久しぶりにこんなに重厚なギャグなホラー作品を見ました。なんだろう、フジテレビ臭がすごい。
とはいえ、怖いシーンも些少ではあるけれども存在し、センスがあるなあと唸る場面もあり、キャスティングの妙も光るのはさすが。
不思議なところがたくさんある映画、2023年の『禁じられた遊び』。邦画ホラーです。中田秀夫監督。
重岡大毅さんと橋本環奈ちゃんのW主演ということですが… 元ジャニの皆さんはスケジュールがとれないのか、そもそもそういうストーリーなのか? 基本は橋本環奈ちゃんの目線でストーリーが進み、ちょくちょく重岡さんが出てきますよというくらいのシーンの少なさ。
どちらかというと、橋本環奈とファーストサマーウイカのバトルを鑑賞する映画です。
というよりも、いわゆる裏センターにあたるのがファーストサマーウイカ。「貞子」に近い、というよりもほぼそれのポジションです。呪われた存在として登場し、最初から最後までそのポジションを全うするキャストが、ここまで知名度がある女性なのは久しぶりではないでしょうか?
(途中から被害者→加害者・怨霊ポジにスライドするパターンは腐るほどありますけどね)
以下、ストーリー。
- 念願のマイホームを手に入れた主人公・直人。しかし、息子に「トカゲのしっぽを土に埋めるとトカゲが再生される」という嘘を教えてしまってから悲劇スタート
- 直人の妻の美雪が事故死し、その遺体のかけら(指)を庭に埋めて毎日祈りをささげる息子
- 一方、直人の元同僚・比呂子は、かつて直人に片思いしていた過去を持つ。しかし、美雪に生霊を飛ばされ「私の夫に近付くな」と牽制され、辞職していた
- 美雪の葬式に参列した比呂子に、再接触してくる美雪の霊。霊媒師や親友や美雪に憑依され、襲ってくる
- 美雪の過去について調べる比呂子だが、彼女は恐ろしい神通力を持っていたことが判明。彼女を闇に帰すには、蘇ってきた肉体を始末するしかない
- 直人に再接触する比呂子。蘇ってきた美雪が直人と比呂子を襲うが、辛くも撃退。
- しかし、呪われた力は直人と美雪の息子にも遺伝。息子を止める直人だが、彼は母親を蘇らせることに固執。しかし、そこに雷が落ちて突然死
- 平穏な日々が戻ってきた比呂子だが、直人は息子を蘇らせるために庭で呪文を唱え続ける。次の瞬間、土の中から子供の手が…!?
みたいなストーリーでした。
ツッコミどころはおもらししないように気を付けていたんですけども、ダメだね。雷が落ちて燃えてしまう、ってさぁ。「Xファイル」みたいなオチだなと思ってしまった。
では、ちょっと気になったシーンを振り返ろう。
- まず、呪文がエロイムエッサイムなのがもう気になる。エロイムエッサイムといえば水木しげる先生の「悪魔くん」、あと魔性の魔女・黒木ミサが暗躍する「エコエコアザラク」くらいか? 実写ホラーではあまり見かけないワード。つまり、きわめて漫画的な表現なんだと私は推測しています。つまり、冒頭から「この作品は漫画寄りの表現でホラーらしい描写をします」と宣言しているのだと判断。それにしてもエロイムエッサイムって誰が息子に教えたんだろ。謎。
- 交通事故で美雪が病院に運ばれるシーン。会社からタクシーでかけつけた主人公、看護師に現状を告げられてマスオさんばりの「エエッ!?(棒)」となったところで、ちょっとずっこけた。身内が事故に遭ったって警察から連絡が来たら、もっと大慌てしてると思うんですけど。
- 緊急処置室にズカズカ入り、「妻を助けてください!」と美雪の体を掴む主人公。そんなことできるわけねーだろ!
- 葬式後、母の指を隠し持っていたことを父に教える春翔くん。「これ…ママの指か?」とおずおずと尋ねる直人。私だったらまず叫ぶが。そして5メートルくらいのけぞる。息子をはたくかもしれない。懐の広さがすごいな直人。そして怖いぞ春翔。
- 霊障として「キリキリ音」が比呂子を悩ませるのですが、やたらと耳をこするのが謎だった。キリキリッ…キリキリッ… って音がしても、どちらかというと耳の中に問題があるとまず考えそう。それとも耳がかゆいのかしら?
- 比呂子にセクハラしていた上司の演技が80年代のトレンディドラマみたいだった(眉毛が奇面組みたいだった)。残業中の比呂子にセクハラするのですが、それよりも比呂子のタイピングが異常に遅いのでイライラする元社畜のわたし。
- 上司に襲われる比呂子の顔がすごい。ぜひご覧ください。目をかっと見開き、片方の口をクイッと上げて「ガーン」みたいな顔をしていた。あの顔、いいと思う。素晴らしいと思う。橋本環奈ちゃんの映画ってそれなりにたくさん見ているのですが、初めて見た顔だった。
- 比呂子、助けてくれた直人に「怖い…怖い…」と抱き着き、直人はそれを抱きしめてしまう。美雪でなくともイライラするぞこれは。抱きしめるなよ!抱き着くなよ!
- 直人が落としたタバコがアメリカンスピリットだったのがなぜかじわじわきました。タバコの銘柄からイメージする性格、というサイトを調べてみたら、「サーフィンが好きなアウトドア派カモ!?」とか書かれていた。やかましいわ!
