俺以外にジャケット着ている奴全員死亡!狂気の脚本に悦んで溺れたい『ディアスキン 鹿革の殺人鬼』

ディアスキン

フランス映画『ディアスキン 鹿革の殺人鬼』を見ました。2019年。

もうこの映画すごいよ。どうせフランスらしい気取った会話とまったりテンポのおしゃれホラーかと思いきや。

「俺以外にジャケット着るやつ全員殺す」という映画。

オシャレ警察とかファッション中毒とか、そういう概念じゃない気がする。「俺しか上着着ちゃダメだと思う」「ほら、ジャケットも『世界にひとつのジャケットになりたい』って言ってるよ!」(ちなみにジャケットもしゃべってる)と、ひたすら強く願うおっさんの話なのであります。理由は不明。ただひたすらナルシーで頑固ではある。

お話はおじさんがかっこいい鹿革のジャケットを買うところからスタート。しかしそのせいで銀行口座を嫁に凍結され(嫁のルックスやキャラはもちろん、本人の仕事や環境などもまったく謎のままなのがまた怖い)、田舎町にとどまることに。

ジャケットを買い上げたおじいさんがおまけでくれたビデオカメラを使い、映画製作者を名乗ったことでおっさんは暴走。バーテンダーで編集スタッフを志すドゥニースから金を借りては、ジャケット泥棒につぎ込みます。

この手法もすごい。映画撮影のフリをして若者たちからジャケットを巻き上げ、盗んでは(ただしギャラは本当に支払う)トイレに捨てたり土に埋めたりとメチャクチャを続けます。

最終的にはジャケットを着ている人をひたすら殺しまくるという暴挙。真冬だからみんな着てるのよね。そりゃあ。たまたま通りかかった人も巻き込み、どんどん殺害します。しかも武器はホテルの部屋の天井についている巨大な扇風機(あれなんていう名称?)の羽根。いやいや、頭蓋骨には刺さらないと思うんですけど、扇風機の羽根。

その映像を編集するドゥニースはおっさんになぜかどんどん魅了され、彼が本当の映像制作者でなくてもかまわないとばかりにプロデューサーを志願。

追加ショットを撮影しに行き、最高の笑顔で野原を跳ね回るおっさん(ジョルジュという名前ですが、もうおっさんでいいや)。しかし、おっさんが殴った少年の父親が彼を射殺し、おっさんはバタンと倒れます。

そのおっさんのジャケットを脱がせて、自分で着るドゥニース。ノリノリでカメラを自分に向けます。お前もか…!

主演のジャン・デュジャルダンについて調べたら『アーティスト』で主演男優賞をとってる人でした。おったまげー!って、そもそもコメディアンもやられていた俳優さんなんですね。この映画ではゴミまで食べてて大変そうでしたけど、狂気と笑いの塩梅が絶妙でした。

が、さらに監督について調べていて衝撃。

(なんとなくあれ思い出すな、タイヤが殺人鬼だった映画… 映像の画質?テンポ?なんだろ… でも関係ないよなぁ)と思っていたら、同じ監督じゃん!!!ちなみに2010年の『ラバー』という映画です。気になる方はぜひ。

すごいなぁ。ビジョンがしっかりしている監督さんですね。他の映画(ラバーが初監督作で、まだそんなに本数がない)も見てみようと思いました。脚本も面白いすぎる。『ロブスター』以来かも、こういう感動の仕方。

ちなみにかなり前に耳にした情報ですが、殺人ソファーと殺人ジーパンの映画もそれぞれあるらしい。こっちも早く見たい。