傘おじさんだけじゃないよ!感染者たちが怖すぎる台湾ホラー『哭悲/THE SADNESS』

sadness

大学生の頃に戻れるならば、真夏の真夜中、この映画をオールナイトで観に行きたい。

今、10代の人は幸せである。この映画に若くして巡り合えるのだから。

台湾ホラー『哭悲/THE SADNESS』を見ました。直訳すると「悲しみの叫び」なのか、心を振り絞るような叫び、みたいな感じの意味かな。

いい。すごくいい。前評判通り。DVD欲しいけど、欲しくない。

実はこの映画が公開される際、映画館に観に行こうか迷ったんです!でもコロナ怖いもん!自粛だよぉ!!!

でも観に行けばよかったな。なんか、他人の息遣いを感じながら見たいな。友達とか恋人じゃなく、あかの他人の「スッ」って息を呑む声が聴きたいよ。

とにかく、めちゃくちゃに血・臓物・強●シーンが出てくるのであります。いやぁ、ホラー映画でここまで強●シーンをごりごりごりごり出してきたのって初ではないか。非常に不愉快、かつ怖い。

邦画でいうと、『アイアムアヒーロー』のラスト間際のショッピングモールにて、主人公を大量のゾンビが襲うシーン。ものすごいでぶちんゾンビが走ってきて、なかなかショットガンが効かない!ギョエー!!みたいなシーンがありますけど、あそこの絶望感が最初から最後まで続く感じ。あと、同じくらい血まみれ。

お話の軸は、離れ離れになったカップルがパンデミックの最中、再び出会うために奮闘するお話なのです。わりとベタではある。しかし、登場する奴らが次から次へとキチガイすぎる。

キャラクターが濃い感染者が登場するのも魅力のひとつですが、彼らはただ粗暴になって暴れまわっているのではなく、「人を切り刻みたい、ぐちゃぐちゃに●してやりたい」という欲望をコントロールできなくなり、それを楽しんでいるところがポイントでもあるのです。自分を喪失するゾンビとはまったくちがう。

コミュニケーションがとれるけれど、とれない。悪意と暴力に支配されてしまうのですね。

おすすめポイントは特殊メイクのレベルがめちゃくちゃ高いところと、起用している役者さんがすごすぎるところ。下半身すっぱだかのマッチョに追いかけられるのも怖いし、血まみれドロドロの乱●(なお、全モザイク)も怖すぎる。

青年・ジュンジョーと恋人・カイティン。ジュンジョーは自宅から彼女のいる場所を目指してロードムービー風サバイバル、カイティンは地下鉄でのテロを経て病院でのパニックに巻き込まれることに…!

こまかく解説していきます。

ジョンジューは近所の飲食店で感染者を目撃。じいさんだかばあさんだかわからない老女がアタックをかましてきて、唾をかけられただけで客が感染。その客は友達をフォークで刺しまくります。横では件の老女が車に轢かれ(運転手も感染してた)、おばさまが飛び降りして…と半径5メートル内の光景がめちゃくちゃカオス。

途中で緊急サイレンと放送が流れるのですが「男は全員ち●こを切り落として、女性は全員●しまーすギャハハハ」みたいな内容で、これももう、めちゃくちゃ恐怖をかきたてる。隣人の親切なおじさんは庭木用のハサミで襲ってきて、ジョンジューの指を切り落としてそれをパクパク。

ジョンジュー、ほぼ痛がらずにスタスタ外に逃げ(この痛がらないところだけは腑に落ちなかった)バイクで彼女を探しに出ます。

一方その頃、カイティンは地下鉄で知らないおじさんにしつこく話しかけられて塩対応していたのですが、感染者が通り魔を始め、あっという間にあたりが血まみれに。感染者から感染した被害者たちが次々とまた別の人を襲い、カイティンにしつこく話しかけていたおじさんも感染。なんと傘でカイティンの隣に座っていた女性・リーシンの目を刺します。

襲ったり食べたり●したり(なぜか『食べて祈って恋をして』という映画タイトルを思い出した)とまさに地獄絵図が展開されるのですが、ようやく電車が駅について逃げるリーシンとカイティン。

それでもおっかけてくるおじさん。

どうでもいいけど西村まさ彦さんにちょっと似ているおじさん。

地下鉄の出口でシャッターを下ろして分断に成功するのですが、おじさんは隙間からベロをペロペロ出して「また会おうな」とニヤリ。私、むかし下北沢駅で同じようなことされたことあるな。ベロじゃなくて下半身のブツでしたけど…

