「嘆きのピエタ」

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2012年の「嘆きのピエタ」を見ました。韓国映画で、キム・ギドク監督の作品です。
この映画はとてもいいですね!
冒頭では「あれ?なんだかおとなしくない?」なんて勝手に思っていましたが、そんなことなかった。なんとも禍々しくて、歪んでいて、愛に満ちた映画です。
最新レンタル作の「メビウス」もキチキチしいですが、この映画もすごいですね。

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あらすじ

2012年のヴェネチア国際映画祭で金獅子賞を受賞したサスペンス・ドラマ。監督は「サマリア」「うつせみ」のキム・ギドク、主演はテレビドラマ「ピアノ」のチョ・ミンスと「マルチュク青春通り」のイ・ジョンジン。十字架から降ろされたイエス・キリストを抱く聖母マリア像であり、慈悲深き母の愛の象徴でもある“ピエタ”をモチーフに、心を失った男とその母を名乗る女の姿を描く。

生まれてすぐに親に捨てられ天涯孤独に生きてきたイ・ガンドは、法外な利息を払えない債務者に重傷を負わせ、その保険金で借金を返済させる取り立て屋をしている。そんなガンドの目の前に、母親を名乗るミソンという女が現れた。ミソンの話を信じられず、彼女を邪険に扱うガンド。しかし彼女は電話で子守歌を歌い、捨てたことをしきりに謝り、ガンドに対し無償の愛を注ぎ続ける。だがガンドが心を開こうとした矢先、姿を消したミソンから助けを求める電話がかかってきた。
http://www.allcinema.net/prog/show_c.php?num_c=343981

ネタバレ

車いすの青年が自殺をするシーンから始まります。鉤付きのフックに首をひっかけ、そのままそのチェーンを釣り上げることで自死を選んだ青年。この人の正体とは?

一方、夜中に枕を抱きしめながらそれに股間をこすりつけ、果てる男。そのまま寝てしまい、翌朝無表情でそれを拭っています。
これが主人公のガンドです。
彼の仕事は借金の督促人であり、借金が払えない人間の体を欠損させ、障碍者にしてその保険金を取り立てるという仕事をしています。

その一例のように登場するのが、借金があるらしいとある夫婦。彼らはガンドに怯えながら、最後に工場内でセ○クス(こんなことしてるから儲からないのでは…??)します。
ガンドはその中にずかずか入りこんできますが、奥さんが体を張って旦那を外に出し、自分の体を差し出します。いくらでも好きにしていいとブラジャーをとる妻。そのブラをとり、ムチのように振り回して奥さんの体をメッタメタにするガンド。そして彼は旦那を工場内に引きずり込み、その手を使えないようにします。

その仕事帰りに、不思議な女と出会うガンド。彼女は自分の母親だと名乗り出ます。
実は彼は親に捨てられた子供であり、その捨てた母がこのミソンという女だというわけです。

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ミソンのことを許せないガンド。

別の借金の督促へ出かけますが、今度は男を飛び下りさせます。
後をつけてきたミソンはこの男に話しかけますが、ガンドを恨むこの男に猛烈な蹴りを入れ続けます。

ガンドはまたまた別の男の取り立てにいくも、この男の自殺が判明。こいつの母親のところに行きますが、何も遺されていません。

母を拒否しますが、ガンドがどうあがいてもミソンは彼の生活の中に入りこもうとします。
家に入れたら抱きつかれてしまい、調子も狂います。

そこでガンスは無理にミソンの股に手を差し込み「俺はここから出てきた?間違いないか?」「戻ってもいいか?戻るんだ!」と大絶叫。
唐突にレ○プしようとします。
泣きじゃくり抵抗する母に、ガンドはやる気を失います。

その次の日の朝。彼の水槽にいた貝を焼いているミソンの姿があります。そこには何のわだかまりもないようです。からっぽの水槽だけが残っています。

まだ同じ仕事を続けているガンドですが、少々性格が変わってきたようです。
「憐れみ」の情が生まれてきたのでしょうか。
借金のある男の指を落とすことになるのですが、最後にギターを弾かせたりもします。躊躇という感情が、彼に生まれてきてしまったのです。

母に懐き始めたガンド。
一緒に買い物にでかけて、肉を食べさせてもらい、サングラスを一緒に眺めたりもします。風船をもらって遊ぶガンドに、カップルがからかいの目を向けます。
ニヤニヤしているカップルの男に「笑うな」というミソン。「なんだこの女」と言い返す男の前に立ちふさがるガンドの姿。びびった男はすぐ謝って去っていきます。

