「デビルズ・ノット」

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2013年のアメリカ映画「デビルズ・ノット」を見ました。
「英国王のスピーチ」のコリン・ファースが正義のために戦う男を、リース・ウィザースプーンが被害者の少年の母親を演じています。「キューティ・ブロンド」であんなにガリガリだったのに、しっかりお肉をつけてママさん役を演じているのであります。

こちらの映画は、一言でいえば「冤罪」のお話です。雑な操作、先入観で進められていく裁判。しかし、弁護士と主人公以外は、それをおかしいと主張することもない。
「悪魔は、だれか?」という映画のキャッチフレーズがそのまま突き刺さります。

DEVIL'S KNOT

あらすじ

“ウエスト・メンフィス3”と呼ばれ、これまでにも多くのドキュメンタリー作品がつくられるなど冤罪を生み出した可能性が高い事件として知られる、全米中に衝撃を与えた未解決猟奇殺人事件を題材にした同名ノンフィクションを、「スウィート ヒアアフター」「クロエ」のアトム・エゴヤン監督が映画化した実録犯罪ドラマ。出演はコリン・ファース、リース・ウィザースプーン、デイン・デハーン。

1993年初夏、アーカンソー州ウエスト・メンフィス。こののどかな田舎町で、3人の児童が無惨な姿の死体となって発見されるという前代未聞の猟奇殺人事件が発生する。やがて全米が注目する中、3人のティーンエイジャーが逮捕される。警察は、その猟奇的な犯行の手口から悪魔崇拝者の仕業と考え、オカルト好きでヘヴィメタ・ファンの問題児ダミアンとその仲間たちが容疑者として浮上したのだった。そんな中、警察の捜査に疑問を抱いた私立探偵ロン・ラックスは、自ら独自調査に乗り出す。一方、被害児童の一人スティーヴィーの母親パムもまた、真犯人は別にいるのではないかとの疑念に苛まれていくのだが…。

http://www.allcinema.net/prog/show_c.php?num_c=350086

登場人物

ロン・ラックス:私立探偵。裁判に協力することも多い。死刑反対派であり、容疑者たちが冤罪であることを主張し続けてきた。妻と離婚したばかり。
パム:被害者の母。裁判が続くにつれ、裁かれようとしている少年たちが本当に悪人なのか、疑うようになる
ダミアン:悪魔崇拝をしていることから、容疑者となった少年。
ジェイソン:ダミアンの友人というだけで容疑者となった少年。
ジェシー:知的障碍のある青年。そのために容疑者となったよう。
テリー:パムの夫。被害者となった少年にとっては義父である。
クリス:デイン・デハーンくんが演じる、アイスクリーム売りの青年。最初に容疑者として尋問を受けるが、なぜか無罪放免となる。

ネタバレ

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パムの子ども、スティービーは腕白少年。友達2人と連れ立って森の中に遊びに行きます。しかしそれ以降彼らは行方不明に。
その頃、近くの飲食店に血まみれの黒人の男が登場。警察が到着する頃には姿を消していたそうですが……??

その後、森の中にある川の中から見つかった、少年たちの死体。腕と脚を靴紐でつながれ、裸で川底に沈められていました。その光景に号泣する警察官もいます。

当初、警察はクリスのことをパムたちに聞きに来ていました。
スティービーのお悔やみに来た際、写真をくれと要求したクリス。彼はなぜ、親しくもない少年の家にやってきたのか?

