ひたすら陰鬱。憎悪と暴力と凌辱がひたすら繰り返される『ニューオーダー』

ニューオーダー

陰鬱な映画といえば「ダンサー・イン・ザ・ダーク」「オールド・ボーイ」を思い出しますが、「ドッグヴィル」なんかもものすごく頭に残っている。

人間扱いされていない人間の姿を描いた映画、というのは本当に胸が締め付けられる。

この映画はこれらのどの陰鬱さをも超えた気もする。悪人たちは本当にひたすら胸糞悪い存在として描かれ、少ない善人たちは悲惨な一途をたどり、本当の悪は静かに増長し、そのままのさばる。

これは現実と同じなのだろうか?いや、人間はもう少しあいまいで、さまざまな性質の間で揺れ動いているようにも思う。そう信じたくもある。

ただし、テロやクーデターが身近な土地で暮らす人たちにとっては、この映画は当たり前の日常を描いているのかもしれない。

2020年の映画『ニューオーダー』。フランス/メキシコ映画。

 

舞台は近未来… といっても、ほぼ現代のメキシコ。市民の暴動により、金持ちたちは追い詰められ、命と財産を奪われる。

元使用人の女性を助けるため、自らの結婚式を抜け出してお金を届けに行った主人公・マリアンは、そのまま使用人の家に取り残される。(使用人たちは金持ちではないので、当然襲撃の対象にはならないため無事。ここだけ見るとマリアンラッキーだね、よかった!と思うのですが、そうはいかないのです…)

そして次の日の朝、助けを求めた軍人たちは… そのままマリアンを誘拐し、同じような罪なき人たちを監禁する。ただ監禁するだけじゃない。男女関係なく人前で凌辱され、動物のように裸にされて現れ、額に番号を書かれて管理される。

それは身代金目的の犯行だったが、マリアンの夫は誘拐犯たちの伝言役を強要された使用人の生き残り親子すら誘拐犯の一味だと思い込み、彼らは逮捕されて処刑される。

マリアンは助け出され、クーデターを企画していた軍人たちは全員銃殺される。しかし、マリアンもまた使用人たちに殺されたていで命を奪われる。

※おそらく軍事クーデターを揉み消すため?使用人たちは誘拐犯としての罪をなすりつけられてしまった。

 

だーれもハッピーにならない、不幸な方向へひたすら加速していくという、悪魔のような映画。

前半はマリアンのきらびやかな結婚式がむちゃくちゃにされるさまをひたすら見せられます。参列者は名だたるセレブなのですが、その式場にガサガサと市民たちが侵入。手引きしたのは現状に不満を抱える使用人たち。

金や腕時計や毛皮や宝飾品やブランド品を盗み、強奪し、妊婦を含め何の罪もない命すら奪う。そればかりか、豪邸の壁や絵画に落書きをして、家具を庭に投げ落として嘲笑う。

市民がセレブを襲うシーンだと、絶対に家具を庭に落としてみんなで騒ぐシーンがあるんですけど、あれってうっぷん晴らしなのだろうか?とにかく蹂躙してやりたいという気持ちの表れなのか?お金持ちの態度が鼻もちならないのもあるのですが(優しい人物として描かれるマリアンですら、ナチュラルな高慢に感じる瞬間がある)、それにしてもこの蛮行にはものすごく気分が悪くなります。

 

この蛮行に加わらなかった使用人の親子(母と息子)は、暴動に巻き込まれることは避けられたものの、マリアンを助けたようとして彼女の身柄をクーデターを企む軍人たちに渡してしまうという痛恨のミス。その結果誘拐犯たちの伝言を伝える役をやらされ、最終的には処刑されてしまうというのも… むごい。のひとこと。

 

後半はさらにひどいので、私は申し訳ないけど倍速で早送りしながら見ました。女性たちが乱暴されるシーンもひどかったですが、男性が2人の男性に性的に乱暴されて泣き叫ぶシーンが一番つらかった。それをマリアンたちも見せられている(全員顔を伏せてはいるが)ということは、もしかして何かのペナルティなのかもしれないけど…

あと、女性の軍人が男性に対して性的に乱暴するに見えたところもあったのですが、私の見間違いなのかしら(女性っぽい長髪の男性かもしれない)。

乱暴シーンって大嫌いなんですけど、「ドッグヴィル」と同じくらい嫌な気持ちになったわ。

 

監督のミシェル・フランコさんの作品を今までちゃんと見たことなかったんですけど、「父の秘密」「母という名の女」面白そうですね。これから見ていこう。

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