- ありがとうのプレゼントとして、直人にライターを渡そうとする比呂子ちゃん。重い。ライターとか既婚者にあげるかぁ?タバコ1カートンのほうが喜ばれそう。それか商品券。
- 美雪も負けていない。何の関係もない旦那の職場に生まれた子供を見せにやってくるのだ。ものすごい濃い愛憎劇場を見せられているんだな、と実感する。このシーンが何気にこわい。比呂子に「うちの夫に手を出さないで」と耳打ちするのもさすが。昼ドラか?
- 美雪の霊障に悩む比呂子は、霊能力者に相談する。だが、その霊能力者も美雪の力に負けてしまう。助手が霊能力者を日本刀で刺し、自分が乗り移られたら潔く自死。なんというか、シーンは怖くないんですけど、事務所に日本刀があるのとか、よし、日本刀でやったるか!みたいな精神がこわい。あと、淡々と処理していくテンポの良さがこわい。
- 霊能力者を演じているのはシソンヌ長谷川さんなのですが、もっと活躍するかと思ったら全然すぐに退場させられていた。共闘くらいはするかと思ったのに。
- 霊能力者が亡くなったというニュースを見て怯えた比呂子、テレビを消す。しかし霊障、何度もテレビをつける。しつこい。ミヤネ屋みたいな番組を何度もつけられても困る。
- 美雪が育った養護施設で以前起きた不可解な事件(いじめっ子が突然階段から転落した)ですが、この階段から落ちた女の子のシーンがとてもよかった。90年代のJホラーみがありました。
- 土から這い出して来る美雪。「パラサイト・イブ」以来のオカルトヌードが繰り広げられる。それを見た橋本環奈の顔がぐでたまのようになる。かわいい。
- 美雪が霊障を起こした理由が、直人も比呂子に惹かれていたから… だと…?これは直人が悪いのでは?それともメンヘラな嫁に監視されて心が移ったということ?なら責められない?そんなことあるか!
- 主人公たちを追い掛け回す美雪だが、電車に轢かれてバラバラになる。霊もバラバラになるんだなあ…(まあ肉体は得ていたから…)という驚きと、幽霊も不慮の事態には適わないんだなという味わい深い事実である。いや、幽霊に打ち勝つ人間の叡智というよりも、うっかりさんの幽霊にしか見えない。やや、マヌケである。
- 美雪の霊能力はその母からの遺伝… つまり、息子にも能力が遺伝しているってコト!? 母を蘇らせるために暴走する息子・春翔に突然の落雷が!再度蘇っていた美雪とともに春翔も燃え尽きてしまう。これもまた、「ばちが当たる」的な感覚に近い展開。
- 3ヶ月後。結果として見殺しにした息子を取り戻すべく祈る直人。エロイムエッサイムと唱え続けると、息子が出てきたかも…?という土のモリモリと呻き声で終わり。しかし、それよりもエンドロールの美雪の写真が怖い。教祖をしていた母とその信者たち、幼い美雪が映っているのだが、最後に写真の美雪がニヤリと笑って終わる。「ElfYourself」というアプリを思い出す笑顔だった。
はあはあ、長かった。
全体を通して見ると、
- 美雪のポジションは「貞子」、いやむしろ「伽耶子」に近いものがある(自らの強い念により怨霊化している点、息子を洗脳して自分とともに怨霊化させた点など)
- それと同時に「富江」をも思い出させる(愛に強い執着がある、遺体から再生できる、再生能力が高いなど)
- 美雪のビジュアルは「パラサイト・イブ」を思わせる。というより、裸に近い格好でコンタクトをとってくる人たちをこいつらしか知らない。もちろん「近年の映画」「高い知名度の女優」「エロ目的ではない」などの要素を鑑みて、です。
などなど、美雪の存在自体には新鮮みはなかったですが、それだけいろんなホラー映画のヴィランたちの特徴を併せ持っているのですから、なかなかよくできたキャラクターでしたね。あと、ウイカさんはメイク次第でものすごく変わりますね。最初、知らない人かと思った。
橋本環奈ちゃんも変顔がすごいシーンはありましたが、ひたむきさはすごく感じられた。
重岡さん演じる直人は… よくわからない男でしたね。普通、比呂子と直人で美雪のルーツを探るのがセオリーだと思うんですけども。そうではなく、比呂子の謎解きパートナーは彼女の同僚(演じるのは倉悠貴)。ヒントくれたり話を整理したりしてくれた。
なんとなく、話の構成的に「来る。」の妻夫木くんのように、直人に問題があるのかな?なにか弱みを握られて結婚させられた?(母親が死んだきっかけに直人が関連しているとか…)と思っていたら、そんな裏切りもないですし。無意識に浮気症で、無自覚に悪い男って始末に負えなさそう。なんでこんな罪深い役をふんわりした感じでやらされているんだ。
あと、せっかく霊能力者を出すならもっともっと遊んで欲しかった。「貞子DX」はギャグとホラーのバランスが絶妙な狂った作品になっていましたが、(中田監督は貞子DXに関わってないんだけどね…)霊能力者として池内博之さんを起用していたのが強い。ギャグみもある世界観を、本意気の俳優に演じさせたらそりゃあ強い。
山本太郎がまだ俳優をしていたら、こういう生臭い役をやって欲しかった。似合いそう。
40代の俳優で検索して調べたら、駿河太郎さんとかも似合いそう。あと村田充さんとか。あと、「君と世界が終わる日に」での演技がよかった徳重聡さんもいいなあ。
でも結局、「来る。」の柴田理恵には誰もかなわないんだ。おわり。