2017年のアメリカ映画『ブッシュウィック -武装都市-』を見ました。
DVDのジャケットやキャッチコピーで非常に損をしている映画だと思います。
「地下鉄を降りると、そこは戦場だった―」
「状況不明、生存者ゼロ%― 究極のサバイバルアクション!」
いやいやいや、間違ったことは言ってないんですけど、アクション映画じゃないんですよ。どちらかというと、人の命について猛烈に考えさせられる映画。
実際に見るまではSFっぽい話かな?と思っていたのですが(『宇宙戦争』みたいな)… この映画は不条理な暴力によって、日常も大切な人もすべて奪われて、壊されていく“過程”を丹念に描いた問題作です。私はこの映画を忘れることはないでしょう。
ニューヨークの実家に彼氏を連れてきた女子大生(大学院生)のルーシー。そして、アパートの管理人をしている元軍人(衛生兵)のスチュープ。
突然ニューヨークが武装した男たちに襲撃され、ルーシーの彼氏は死亡。
ルーシーは偶然助けられたスチュープと行動を共にすることになるが、そこに待ち受けていたのは親しい人たち、そしてたくさんの見知らぬ人たちの死だった―
なぜ、人は人を殺すのか?
スチュープの問いかけが重い。軽い気持ちで見たのですが、めちゃくちゃ深かった。
とにかくスチュープを演じているデイヴ・バウティスタの演技がすばらしい。粗野で人嫌いな大男かと思いきや、あまりにも繊細すぎる悲しみを抱えて、壊れかけながらも生きているキャラクターだった。
一方、ルーシーも両親がおらず、彼氏は映画冒頭で突然爆殺され、祖母の家に行ったら彼女は心臓発作で死んでいた… という、ジェットコースターのような人生を生きています。
ケガをして、体の一部を失い、戦いの中に身を投じ、心が折れて死を選ぶ人に打ちのめされ、それでも生きようともがく姿は「もしも突然戦争に巻き込まれたら、どうなるの?」という恐怖をそのまま体現したような、おそろしい内容でした。
時折「ママを誰より愛して崇拝しているワルの黒人一家」とか出てきて、すこし安心できるかと思いきや… 全然ママが一筋縄でいかないタイプだったり、強奪犯の若者たちがどさくさに紛れてヒロインの知っているおじいちゃんを殺したり… 心が休まらない。当たり前だが。
でも2022年現在、これが現実になっている人もいる…
映像でこういう作品に出会う大切さについて考えさせられる。自らの貧しい想像をはるかに上回る展開があった。本で得られる衝撃とはまた違う、ビジュアルとしてのショックがあった。フィクションではあるんですけれども、ものすごく悲しくなった。
未見の方はここから先は読まないでくださいね(もったいないから、先に借りて見てほしい)。
↓ 注意 ↓
この映画の黒幕は国内の反政府組織なんですけど、ある公園に行けば救助してもらえるという情報を得て、2人はそこに向かうことに。
しかし、途中でなんとスチュープは撃たれてしまい(しかも民間人に誤解されて撃たれた)死亡。妹を連れて逃げようとしていたルーシーも、足を撃たれた妹を引っ張っている途中にヘッドショットされて死んでしまいます。
つまり、主人公たちは両方とも物語のエンディングを迎えることができないまま、殺害されてしまったというラスト…
今思い出しても胸が痛い。
スチュープが息子を亡くし、妻を失い、軍人として生きることで救われようとするもただただ空しく、衛生兵に転じて人を救うことで自分も変われるのではないかと願い、それでもダメで、ただただ生きているだけというような毎日を送っていて、その悲しみをようやく他人(ルーシー)に吐露できて、これから彼の中で何かが変わるのかもしれないと思っていた、次の瞬間。そこで死んでしまうなんて、そんなつらいことがあるだろうか。
ちなみに監督は『ゾンビスクール!』を撮ったキャリー・マーニオン監督でした。