「アサイラム 監禁病棟と顔のない患者たち」

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2016年のアメリカ映画「アサイラム 監禁病棟と顔のない患者たち」を見た。なんと、メル・ギブソンが製作に名前を連ねております。個人的にはすごく唸ったお話。監禁病棟の話というと、どうしても「シャッターアイランド」みたいなおも~い印象を思い描きますが、適度に見ている側を楽しませようという気持ちが伝わってきました。意外にもロマンチックなのも素敵。
どことなくおかしい精神病院、美しい女性患者。そこに隠された秘密とは?

未見の方はまず、映画を先にご覧になることをおすすめしますぞ!

登場人物

エドワード・ニューゲート医師:この映画の主人公。オックスフォード大学で学び、精神病院で経験を積むためにやってきた。非常にマジメな性格であり、患者思いである。
イライザ:この病院の患者のひとり。目をひくほど美しく、ピアノの才能に秀でているが、男性に触られると発作を起こしてしまう。その原因は彼女のサディスティックな夫にあった。夫は彼女に執着し続けている。
ラム医師:精神病院の院長。精神病患者の治療に対して、偏った考えを持つ。
ミッキー・フィン:病院の警備担当。粗野な男。その名前には「薬を盛る」という意味があるらしい。
モリー:イライザにいつもくっついている看護師。美人だが、かなり幼稚な性格をしている。

ネタバレ

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オックスフォード大学では、ヒステリー患者の女性を目の前に、講義が行われている。彼女はとても美しく、「私は正常よ!」と訴えるが、講師は彼女の腹を殴って静かにさせる。それを見守っている学生たち。
講師は言う。「聞いたことは何も信じるな。見たことは全部信じろ」。

時は移り流れ、エドワードは森の中を彷徨う。たまたま通りかかった人たちに助けてもらうが、森の奥にある精神病棟はまるで陸の孤島のようだ。貴族の身内しか入院できない精神病院を、警備担当のフィンに案内されるエドワード。院長とも面談する。
エドワードは地獄から人を救いたいと主張する。

病院には「鉄道に興味がない鉄道会社の後継者」から、「自分をウマだと思っている男」まで入院している。院長は患者を救うことを第一に考えない。救うことのほうが残酷なこともある。延命させることが、彼らにとっていいことなのだろうか?
困惑するエドワードだが、ピアノ演奏をするイライザに見とれる。彼女は夫が原因で病気をひどくさせた男性恐怖症の女性だ。院長は彼女の退院を遅らせているが、夫はすぐにでも退院させたいと願っている。

その夜、歓迎食事会が開かれる。だが、そこには患者たちも同席している。院長の主義で、彼らをよく知るためだというのだ。
エドワードは食事会で自分が6歳の時に両親を失い、孤児院で暮らしたことを明かす。しかし、「悲惨さが信念を明らかにすることもある」という。エドワードはふと「ミッキー・フィンとは薬を盛るという意味ではないか」と彼に尋ねるが、奇妙な沈黙の後、爆笑が起こるだけだ。フィンは彼に酒を飲ませようとするが、イライザがテーブルの下で足を蹴って止める。
そしてイライザはエドワードを台所に連れて行き、逃げることを勧める。困るエドワードだが、イライザは理由を言わない。

深夜。エドワードはふと、物音を聞きつけて館を彷徨う。辿り着いた地下室には、檻に入れられた者たちがいた。最初狂人だと思う彼だが、そこに閉じ込められていたのは医師や看護師、警備員たちだった。
つまり、精神病患者が病院を乗っ取って経営していたのだ。本来の院長、ベンジャミン・ソルトは助けを願うが、彼らが体力が落ちていて戦いになったら負けること、街に辿り着く前に見つかるだろうことも事実である。
とりあえずその場を去った彼はイライザに一緒に脱出しようと持ち掛けるが、彼女もこの騒ぎを起こした仲間だと知り、困惑する。だが、イライザはラムとフィンが2人を見つけた際にエドワードをかばってくれる。