警察がマークしたのは、悪魔崇拝に凝っているティーンエイジャー、ダミアン。そしてその友達のジェイソンです。

というのも、少年たちの同級生で親友だと名乗るアーロン君が出頭、衝撃的な証言を行ったから。
「ダミアン、ジェイソン、ジェシーが子どもたちを殺した」
「自分も子どもたちを切らされ、血を飲まされた」
という、非常にエーな感じの証言ですが、このせいでジェシーが警察に連行。どう見ても誘導のような形で、証言を作らされます。
(証言させながら、自分がその犯行をしたと信じ込まされるような感じ)

彼らは逮捕され、非難の的となります。
「ダミアンが猫の頭蓋骨を持ち歩いていた」
「血を飲んでいた」
「首を切ってやると脅された」
と、またまたトンデモ証言が続出します。そして、悪魔崇拝はともかく、彼らの愛好していたハードメタル音楽まで叩かれるようになる始末(このへん、銃乱射事件のマリリン・マンソンのことを思い出す……)。

主人公は無償で弁護士に協力することを決め、彼らに有利な証拠を集め始めます。
まず、調べたのはダミアンのこと。
ダミアンは非常に貧しく、少年鑑別所にもいました。保護観察司とも仲が悪く、「あいつはいかにも殺人鬼っぽいじゃ~ん」と投げやりに言ったりもします。
オカルト儀式に凝っていたというダミアンの家から押収される証拠。悪魔の絵がかいてあるノートの切れ端。ゴムでできた赤ちゃんの顔マスク、動物の骨。とても本当の悪魔崇拝者とは思えない。ちなみにダミアンは16歳とかだったはずですが、女の子を妊娠させているパパでもあります。

ダミアンと会うロン。悪魔にまつわることが綴られたノートは、好きなバンドの歌詞や映画からメモした好きな言葉ばかりだし、少年鑑別所で他の少年に血を飲ませたのは頼まれたからだ、と主張します。「血にはパワーがある」「人の血を飲むことで、そのパワーが得られる(ウットリ)」とかこの期に及んでどうなの。

とにかく、全ての悪事が悪魔崇拝者のせいとなり、この事件にまつわる全部がダミアンのせいにされるという風潮が出来上がります。

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(左からジェシー、ダミアン、ジェイソン)

パムは夫のテリーとうまくいかなくなってきます。「息子には厳しかった」と指摘され、家具を壊したりガラスを割ったりする暴れん坊テリー。

ちなみに、ジェシーだけ裁判が切り離される「分離裁判」が行われることに。
(ダミアンとジェイソンの裁判とは別に、裁判が開かれるようになる)
裁判所の前に集まる、善意あふれる市民の皆さんは、口汚く容疑者の少年たちを罵ります。

さて、血を飲まされたとか言っているアーロンくんの証言ビデオを見て、むちゃくちゃ言ってる!と怒るロン。そして、被害者の少年たちの傷ましい写真を見て、落ち込んだりもします。

パムはスティービーの幻覚を見るように。そのせいか、ふと彼の宿題の存在を思い出し、急に学校に行って採点してもらうことに。そこでクラスメイトたちがパムに抱き付き、スティービーたち少年の死を悼みます。

アーロンの証言ビデオのむちゃくちゃさを裁判で露呈させたい弁護士たちですが、このテープは一部しか公開されず、証拠として提出されることもないということが判明。
この時点で証言がむちゃくちゃ(警察がいいように解釈した証言が並べられている)だし、判事は容疑者の少年たちが大嫌いなようで、ジェシーは有罪になります。

ロンは裁判所の外でパムに話しかけてみようとしますが、テリーに威嚇されて(別にナンパじゃないんですけどね)喧嘩に。
ふとロンはそのあたりにいたテレビ関係者に、被害者たちの両親について質問をすることに。すると、被害者の父親のひとり、マイヤーズが取材陣についてナイフを渡していたことがわかります。このマイヤーズは目立ちたがりであり、取材には非常に協力的。テレビ関係者の眼を引きたかったのか?
しかも、このマイヤーズのナイフには子どもたちの血がついていたことがわかります。でもナイフにあった血痕について、知らぬ存ぜぬを通すマイヤーズ。

ロンは次に、アーロンについて調べ始めます。
彼の母親・ヴィッキーはカード詐欺の常習犯であり、突然警察に息子を連れてきて、謎の証言をさせた張本人でもあります。
警察に依頼されて、悪魔崇拝をしている少年たちについて調べることになったらしいヴィッキー。親切なジェシーに頼んで、ダミアンとジェイソンと接触します。

