風刺がピリピリ!ちょっとユ〇〇ロのことを思わせる殺人ジーンズ映画『キラー・ジーンズ』

「モノが人を殺す」という映画は意外にも多い。メジャーどころといえば食べ物と車。

『アタック・オブ・ザ・キラートマト』はあまりにも有名だし、他にもアイスクリームとかドーナツとかもあった記憶。まぁ、ジャンクな食べ物のほうが殺人イメージに結びつけやすいのか?ハンバーガーとかフライドチキンとかね。

車ならスピルバーグの『クリスティーン』とかかな?運転席には誰もいない、だけど追いかけてくる車!という内容の映画です。

変わり種では(私のオススメ)タイヤが殺人鬼、というものもありました。最近だと『ファブリック』は人を殺すワンピースの話でしたわね。

他にも『キラーコンドーム』など、性関係のアイテムが人を殺すという映画も忘れ難い。セクシーなシーンも入れやすいですし。

ところで。なぜ、モノは人を殺すのか?

その根底には“風刺”が隠し味のように効いている。人間なんて殺されて当然だ、という皮肉。

ゾンビ映画は当時のアメリカ社会の物質主義を皮肉っていたそうですが(いい服着ていいもの食べていい家に住むことが幸せ、というのは、実は薄っぺらい価値観なのではないか?と提起していたと言われていますよね)、モノが人間を襲うのにもそれなりの理由、憎しみが存在しているのはないでしょうか。

この映画のように。

前置きが長くなりましたが、『キラー・ジーンズ』を見ました。2021年カナダ映画。

環境に優しいと謳う衣料品メーカーだが、実際は嘘にまみれた汚い企業だった。綿花摘みの少女は機械に巻き込まれてバラバラとなり、その血は綿花にしみこんでいく。そして彼女はジーンズとなって再生して服を欲しがる人間たちを皆殺しにしようと企む。

理想と夢を抱いてそのアパレル店で働こうとするある女の子。だが、働き始めた当日にキラージーンズ騒動に巻き込まれ、徐々に目覚めていく…

うん、ユニ〇ロを思わせる内容… (※個人の映画を見た感想であります)

ユニ〇ロは文春でも問題提起されていたブラック企業問題(横田増生さんの記事。すごく興味深く拝読しました)だったり、ウイグル自治区の綿を巡る問題だったり、いろいろありますよね。報道されたトラブルが次々脳裏を横切っていきました。

この会社、手頃な値段でオシャレな服を提供している感じ。でもスタッフには「店で働くなら服を買え、ただし今日の時点では社販は効かない」とか「今日から働いて、ちなみにこれから徹夜だから」とかもうムチャクチャ。社員たちは全員イジワルでツンツンしていて、自己中心的。

そんな社員たちを新商品ジーンズ(はくと勝手に体にフィットしてスリムに見せてくれるという謎設定)は徐々に仕留めていき、今度は新商品をレビューしに来たインフルエンサー(このキャラクターも相当にバカバカしく、実在するインフルエンサーをバカにしている感じがムンムンしますね)を殺す。

主人公は唯一店員のなかでは親切なインド系女性とともに生き残ろうとするが、クソ店長のせいでうまくいかず、説得は失敗。店長は出世のために、生き残っている社員たちを殺してすべてをもみ消そうとする。

インド産の綿花を使っているからか、このインドにルーツを持つ女性の聴いていたボリウッド音楽を耳にした(耳ないけど)ジーンズが踊り狂うのは面白い。エンドロールでは、このジーンズをどうやって動かしているのかの種明かしもあります。

だが、それより面白いのがジーンズを真っ向から説得しようとする主人公。話し合いで解決しようとするのよ。ジーンズもちょっと話聞いたりするのよ。ジーンズにだよ。狂ってるでしょ。

なお、このジーンズは人間の血を吸うのですが、人の皮膚まで食べたりします。店長の顔も食べてましたし。ケモノのような、ゾンビのような、不思議な感覚。

最後、生き残っていた主人公は店になだれ込んできた客の下敷きになって昏倒(まさかの死亡かもしれないけど)。新商品のジーンズが欲しいあまり、人間としての理知を失い、人を突き飛ばしながら進む客たち(限定品の発売日とかによくニュースになっている光景)。ジーンズたちはその客を引き裂きまくります。

ラストのエンドロールにはNG動画もついていて、楽しそう。バラバラにされた(設定の)キャストたちが特殊メイクでニコニコしているところも見られます。

ホラーコメディに分類されるのでしょうが、『ブラック企業に勤めているんだが、俺は限界かもしれない』(だっけ?タイトル忘れた)並みのクソ会社ぶりが心を蝕みますので、ストレスフルな方にはおすすめできないかも。この手の映画を見てクソ上司が酷い目にあったとて、気持ちが明るくなるものではないですよね。

とりあえず、自分がやっている美しいことを「見て!見て!!」とアピールしてくる人のことは信用しないほうがいいってことですかね。