翌朝になってもフィンは彼を監視しているし、逃げるのは不可能に近い。鍵も盗めない。
彼はラムの部下として懐に入り込み、説得しようとする。ソルト院長は彼のために、ラムのカルテを隠した場所を教える。

患者の回診中、ラムは「患者を下の世界に戻す」ことを考えているとエドワードに説明する。そして、“人食い鬼”というあだ名のアーサーという男の部屋に彼を突っ込む。暴力的なアーサーに驚くエドワードだが、名前を呼んで親切にしてやったことで、彼は落ち着いていく。

イライザと話し合うエドワードだが、患者たちが拷問まがいの検査や治療を繰り返されてきたことを知り、驚く。なかには性的暴行まがいの検査や、辱めのようなものもあったという。だが、エドワードも孤児院でひどい扱いをうけてきたと語り、傷だらけの体を見せる。彼らはだんだんと惹かれていく。

だが、人の男が脱獄してしまう。
エドワードはそれを知らず、ラムのカルテやファイルを盗み見る。その部屋にラムとフィンが入ってきて、彼は慌てて隠れる。フィンはエドワードを怪しんでいるが、ラムは信頼しているようだ。見つかりそうになる彼だが、脱獄の知らせが飛び込んでくる!

逃げた2人はフィンに見つかり、1人は自殺。1人は死体となって病院に戻ってくる。その死に方を咎めるエドワードだが、捜索班はあくまで「事故死」だと主張する。

落ち着いてファイルに目を通すエドワードだが、ソルト院長は残虐な医療行為をしていたことを知ってしまう。ラムは軍医であり、戦地で子供の兵士たちを殺した疑いで投獄された。反抗的なラムには、水責めや回転椅子に括り付ける謎の治療などが行われていく(鼻からチューブを入れて液体を体内に入れる治療もある)。
院長のやり方に反発していた彼は、仲間たちを引き込んで反乱を起こしたのだ。

何も知らないラムは、拘束具や拷問に近い治療をやめることを明言する。しかし、ソルト院長は彼が患者たちをうまくコントロールできていないことを見抜き(食糧不足、暖房を維持する技術不足、薬の管理ができておらずそれも不足など)、指摘される。

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看護師のモリーも、本当は患者だがその役をさせられている。だが、本人はそれに飽き飽きしているのだ。エドワードは彼女に代わり、認知症の老女の面倒を見てやる。その優しいやり方(亡くなった息子のふりをして、彼女を説得する)に、イライザも思わず微笑む。イライザも、ラムのやり方はもう破綻すると考えている。だが、モルヒネ漬けだったモリーがラムに仕事を与えられ、元気になったことも事実だと語る。

ラムはエドワードを呼び、実験を行うという。その対象はソルト院長だ。ソルト院長の脳に電気を流す実験を行うというラムに思わず反発するエドワードだが、正体を隠すために自分も実験に参加する。ソルト院長は強い電流のせいで、自分が誰なのかもわからない状態になってしまう。

12月31日。
院内の正面玄関では、治療器具や拘束具を燃やそうとしている人たちがそれを積み上げ、盛り上がっている。檻に監禁されている人たちはみんな具合が悪くなっている。何もかもが限界だ。
患者からも信頼されていた看護師長は、彼にアドバイスを送る。ラムを院長としてではなく、患者として考えるのだと。

年越しパーティの舞踏会で、皆が浮足立っている。だが、モリーは部屋で寝ているように命令され、ふくれている。彼女はこっそり部屋を抜け出して踊りながら歩き続けるが、それをフィンに見つかってしまう。フィンは彼女にダンスを申し込み、2人は踊る。だが、キスしてしまう2人。モリーはどんどん積極的になるが、フィンは突然、モリーを絞め殺してしまう。
イライザは看護師長に会いにいっていたが、モリーが死んだことを知り愕然とする。ラムは彼女が病死だと言い張り、周囲はそれが嘘だと知りつつ、誰も指摘できない。モリーの死体は、アーサーが運んでくれる。

