「ロブスター」

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2015年の映画「ロブスター」を見た。すごくいい映画です。予告編はコミカルですが、本編は死ぬほど重いです。
「45日以内にパートナーを見つけなければ、動物に変えられる」というルールのある世界。無理やりにでも恋人を見つけるのが幸せなのか?それとも、恋愛を一切排除したコミュニティで生きることが幸せなのか?
思うがままに生きられない人間の息苦しさが描かれています。コリン・ファレルが冴えないおじさんを熱演しているのもすごいし、キャストも豪華であります。

あらすじ

長編2作目の「籠の中の乙女」が世界的に注目を集めたギリシャの奇才ヨルゴス・ランティモス監督がコリン・ファレル、レイチェル・ワイズ、ジョン・C・ライリー、ベン・ウィショー、レア・セドゥら豪華キャストを起用し、自身初の英語作品に挑んだ奇想天外SFラブ・ストーリー。独身が罪とされるディストピアの世界を舞台に、“独身者”としてパートナーを見つめるための施設に送られた主人公を待ち受ける驚愕の運命を、寓意に満ちたユニークかつシニカルな筆致で描き出す。
突然妻に去られ、独身となってしまったデヴィッド。兄である犬とともにとあるホテルに送られる。彼はそこで45日以内にパートナーを見つけなければ、事前に希望した動物へと姿を変えられてしまうのだった。ちなみにデヴィッドの希望はロブスター。こうしてデヴィッドのパートナー探しは始まるが、まるで思うようにいかず、ついにはホテルを脱走し、森へと逃げ込む。その森には独身者たちが隠れ住んでおり、女性リーダーを中心に強固なコミュニティが築かれていた。そこではホテルとは逆に、カップルになることは固く禁じられていた。そんな中、皮肉にも一人の女性と恋に落ちてしまうデヴィッドだったが…。
http://www.allcinema.net/prog/show_c.php?num_c=354905

ネタバレ

車を走らせる女。到着した草原で、そのまま馬を撃ち殺す。

離婚して独身になった主人公、デヴィット。彼はある施設に収容される。犬に変えられた兄を連れて、面接を受けるデヴィット。45日で相手を見つけないと、彼は動物に変えられる。

ホテルのような施設の窓からは、捕獲されて気絶した独身者が見える。恋をしないと動物に変えられることをオーナーから説明され、希望の動物について尋ねられた彼は「ロブスターになりたい」という。
初日は、パートナーの大切さに気付くため、右手を拘束されたまま過ごすことになる。

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まんじりとしない夜が終わり、朝食の時間となる。彼はジョンとロバートという男性と仲良くなる。彼らから、カップルになるとダブルルームに移り、最終的にヨットへと移動してカップルとしてのシミュレーションを続けることを聞く。
ジョンという青年は母が父に捨てられ、オオカミになったことを語る。そして、その母を探して動物園の檻に飛び込み、足を不自由にしてしまったのだとも言う。

ホテルの女性を見つめるデヴィット。美人の女の子もいれば、ホテル1のハンターとされる冷めた女(脱走した独身者を狩るイベントがある)もいる。ハンターの女性は、192人も捕まえた経験があるらしい。

ロバートは禁じられたマスタベーションをしたことを咎められ、罰としてトースターで手を焼かれてしまう。

美しいメイドはデヴィットを勃起させる手伝いをするが、それ以上はしない。これは、女性を恋しく思うためのプロセスのひとつだという。

朝食にビスケットを食べている女は、デヴィットに迫る。彼女はもう残された日にちがない。色情狂のようなことを言い、男を誘う彼女。「どうしようもなくなったら自殺する」とまで言う。

ジョンは美人の女の子(主人公が狙っていた)と仲良くなるが、実は仲良くなったのはデヴィッドの入れ知恵だった。彼女と同じ、鼻血を出しやすい体質のフリをしているのだ。彼は彼女を射止め、カップルとなる。

だが、ジョンは自分が彼女ができそうになった途端、デヴィッドとロバートを見下し始める。

だが、この女の子の親友が最後の日を迎える。美人は一所懸命に慰めるが、どことなく上から目線で薄情な彼女に耐えかねた女性はビンタをして、最後の時間をひとりで映画を見ると言う。翌日、彼女はポニーに変えられて去っていく。

デヴィッドは冷酷なハンターと揶揄される女性に的を絞り、彼女に気に入られようと自らも冷酷に振る舞う。ビスケットの女は自殺してしまうが、落下現場のすぐそばにいた冷酷女性は紅茶を飲んでいる。彼女の死を、わざとデヴィッドもバカにする。
一緒にジャグジーに入っていると、冷酷女性は苦しみ出してぐんにゃりする。だが、しばらくして起き上がり、助けようとしなかったデヴィッドを褒める。「私たち、気が合いそうね」と、彼女も彼を受け入れる。