その様子を見ていたのが、前述した「飛び降りをさせられ、足を折った男」。
彼は仕事を失い、物乞いをして生きています。
この男は親子の後をつけ、ミソンのことを殺そうとします。首を刺されそうになるミソンですが、ガンドの機転で男は包丁を落とします。その包丁で、男を刺す母。
包丁を刺したまま、男はどこかに逃げていきます。

その夜。寝ているガンドのベッドに行き、枕に股間をこすりつけているのを見て(※爆睡中)、お母さんはガンドの布団の中に手を入れて、性処理を始めるのです!
ガンドは気が付いていませんが、ショッキングな展開になってまいりました。

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そして次の日の朝、消えている母。
彼女はある工場のなかで、冷蔵庫にすがりついて泣いています。その頭上で揺れるチェーン。
そこには、幾本もの毛が挟まって揺れています。
そう、ミソンはガンドの本当の母親ではありません。冒頭で自殺した車イスの青年の母親なのです。

戻ってきたミソンですが、ガンドは日に日に母にべったりになります。
仕事もやめてしまい、母の布団に潜り込もうとすらします。それを彼女は拒否。少しずつ、彼女は冷たくなってきています。

彼女が次にとった行動は、また姿を消してガンドに襲われたフリで電話をかけることでした。
ガンドは自分を逆恨みした今までの債務者のしわざだと思い、彼らの家を巡ります。夫が障碍者になった夫婦は、旦那が奥さんのヒモになっています。それもなかなか悲惨ですが、何よりびっくりしたのがビニールハウスに住んでいるところですね。

ガンドは車イスの青年の工場までたどりつき、そこにあるイスに座って泣きながら寝てしまいます。

その頃ミソンがいたのは、借金取りの親玉のところ。ガンドの元ボスです。彼をビンタして、ビンタされ返されるママ。その声をわざわざガンドに電話で中継しています。
そしてその勢いで、社長をチェーンを使って殺しちゃいます。このことをガンドは知りませんが、そもそも女の人がチェーンで男性を殺せるものなのでしょうかね?

そして、自殺しようとする母。
「サング(息子)、ごめんね」と言いながら、かつてガンドが男を飛び下りさせた廃墟に立っています。
強盗未遂を起こしたこの男のせいにするつもりで、この場所を選んだようです。

しかし、彼女の心にも変化が。
「あいつもかわいそう。……ガンドも、かわいそう」
とつぶやくミソン。
そこにギリギリでガンドが到着して、泣きながら土下座します。「俺が代わりに死にます!俺を殺して!俺を殺して!」と泣きじゃくるガンド。「母さんには何の罪もないんです!」と、いもしない犯人に叫びます。
しかし、ミソンはそのまま飛び降りてしまいます。

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ガンドは遺言通り、ミソンと一緒に埋めた木の下に彼女を埋めようとします。しかし、そこには先に死体が埋まっていました。
冷蔵庫の中に保管されていた青年の死体。ミソンが「息子のために」と編んでいたセーターを着て、埋められていたその青年こそ、ミソンの本当の息子であり、ガンドのせいで自殺した債務者だったのです。

次のシーン。
ミソンの死体の右には青年の死体。
そして左には、ミンスの編んでいたセーターを着ているガンドの姿があります。
彼は本当の親子たちの横に寝転び、添い寝をしています。

これからどうして生きていこうか。
そんなことを考えたり、愚痴ったり、叫んだりすることもなく、ガンドは行動に出ます。

ビニールハウスに暮らす奥さんは、早朝仕事に出かけていきます。
軽トラックに乗って出かける奥さん。彼女は気が付いていません。そのトラックの下に、ガンドがぶら下がっていることを。
彼の体は少しずつ削れていっているのでしょうか。ひた走るトラックの下には、赤い線が長く続いていきます。どこまでも、その線は途切れることがありません。

という、ほろ苦いとかビターとかでも到底なく、バッドエンドとも言い難い終わり方です。かといって「黒い」わけでもないし。
とにかく、監督の物事の切り取り方とか、演出の仕方とか、構図とか、贖罪の在り方とか、全てに感心してしまう。

ガンドは悪い男なんですけど、彼を形成してきた要素には家庭環境が大きく影響していたことがわかりますし、ミソンの復讐方法はとにかく切ない。債務者には自業自得な人もいれば、そうではないような人もいる。全員悪いけど、本当の悪人ではない。
ストーリーは比較的シンプルなのですが、それでいて「おおっ」と思うシーンがいくつも浮かび上がってくる。
好きだなあ。この映画。