また、えらい問題作を見てしまったのである。
アメリカ/フィンランドの2022年製作『デュアル』。
『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』や『ジュマンジ』シリーズに出演する人気女優カレン・ギラン主演のSFスリラーです。いや、この女優さんすごい。好きになったわ。
余命僅かと診断された主人公は、過干渉の母親を心配させないために自身のクローンを作り「後継者」にすることを決める。しかし、本来は自分の意思を持たないはずのクローンは彼女の恋人や母親の愛情を勝ち得て、どんどんと調子に乗っていく。
しかも、主人公は難病が寛解してしまった。
彼女はクローンを処分しようとするが、クローンはそれに反対。1年後にどちらかが死ぬまで決闘する「デュアル」が開催されることになる… というストーリー。
この「オリジナル」と「ダブル」(クローン)の演じ分けがすごいいいんですよ。
無気力で常に疲れていてお金もなくて、もっさりしているオリジナル。
クローンでありながらも意欲的で、オリジナルの立場を虎視眈々と狙う腹黒いダブル。
当初、オリジナルであるサラがどうしても好きになれないので嫌な気持ちで見ていました。努力をしないで文句ばかり言う人に見えてきて… こだわりも強く、ケチで潔癖症でつまらない人間というように描かれています。
でも、決闘のために戦闘訓練を受けることになり、苦手な暴力も克服し、ダンスも始め、だんだんと変わっていく彼女。見た目も美しくてスリムになるし、柔らかい印象になります。
一方で、ダブルは決闘の日が近付くにつれて不安定になっていき、改めて対面する二人。2人が出した結論とは「2人で生きればいい。アメリカから逃げよう」というもの。
しかし、逃亡しようとして入った森で、ダブルに毒殺されるオリジナルのサラ。ピーターや母は共犯であり、ダブルと目配せしてニッコリ。そしてダブルはオリジナルになりすまして元の生活に戻るのですが…
オリジナルのサラから奪った恋人はものすごくモラハラ野郎。愛情を勝ち得た母親は過干渉でしつこく電話してくる。オリジナルのサラが運転しているのを見て「そんなの簡単よ、私にはすぐできる」と言っていたダブルの車は、物損事故でベッコベコ(サラの生活が彼女の自己犠牲のもとに成り立っていて、見た目ほど安穏としたものではなかったことの暗示か)。
最後に自分を殺すのではなく、ともに生きることを選んでくれたオリジナルのサラを殺してまで得た幸せ。それが消えてなくなってしまったことにはっきり気が付き、ダブルは涙を流して号泣。そのダブルの容姿は、登場した際の際立つような美しさは消え失せ、昔の無気力時代のサラそっくりになっている… という、後味の悪さは一級品のラスト。
わりと好きなシーンがいくつかあるのですが、
- 冒頭に流れる別のオリジナルとダブルの戦い
- サラと戦闘訓練をしてくれたトレントとのやりとり
が好きでした。
冒頭シーンはロバートという男性が、オリジナルとダブルで戦うというもの(この映像をサラはデュアルのお手本映像として何度も視聴する)。戸惑いながらも勝利したのはダブルだった、というオチなのですが、ちょっと昔のデュアルという設定なのか?雰囲気が古くて、それがまたよかったです。似てないけど、雰囲気としては『バトルランナー』を思い出した。
また、サラの戦闘訓練を担当したトレントもいいキャラで好き。当初は戦い方や殺し方をサラに叩き込むスパルタな男性という役だったのですが、サラの努力に応え、決闘間際にはとてもいい関係になります。
金欠になってしまったサラのために「お金じゃないもので払ってくれてもいいんだ」というので、ええっ!?カラダで!??とドギマギしましたが、サラがヒップホップダンスを教えてあげて解決(超初心者でダンスを習い始めるのが恥ずかしかったらしい)。このシーン、トレントのダンスのギクシャク感もかわいらしいのですが、サラがめちゃくちゃダンスうまくなってるのね。そこも、年月の経過やサラの性格をうまく表していていいなあと思いました。
死ぬためにいい服を買いに行くというシーンも好き。店員に「死ぬ時に最高にキレイに見える服を買ってほしいんです」というサラがかっこよかった。
ただ、サラがオリジナルか、オリジナルになりすましたダブルじゃないかを裁判で証明する(ピーターと母親が偽の証言をする)シーンでは、ヒップホップ踊らせれば一発じゃない?とは思いました。
いい映画だった。コンディション次第では泣けます。