹海村って村の形を成してない(集団ではあるが建物はない)のはいいの?さらに、樹海に捨てられた障碍者(知的障碍者含む)や自殺し損ねた人が形成する集団らしいけど、そのコミューンが人体のパーツ集めて喜んでたみたいな描写はなんなんじゃと思った。カルトに走ったの??なんでそういうことになったのかという説明くらいは入れても罰はあたらないんじゃないですかね。

キ〇ガイ度で言うと『変態村』とかほどではないし、唯一思い出したのが『エクスクロス』。足フェチの長のためにみんなで松下奈緒を狩るというムチャクチャ展開の映画ですが、どことなくテイストは似ています。

あと、鳴、響、お母さん、山下リオがたまーにごちゃごちゃになった(姉妹と母が同じボブ、鳴と山下リオが似た赤色のジャケット着ている)。

いろんな不満も述べてきましたが、この「鬱」な感じを他の邦画ホラーで見られないのもまた事実であるし、森ホラーでは好きな部類です。他人に勧めるか勧めないかといったら、勧めるほうに入る。國村準さんを堪能してほしいから。

ちなみに実際にこの映画を推薦してみたのですが、「コトリバコって箱の中に指を集めてるの」と軽く説明してみたら「えっ、ヤクザ?」と言われました。たしかにある意味、アウトレイジだ。