ダブルルームに入った2人。だが、何もかも相性が合わない。それを隠すデヴィッド。
だが、ある朝目を覚ますと、彼の兄(犬となっている)を女が殺していた。彼女は犬を嬲り殺したと笑いながら告白する。蹴り殺された犬の姿に、涙を隠すデヴィッド。だが、彼女は目ざとくそれを見つけ、非難する。彼女は彼が自分の気持ちを偽って自分とカップルになったと告発しようとする。だが、デヴィッドは彼女を麻酔銃(本来、脱走者に使用するもの)で撃って気絶され、彼女を動物に変える。それを、なぜかメイドが手伝ってくれる。

結局、デヴィッドは脱走した。彼は森の中で、逃亡者たちのコミュニティに参加することになる。ようやく恋愛から解放されたが、反対にこのコミュニティでは恋が禁止されていた。異性といちゃつき、唇を切り裂かれたものもいる。実際にされていないが、セックスが見つかった場合には性器に何かをされることもあるようだ。

※ここで、ようやくナレーターの目線は主人公と惹かれ合う脱走者コミュニティの女性だということがわかる。
※だが、ナレーションの声はメイドである。

脱走者狩りに森にくる男女。スタッフたちもそれに同行している。
デヴィッドはまだ恋人ができていないロバートと遭遇して、必死に説得するも、意見は一致することはなく、彼を気絶させてまた逃げる。

デヴィッドの脱走を手助けしたメイドは、逃亡者のコミュニティの内通者だった。彼女はリーダーに施設のダブルルームの鍵と銃を手渡す。彼女はリーダーの女性の妹だったのだ。メイド自身は偽装結婚をしているが、早くその生活から逃げたいと思っている。

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デヴィッドはリーダーや気になる女性と共に、2組のカップルを装って街へ出る。スーツ姿でいろいろなものを買いこむ彼ら。ホールケーキを立ったまま回し食いすらしている。そして、そのままリーダーの実家に向かう彼ら。彼女が働いているフリ、結婚しているフリを手助けするために、デヴィッドは協力する。また、気になる女性と夫婦を演じて見せ、リーダーからも「自然な演技だった」と褒められる。

デヴィッドと女性はどんどん惹かれ合う。

コミュニティは、デヴィッドが前にいた施設を襲う。リーダーは支配人の部屋に入り、夫婦に「どちらかを殺す」と明言し、妻を差し出そうとする夫に銃を渡す。
デヴィッドは自らヨットに向かい、ジョンのヨットに侵入する。そして、女性に彼が嘘をついていることをバラしてしまう。
支配人の夫は妻を撃つが、それは空砲だった。こうして彼らは、カップルの仲を裂きまくって逃亡する。

コミュニティの者たちは、森に帰って祝う。だが、音が出たらまずいので、それぞれCDプレイヤーをヘッドホンで聞きながら踊りまくる。デヴィッドはリーダーに命じられ、墓穴を掘る。

デヴィッドは、他の男性からウサギ肉をもらっていた女性に嫉妬する。「自分以外からウサギをもらわないで」と言い、彼は肉を渡した男性に近眼かどうかをしつこく尋ねる(デヴィッドと女性は、近眼という共通点がある)。
2人だけのサインを作り、会話をする2人。

2人は仲良くなりすぎてしまう。リーダーの実家にまた行った時には、過剰にベタベタして彼女をいらつかせる。
彼らは「森を離れて、一緒に暮らそう」と決める。

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だが、その日記をリーダーたちに読まれてしまう。音読をしていたメイド。
※なので、内容はデヴィッドの彼女目線、ナレーションはメイド目線だったのです

デヴィッドは墓に入れられ、土をかけられて脅される。デヴィッドの彼女は、近視を治す手術と騙されて視力を失わされてしまう。リーダーを刺そうとする彼女だが、彼女は代わりに妹を押し出し、メイドが刺されてしまう。

視力が亡くなったことを隠していたが、デヴィッドに告白する彼女。うまくやりたいけれど、2人はぎくしゃくし始める。

しかし、デヴィッドはリーダーを襲う。気が付くと、彼女はデヴィッドの掘った墓穴の中におり、野犬に狙われている。
2人はそのまま逃げていく。「ズボンがキツくて歩きにくい」とこぼすデヴィッド。
街に出て、レストランに入る2人。デヴィッドは彼女を見つめ、その顔を脳裏に焼き付ける。そして席を立ち、トイレでステーキナイフを目に突き刺そうとしている。それを、彼女は席でじっと待っている。

感想

・すごくよくできている設定、脚本、キャスティング、演出、音楽、すべてがすき。光の感じもすごくきれい。
・しかし、デヴィッドは出会った人を(無意識下に)不幸せにしていくのがすごい。彼に出会って幸せになっている人物がいないんですもの!
・前半のホテルのパート、後半の森のパート、どちらも素晴らしい。コリン・ファレルってすごいなぁ。この映画は本当に冴えないおじさんの純愛と、業を描いている。美人とかイケメンとか、そうでないとか関係ない。美しくてもそうでなくても、醜い恋愛の禍々しさ、薄っぺらさ、もの悲しさを、一言のセリフも説明もなく、つるっと描き切ってしまうのがすごい。