幼稚園教諭のもうひとつの顔は、過激な白人至上主義者。「ソフト/クワイエット」

ソフトクワイエット

「それは、しずかで、やさしい“怪物”」。

2022年に公開されたアメリカ映画「ソフト/クワイエット」。

公開当時の秀逸な宣伝文句からも推察できるように、普段“優等生”として生きている白人女性たちのおそろしい暴走を描いた作品。

さっさと白状してしまうと、白人至上主義の女性たちによるアジア人差別の話なんですね。

ただ単なるスリラー、サスペンスかと思いきや、なんともゾッとする展開が待ち受けています。

 

 

ストーリーを振り返る。

主人公・エミリーは幼稚園に勤める真面目な教師であり、その仲間たちも店舗経営者(雑貨店なのかコンビニなのかはよくわからない、田舎の食料品店)の店長だったり、その店員(ただし前科持ちでソシオパス)だったり、普通の母親だったり… でグループを作っています。

その白人至上主義主張はひたすら過激であり、自分たちが「善」と信じて疑わない、曇りなき眼がまた怖い。普通のお母さんが混じっているのもまた怖い。

しかし会合場所に選んだ教会の牧師に会話内容を聞き咎められ、集会スペースから追い出されてしまいます。まともな人が存在する世界線でよかったとホッとする私。

 

 

ですがエミリーは興奮冷めやらぬまま、たまたま店で出くわしたアジア人姉妹と大喧嘩に。

なんと、この姉妹の片方がエミリーの弟から性加害を受けており、弟は現在服役中。そのことを逆恨みしているエミリーは、この姉妹の家に忍び込んでいたずらしようと企み、グループの仲間と夫を誘います。

(話を聞く限り、絶対に弟が悪いと思う)

ノリノリになる仲間がいる一方、夫はもちろん及び腰。それでも妻のためにと参加します。

そしてアジア人姉妹の家に侵入し、いたずらをしようとしたところへ…姉妹が帰宅!

鉢合わせたエミリーたちは姉妹を監禁。しかしいたずらで口の中に詰め込んだ食べ物にアレルゲン反応を起こした姉妹の1人が死亡。証拠隠滅のため、もう1人を撲殺して湖に沈めようとするエミリー。怖気づく者、逆にテンションが上がっておかしくなる者と仲間の反応は分かれますが、彼女たちは湖に遺体を遺棄。

やりとげたぞ!的な盛り上がりを見せる彼女たちですが、被害者は息を吹き返し、泳いで岸まで戻ってくるところが見える… というところでエンド。

 

 

このアジア人姉妹、なかなか裕福らしく親から相続した大きな家に住んでいるというのもエミリーの仲間のお怒りポイントらしい(私は狭いアパートに住んでるのにこいつらズルい!みたいなノリ)。

そう、彼らの差別には何の根拠もないんです。「この姉妹が嫌い」ならまだわからなくもないですが、「白人以外が嫌い、なぜなら彼らは劣っているから」というのは意味が分からない。エミリーが差別主義に転じたのは、弟の事件がきっかけかもしれませんが…

 

この映画の魅力は脚本の巧みさに加え、全編ワンショットということ。つまり、集会が始まり、スペースを追い出され、姉妹と喧嘩し、家に侵入して殺害して遺棄して… という一連の流れがリアルタイム進行で撮影されています。

この手法が、本当に実在する女性たちの1日をビリビリッと切り取ってそのまま持ってきたような生々しさをうまく演出しています。ホント、匂いたつような生々しさ。

 

 

この作品を手掛けたベス・デ・アラウージョ監督はこれが長編デビュー作品だそう。

インタビューを拝見すると、エミリーにはモデルがおり、それが監督の小学校2年生の時の先生だったという話には衝撃を受けました。あからさまに有色人種の生徒を差別したらしく、親の悪口を子供の目の前で言うこともあったそうです。もしかして、非常によい先生に見えるエミリーは、白人にとっては素晴らしい教師であり、そうでない人には学校生活の弊害になる存在だったのかも。ただ、こういう先生を嫌悪する白人たちだっているでしょうから、どちらにせよ一部を除いてエミリーは愚かしき教師として語られているんだろうなあ… そうであってほしい…

 

 

この「ソフト/クワイエット」のような、予測していないバッドエンドに自ら引きずり込まれていく映画って「ここでこんな選択をしなければ…」「ここでこいつが仲間にならなければ…」みたいな“分岐”が存在していることが多い。でも、この映画に関しては「なるべくして成った」という感じです。

ピタゴラスイッチのように、本人が気付かないうちに転がされ、転がされ… ということではなく。コップから水があふれるように決壊した印象でした。

非常に迫力があり、飽きさせないように工夫を凝らしてある作品です。スラッシャー描写などはありませんが、まさに深淵を覗いてしまったような映画。未見の方はぜひ。

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