「刺さった男」

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2012年の「刺さった男」を見ました。スペイン映画なのですが、サスペンスかと思いきやコメディでもあり、ほろ苦い人間ドラマであり、皮肉のきいた風刺も入っていて、なかなかの秀作であります!
予告編を見て、もしかして奥さんワルイ人!?と思っていたら全然そんなことなかった。
テーマはシンプルに「金と愛情」の話であります。意外にもすごく泣ける映画かもしれない。この監督、面白い映画を撮る人ですね。気になる。

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あらすじ

「マカロニ・ウエスタン 800発の銃弾」「気狂いピエロの決闘」のスペインの異才アレックス・デ・ラ・イグレシア監督が贈る奇想天外ブラック・コメディ。ひょんなことから後頭部に鉄筋が刺さったまま動けなくなった男を主人公に、難航する救出劇に群がるマスコミはじめ様々な関係者が繰り広げる狂騒の行方と、家族想いの世界一不幸な主人公を待ち受ける運命をシニカルに綴る。主演はスペインの実力派コメディ俳優ホセ・モタ、共演にサルマ・ハエック。

2年前に失業して以来、職にあぶれたままの元エリート広告マンのロベルト。恥を忍んで訪ねた旧知の会社社長にも冷たくあしらわれてしまう。失意のロベルトは、最愛の妻ルイサと新婚旅行で訪れた場所に足を向けるが、思い出のホテルは跡形もなく消えていた。やがてロベルトは、ふとしたはずみから遺跡発掘現場に転落してしまい、後頭部に太い鉄筋が刺さってしまう。幸いにも即死は免れ意識もあるが、救急隊は救出しようにも動かすこともできずお手上げ状態。折しも、現場では市長の記者会見の真っ最中で、居合わせたマスコミによって一躍時の人となるロベルトだったが…。

http://www.allcinema.net/prog/show_c.php?num_c=349900

ネタバレ

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失業中でも、妻のルイサとラブラブのロベルト。元は広告業界で活躍する人だったそうですが、現在は2年も失業中。
(スペインも景気悪いのか?)

友達の会社で働かせてもらうために赴くも、面接で待たされている時に嫌な思いをしたり、水でびしょびしょになったり(清掃の水をかぶるというハプニング)、友達には「雇えない」ときっぱり断られたり、ビルから出たところをホームレスにからまれたりととんでもない日。

落ち込んだ彼は、妻との思い出のホテル(結婚記念日に行こうと約束していた場所)に足を運びます。しかし、そこはつぶれて博物館になっており、会見の真っ最中。
あれよあれよという間に、マスコミの波にのまれて記者会見場に入って行ってしまうロベルト。なんとかそこから抜け出しますが、まだ建設中の場所で落下してしまい、鉄筋に頭が刺さってしまいます。そう、文字通り「刺さった男」になってしまうのです。

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そこへ、取材に来ていた記者たちも気付き大変な事態に。
博物館の館長は「貴重な史跡が!」と悲鳴をあげ、市長は責任転嫁におおわらわ。別にロベルトはそんなつもりはないのに、訴訟対策に走り始めます。

ロベルトは頭に鉄筋が刺さり、実はかなり危険な状態です。
救急隊を呼びますが、どうにもできません。「人命救助を優先するか?」「遺跡をどうにか守りたい」と揉める大人たち。

警備員の優しいおじさんだけが、ロベルトを心配してくれます。救急隊員も心配してくれますが、どうにもできないのに待機でちょっとイライラ。
ロベルトはルイサに電話をして、事の次第を告げます。慌てて駆けつけるというルイサ。
そして医者がくるものに、事態は好転しません。
ロベルトは記者に囲まれ、バシャバシャ写真をとられ、カメラで撮影されます。この状態に「不思議だ。今朝は誰にも相手にされなかったのに」とつぶやきます。

ここでルイサが到着。
そしてロベルトはあることを思いつき、友人(やり手の広告マン)に電話。忙しそうに働いて「なんだよ!今電話してくんな」みたいな対応をする友人ですが、テレビに映っているロベルトを見て驚きます。

医師はロベルトを診断しますが、神経には問題ないものの、ここで鉄筋を引き抜くのは危険だと判断。このまま待機することになります。じりじりするルイサ。
そこに、先ほど電話をした友人の部下である広告マンがやってきて、ロベルトのまわりにビールを置いたり、奥さんに持たせたり。そう、ビールの宣伝として商品を映り込ませ、ギャラをロベルトに振り込む算段です。
失業中のロベルトは、この状況を活かして大儲けして、娘の学費を稼ぎたいのであります。でも、ルイサはロベルトのその態度が理解できません。
さらにこのマネージメント会社の男が「施設を訴えよう!」「メディア対応は俺にまかせろ!」とゴリゴリに働きかけます。

ようやく博物館長が遺跡を壊すことに同意。鉄筋とつながっている大理石を割って、ロベルトを助け出そうとします。
しかし、「すぐに助けられたら金が出ないぞ」と囁くマネージメント会社の男。ロベルトは慌てて「もうちょいこのままで!」と懇願します。

しかし、館長は手を休めません。大理石が割れないので、鉄筋を切ろうとします。でもその振動が脳に伝わってめちゃくちゃ痛い!し、熱をもった鉄筋がロベルトを苦しめるため、この作戦も中止。途中で「館長はおかしい。狂ったんだ!」という発言が出てきますが、別におかしくはなってませんでした。
大理石は切れないし、鉄筋も切れません。どうするのか?