焚火に火が放たれる(なお、火をつけたのは放火魔)。エドワードは薬物をシャンパンに入れるが、それをフィンに見つかり喧嘩になる。彼は持っていた銃でフィンを撃ち、その遺体を石炭置き場に隠してしまう。
シャンパンを振る舞うエドワードだが、生きていたフィンが戻ってきてそれを止める。エドワードはラムに殴られる。

目を覚ますと、彼は担架に括り付けられていて、イライザがそばにいる。彼女はエドワードの時計を見るが、そこにはイライザの写真が入っている。なぜなのか?
実は、エドワードは半年前のオックスフォードの講義で彼女を見て、一目惚れしてしまったのだ。彼女の扱いに憤怒し、居場所を探し出して助けようとしていたというエドワード。だが、彼女はそれも支配であり固執である、エドワードも夫やラムと同じだとなじる。だが、エドワードはそれを否定し、「君がぼくを所有しているんだ(君が僕を支配してしまったという意味?)」と言う。

だが、ラムはエドワードに電気ショックの治療を行うことを決める。その直前に、彼はラムにある写真を見せることに成功する。それは、ラムが自分のいた独房に隠していた写真(殺した少年兵の写真)だった。見せられたくなかったものをつきつけられ、ラムはフリーズしてしまう。イライザがそれを助けるが、今度はフィンがしゃしゃり出てきて、イライザと揉みあいになる。患者たちはそれを囃し立てる。フィンに勝ち(スゲーな)、エドワードを助けたイライザ。だが、病院が火事になってしまう。イライザは檻の中から看護師長たちを助け、避難の誘導を頼む。

ラムは戦地で、死にかけながらも助けを求める少年兵たちに驚き、怯え、彼らを撃ち殺してしまった過去があった。彼は避難せずに建物内にいたが、エドワードが彼を助ける。
すべてが丸く収まったように思えるが、イライザはここを出て行けない、夫が恐ろしいと語る。しかし、エドワードはある秘密を彼女に明かす……!

春。イライザの夫が病院にくる(彼は片耳と片目を彼女に傷付けられている)。警備はアーサーに、院長は看護師長に変わっており、エドワードもイライザもそこにいない。患者の中には院長もおり、ラムとチェスをしている。
看護師長はエドワードのことを語るが、イライザの夫とともに現れれた男は呆然と「それは私だ。エドワード・ニューゲートは私です」と言う。

そう、実はエドワードはロンドンの病院に入れられていた患者であり、イライザがオックスフォード大の講義に参加した時に居合わせた、もう1人の“講義材料”だったのだ。彼らは車イスですれちがったのだが、そのイライザの美しさに驚いた男はエドワード・ニューゲートの眼鏡や拳銃を盗み、脱走し、彼女を捜し続けたのだという。
この男は病的な嘘つきだったと語るニューゲート医師に、思わず微笑むラム。「チェックメイト」と駒を進める。

その頃、イタリアの精神病院ではピアノを弾くイライザがいた。彼女は別の人に演奏を代わり、男性とワルツを踊り始める。
「踊りましょう、ラム先生」
「喜んで、ラム夫人」
彼らは美しい院庭で患者たちと微笑みながら、踊り続ける。

感想

・「精神病院を患者たちが乗っ取る」という設定がショッキングすぎて、オチまで気持ちがまわらなかった。驚きました!
・精神病院で行われていた治療の恐ろしさが、恐怖を演出するための道具になっていないところが良かったようにも思う。難しいですよね、こういう治療は。薬物治療ですら難しいんですから、この時代の治療なんてもう……。あと、性同一性障害の人も収容されていた時代だったようで、悲しい気持ちになったよ。
・何が正しいのか?狂っている者が正しいのか、正常であるはずの者のほうが禍々しくいのではないか?とにかくゾワゾワする作品。ラストがまたキレイなんだけど、やっぱり逃げるのは精神病院なのか……と考えるとそれもゾワゾワ。