2018年のオーストリア映画『アンデッド/ブラインド 不死身の少女と盲目の少年』を見ました。
原題は『THE DARK』。こちらのほうがいいですね。あと、DVDジャケットの「君を見たい」「あなたを食べたい」というコピーは内容とけっこうズレています。恋愛映画では、まっったくありません!食べたがったりもしないし、「君の顔を見たいな~フフ」ナデナデ とかいうウザイ展開もないです。
タイトルだけ見るとゾンビと盲目の子で戦うの?それとも助け合うの?ゾンビに襲われた盲目の子が頑張るって話??と首をかしげていたのですが、なかなかどうして、染みる映画だった。『ぼくのエリ』と同じ系統というのでしょうか、心(そして体)に傷を持つ少年と少女が出会い、生きることを取り戻すお話です。低予算なんだろうか?と思わせるところもありますが、全然気になりません。
主人公のミーナは、母親の恋人に性的虐待され、反抗しようとして殺されてしまい、蘇ってきた女の子。そして盲目の少年・アレックスは、悪い男ヨセフに誘拐され目を潰され、車で連れまわされていたという、双方ものすごいトラウマの持ち主。
ミーナが蘇ってきた理由ははっきりしませんが、「悪魔の谷(デビルズ・デン)」といういわくつきの土地で起きたこと… という設定がもう、ゾクゾクしますね。
物語は逃亡中の犯罪者・ヨゼフをミーナが殺すところから始まります。ミーナは廃屋(かつての自分の家!)に人間を引っ張り込んでは斧で殺し、死体を食べていたのですが、ヨセフの車に乗ったアレックスを見て呆然。目が見えないようにめちゃくちゃに顔を傷つけられた彼は、家族の命を脅され(家に帰ったら家族を殺すといわれていた模様)、すっかりヨセフに洗脳されています。
しかし、捜索に来た警官をミーナが殺してしまい、さらには懸賞金目当ての男たちも殺害。殺害のシーンだけ異様にテンポがいいのが怖い。
彼女がゾンビであることを知ったアレックス、そして彼のことを知るごとに家に帰してあげなければと考えるようになったミーナ。
電話を借りようと老婆の家に入るも、ミーナを助けようとアレックスが彼女を殺してしまいます。この時に、アレックスがミーナに近付くために殺人に手を染めたのがわかるのが怖い。ちょっと笑って、その後スープをよそってくれた彼女の腰に抱き着いたり。
恋愛という意味ではなく、もう依存なんです。ヨセフの代わりに、母親の代わりに、ミーナに愛されようと人まで殺す。このシーンの演技は素晴らしいですね。
彼はミーナと生きていこうとしますが、彼女はアレックスの家に電話をかけ、母が息子を待ち続けていることを知ります。そして、蘇った彼女が自分の母親を真っ先に殺したことも回想で明らかに…
結局、老婆の家族が様子を見に来た(らしいが、詳細はよくわからない)時にアレックスが連れていかれ、それをゾンビなのにダッシュで追いかけるミーナ。そして車は交通事故を起こしてしまいますが、運転していた女性もアレックスもなんとか命は無事。そしてミーナはアレックスに家に帰るように言い含めます。母が彼を待っていると真実を教えてあげ、洗脳を解こうと話を続けます。
目がまた見えるようになるかも、と希望を持つアレックス。
しかし、救急車や警察が来た時のアレックスはずーっと「ミーナ!ミーナ!」と叫び続けていて…
この依存ぷり、漫画『けだものたちの時間』をなんとなく思い出したけど、設定が全然違う(ただそれぞれのトラウマは同レベルかもしれん)のでとりあえずわすれとこ。
一方、ミーナは廃屋に戻り、かつて描いていた絵(父親の似顔絵なのも泣ける)をかき集め、湖のほとりで絵を描き(たぶんアレックスの肖像画。目が傷つけられていない状態の肖像画を描いているところがまた…)、彼女は歩き出します。ものすごくさわやかなラスト。
途中で親切なマダムが車に乗せてくれて、一瞬カメラのほうを振り返るミーナ。そう、アレックスが消えてからミーナの顔はまったく映っていなかったのですが、なんとゾンビじゃなくて人間に戻ってる!一瞬、マダムが「ギャー!」って叫ぶかと思って待っちゃったわよ。
もう、この時点でノックダウン。ただバチンと叩かれるというよりも、優しく肩を突かれてふわりと倒れるような気持ち。あー、なんだかすごいものを見た気がする。という気分になりました。
当初、ミーナは人をガンガン食ってるし、アレックスは「ヨセフが怒る、ヨセフに殺される」とウジウジしているので、なんだこいつら?という嫌悪感のほうが先に立っていたのです。でも、この奇妙なハッピーエンドにいつの間にか飲み込まれてしまった。
ラスト、果たしてミーナは悪魔から解き放たれて人間に戻り、命を取り戻したのか?そもそも、ミーナは自分がゾンビになったという夢を見続けていて、そこから目を覚ましたのか(にしても大量殺人鬼なんだけど)? どっちでもいいよ、幸せそうだから…
邦題で倦厭している人がいるならもったいない!そんな作品でした。それにプラス、ゾンビメイクの出来が素晴らしい(意外と昼間のシーンが多いのですが、そこでも通用する怖さ!)ので、テンポがまったりのゾンビ映画がお好きな人にはおすすめです。