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その横で、しつこくビールのアピールをし続ける代理人。コイツがトラブルメーカーで、物語をひっかきまわします。

その頃、この日に彼の雇用を断った社長は大慌て。
ロベルトは当初「自殺しようとした」と報道されており、それがこの会社のせいだと報道されたらまずい!という理由からです。「よし、コイツを急いで雇用しよう!」「よし、彼に仕事を与えるためには、お前クビな!」と、流れ弾でクビになる人も出てきます。

さて、代理人は暗躍して、ロベルトの独占放映権を巡っていろんなテレビ局と交渉中。そのうち、いかにもワルそうな局長と交渉中ですが、果たしてどうなるのか?

その頃、息子のロレンソが現場に到着。彼はゴスロッカーであり、厚底の靴を履いて現場にやってきます。化粧もバリバリにしているけど、スペインにもゴスロッカーがいるのか……。
息子の厚底靴のせいで、脳天に衝撃が響きまくるロベルト。
でも、息子と父の関係は悪くありません。むしろ、見た目がおっかないのに優しい息子であります。ショボンとしているママをハグしたり。いい子。

そしてこのロベルトの騒動はどんどん膨らんでいき「映画化を!」「いや、テレビゲーム化を!」という声も。しかしテレビゲーム化ってどうやるんだとは思いました。
一方、慌てていた市長ですが、「観光産業にプラスになるぞ!そのままにしとけ!」「テレビに映しまくれ!」との上からのお達しで、ロベルトに掌返しします。

さて、医者の判断で「ここで手術するしかない」という話になってきたわけですが、代理人の男は慌てます。なんと「ロベルトが死んだら、大きな話題になる。映像の値段も跳ね上がる」と言われていたからなのですが、奥さんに「ダンナが死んだら、200万ユーロ出すって言われてるんだ。だからさぁ、ね?」と囁く男。
奥さん、しばらくこの男の顔を見て
思いっきり
平手打ち。

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いや~、スカッとしましたね。この奥さんがとにかくかっこいい。
そんなこんなで、この代理人をボッコボコにする妻であります。

大金が入るかもしれない!と舞い上がっているロベルト。
しかし、ルイサはある女性ディレクターに依頼をします。
「単独で取材をしてもいい、でもそれを放送しないでほしい」
困惑するディレクター。
「私たちも仕事で来ているから……」
「でも、これが彼の形見になるかもしれないの。同じ女性ならば、わかってくれると思って」
絶句するディレクター。彼女の判断とは?

さて、ここで娘も到着。かわいいです。

取材をする女性ディレクター。
丁寧に質問に答えながら、息子や娘を紹介するロベルト。むちゃくちゃニコニコです。しかしその取材が終わった後、迷いながらもディレクターは奥さんにテープを渡します。カメラマンには「仕事だぞ、渡すな」と苦言を呈されつつ、彼女はルイサのために、そうしたのです。

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しかし、そのテープの受け渡しを見ていた代理人。
「チクショウ、あの奥さんはテープをエサにして、もっと大金を搾り取ろうというのか!」
と、勝手に怒り出します。
テレビ局と代理人は、このテープを狙っています。

ここで手術をするけれど、死ぬ可能性が高い。それを知らないロベルトは、息子を呼び「好きなことをしろ、絶対に貫け」と伝えます。もともと反対していたわけでもないようですが、こういうことが言えるパパは素敵だなあ。「ただし、その靴は俺は嫌いだ。二度と履いてくるな」と笑いも忘れません。

さあ、鉄筋を抜いて手術が始まります。ロベルトの体を持ち上げて、鉄筋から彼の頭を引き抜き、臨時の手術室へ。
朝まで固唾をのんで待つ家族たち。
と、手術室から医師たちが出てきます。その様子から……ロベルトが亡くなったことがわかります。
この展開には驚かされますよね。さんざんコミカルだったのに、急にシリアスになるストーリー。
息子は泣きながら、自分の靴を脱いで地面に叩きつけます。

記者たちも、ロベルトを見守るために集まった市民たちも、シーン……としています。友人たちや博物館長も、沈痛な面持ちをしています。

涙をこらえながら、凛とその場を立ち去るルイサと子どもたち。
途中でテレビ局の局長が待ち伏せしており、「そのテープをよこせ。いくら欲しいんだ?」と言わんばかりに、大金の入ったトランクを見せます。
そのトランクを思いっきり足蹴にする奥さん。
怒りに燃えるルイサの顔のアップで、この映画は終わります。

コミカルに終わるのかと思いきや、まさかのバッドエンドで終わったこの映画。
広告業界の悪い部分がこれでもか!と描かれています。
「すぐに助けられたら金にならない」というロベルトと、「助けたい」家族たち。
「そのままでいてくれたら金になる」とにやつく大人たち。
「むしろ、死んでくれればもっといい金になるのに」とまでいうテレビ局。
非常にシニカルな内容でした。