しかし彼女の証言はでたらめで、
・「ダミアンに送ってもらった」→彼は免許もないし車もない
・「怪しげな儀式をやっていた」→ホラー映画そのままの描写
ということがわかります。
地元でも評判の悪い悪魔崇拝者に罪をなすりつけ、ジェシーは巻き込まれただけ。

だんだん、わけがわからなくなってくるロン。自分の行動に迷いを感じたりもします。
しかし、ダイナーでは働く女性・アニーに「あなたが助けないで誰が助けるの」と励まされ、また仕事に戻ります。
(ちなみに、彼の離婚した妻に接触して不利な情報を引き出そうとする男たちの存在もあります)

裁判は続きます。悪魔崇拝のことについて検察側が用意した証人は、通信教育で博士号を取得した男だったことがわかりますが、判事は証人として認めます。

ロンは事件の日に、血まみれの男が現れたレストランへ。そこの店長が証人として裁判に参加することになります。

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ここで問題となるのがクリスの存在。
最初に容疑者となったものの、なぜか犯人の候補から外れた彼。ウソ発見器の結果はクロだし、録画用カメラにはなぜかティッシュをかぶせたりとアヤシイ行動が多いクリスですが、彼は正式な証人として認められません。
ぐぬぬとなる弁護士。
さらに弁護士は、クリスのテープの完全に検証しておらず、ちゃんと彼を追い詰めることができなかったのです。検察から嫌がらせのように大量の証拠が届き、それでなくても多忙な弁護士たち。弁護士たちもうまくいかずにイラついています。

パムは相変わらず息子の幻覚を見ます。そしてふと、テリーの行動に違和感を覚え、彼の道具箱を覗いてみます。
するとそこには、息子の大事にしていたナイフが入っていて……!?

弁護士はジェイソンに「ダミアンに不利な証言をすれば、司法取引で罪が軽くなる」と持ちかけますが、ジェイソンは「ダミアンは友達だ。そんなことはできない」と言います。
ダミアンはもちろん、ジェイソンはホントーに普通の少年なんですよね。

裁判では、レストランの店長が証言。
あの事件の夜に現れた、血まみれの黒人のことを証言します。黒人の手は血まみれで泣きじゃくり、その足もズボンも泥だらけ。
後から聞きこみにやってきた(子どもたちの死体を川からあげたばかりの)刑事たちのズボンと同じように、汚れていたと……!

そして今度の証言者は刑事。彼は大事な証拠をなくしてしまったことを告白。これで逆に、ダミアンたちの無実を裏付ける証拠も失われたわけです。

次はダミアンの証言です。しかし、検察たちの主張をひっくり返すことはできず、ダミアンとジェイソンは有罪となります。

子どもたちが死んだ川のほとりで、初めて会話するパムとロン。パムは、夫が持っていた子どものナイフのことを独白します。
息子が肌身離さず持っていたナイフを、なぜ夫が持っていたのか?
彼女はその答えに震えています。

結局、離婚することになったパム。
ここからは後日談です。
・アーロンはのちに「本当は何も知らない」ことを告白
・ヴィッキーも「警察に脅された」と告白
・バイヤーズの妻は2年後に死亡。死因は不明
・その後、ロンはテリーのDNAサンプルを極秘に入手。
解析の結果、少年を縛っていたヒモについていた体毛のそれと一致した。
・血まみれだった男はいまだ、発見されていない。
・逮捕されたダミアンたちは、2011年に釈放されている。
だが、「無実だから」そうなったわけではないそう。
・パムは未だ、真相を追い続けている。

すっきり解決するわけではないので、その点では物足りないと思うかもしれませんが、司法制度についてものすごく考えさせられるお話であります。悪魔崇拝って聞こえが悪いものではありますが、かっこつけるためのポーズとしてそういうことをしたがっていた少年たちには罪はないわけですから。それにしても、こんなむごい犯罪を大人たち、しかも親である立場の人たちがやったのかも?ということのほうが胸が痛いですね。