話はジュンジョーのほうに戻ります。バイクで移動中、感染した高校生たちが男をいじめまくっているのを目撃。バットで殴るだけではなく、なんと有刺鉄線を巻き付けた柱に股間をぶつけさせて潰しにかかるというねちねちした暴力を続けています。止めるジュンジョーですが、被害者も既に感染しており「俺はいまイキそうだったんだ」とプリプリ。

怖いけどちょっと平和で笑ってしまった。中学生の反撃も石投げてくるくらいですんだし。

ここぐらいだよ、アホらしいの。

カイティンは地下鉄そばの病院にリーシンを連れていくことに。リーシンはカイティンに「この恩は忘れない」と言います。これはフラグ?と思ったのですが…

先に言ってしまうと、フラグじゃないですね。「この恩は忘れないけどあなたのことを殴りたくてたまらないの」と言い出すのか!?それとも「この恩は忘れない!さぁ私が盾になるわ!」という展開!??と思ったけど、両方ともなかったです。

要人の緊急放送でも感染者が出現し(よくある展開)、患者はパニックに(この時点では、病院内には感染者はいない)。

しかも病院の入り口にヌッ…と立つストーカーおじさんに悲鳴を上げるカイティン。おじさんどうやって外に出てきたんだ。

ここで電話が通じてカイティンの居場所が彼氏に伝わったものの、ジュンジョーもなんだか様子がおかしい…???

ストーカーおじさんはリーシンの眼窩で自分のナニをナニしてご満悦(最低シーンではあるが、既視感があるワタシもどうかと思う。同じようなシーンを別のホラーで見たことあるから、ここはちょっともったいない気もした)。そのせいで彼女は感染し、人をモグモグ食べ始め、彼氏ができないストレスを狂ったように叫びまわります。

カイティンは追いかけてきたストーカーおじさんを消火器で撲殺。「クロックタワーゴーストヘッド」を思い出した(※銃以外の最強武器がモップと消火器なのです)。

でもここで「お前も私と同じ 狂暴で変態なんだ…!」という胸熱の迷言を残して事切れるおじさん。えっ、もう退場しちゃうの?

と思ったら、ここからは病院の一室に閉じこもっていたウイルス研究者がカイティンを助けてくれます。カイティンが感染者と接触したのに感染していないのは抗体があるからだ!という結論に至った研究者、彼女とともにヘリで脱出する手筈を整えます。

しかし、病院で生まれた新生児を実験台にしていた挙句、彼らをゴミ箱に捨てていたことが発覚。

まさに「狂っているのはどっちだ?」。

ヘリに乗るために部屋を出た研究者は、感染者と出会って2秒で感染。異常に弱いぞこいつ。武器とか用意してないのか…??

感染しつつもヘリポートに行こうとする研究者ですが、立ちふさがったのがジュンジョー。しかも、やっぱり感染している!!(隣人に指を食われた時点で感染した?)

ジュンジョーを撃とうとする研究者を止めるカイティン、ごりごり暴力を使ってくるジュンジョー、3Dプリンターで作った銃が暴発しちゃうドジっこ研究者の対決は、もちろん研究者の負け。

カイティンはヘリポートに行くか、彼氏のもとに残るか選択を迫られます。しかし、ジュンジョーのなかにあるのは彼女への愛情ではなく、明確な「嬲り殺したい」という意志のみ。

絶望したカイティンはひとりヘリポートへ向かいますが、無慈悲にも銃の音が響きます。その音を背中で聞きながら、ジュンジョーはほほ笑むのでありました…

人として生きることを選びながらも殺された彼女。

人として生きることを捨てて、獣のような何かとして生きる彼氏。

ちょっと『ゾンビ』とか『死霊のえじき』に通じるものがありますよね(ゾンビになって自分を牛なって生きるよりも、困難であっても人として生きることを選ぶという選択肢があるあたり)。

ただ、彼女撃たれてるけど。どうして撃たれたのかはわからない。そもそも、研究者が「俺を迎えにきたヘリ」って言ってるのも本当かわからないし… その点で、この映画は“これ以上ないバッドエンド”なんですね。

ビール飲みながら夏にもう一度見ようかな。いや、やっぱり見たくないな。