森の中に潜む“何か”が、静かに家族を引き裂いていく『クワイエット・フォレスト』

クワイエット・フォレスト

2016年の映画『クワイエット・フォレスト』を見ました。メキシコ/フランス製作。

不思議な映画です。ダークメルヘンのような感じ。一時期流行した『クワイエット〇〇』シリーズですね。『クワイエット・プレイス』にあやかって邦題がつけられているのでしょうが、この映画についてはまぁ、正解のようでもあり、埋もれさせている原因のひとつのようでもあり…

森の中、一軒家の地下で息を潜めるように暮らす主人公と妹。上の兄は父と森に出ることを許されているが、ある日突然失踪してしまう。ぶっきらぼうな父から兄のことを聞き出せず、森の中に探しに行く少年。

しかし、森の中には何かがいる… 大きな、危険な何かが…

そのうえ、生き残りらしき人間たちは飢えており、彼らに同情した少年は交流を持とうとするも失敗を繰り返す…

兄はどこへ行ってしまったのか?

この映画の根源である“森の中を蠢いている何か”の存在は、最後まで明かされないまま。巨人なのか、悪魔のような何かなの、それとも人間たちなのか?唯一はっきりしてる設定は「外に出る時にはマスクをつけなければいけない」ということだけ。ということは、環境破壊が進んだ近未来の話なのか、それとも怪物が出す臭気などが関係しているのか?

「生き残りはいるけれど、誰も信用できない」雰囲気も漂う中、実はいなくなった兄は自分と妹を連れて逃げようとしていたことを知る主人公。

言葉少なで何を考えているのかわからない父に痺れを切らして、妹を連れて家から逃げるも、兄は死亡が確定・体の弱い妹は森を彷徨ったせいで死亡・父も撃たれて余命僅か?というところで、絶望する主人公(ひとりで生きていかなければいけないことが決定)が灯りを見つめているところで物語が終わります。

セリフも異常に少なく、森を彷徨う少年の現実と夢が交錯し、ただ絶望だけがじんわりと滲んでくる静かな映画です。

当初は父親が不条理に子供たちを監禁している話かと思ったのですが、そういうわけではありませんでした。

個人的にいいなぁと思ったのはオープニング。3兄弟でクスクス笑いながら鬼ごっこをしていて、ず~っとクックック… フフフ… と笑っているんですね。妙齢の少年たちが鬼ごっこで品よく大爆笑しているという謎の図が奇妙すぎて、そこから引き込まれました。ああ、この世界では娯楽がないんだなぁ、とか抑圧されているんだなぁ、とか。