おじいちゃんやおばあちゃんになっても、性に貪欲でいたい。
…そんなものなのでしょうか?えっ、ホントによくわからない。ピンとこない。しぼむように枯れるものでもないのだろうか。
2022年に公開された『X エックス』を見ました。アメリカ映画。某バンドのドキュメンタリーみたいなタイトルだな(そのまんまだけど)。
監督はタイ・ウェスト。『インキーパーズ』はさほど印象強くはないのですが、『サクラメント 死の楽園』の容赦なさぶりはすき。ただ、カルト×田舎×集団洗脳状態では上位互換の『ミッドサマー』がきちゃったから、こちらも印象が薄くなったような…
ただし!この映画はスゴイ!!!おすすめ!!!
テーマはまさに「セックス」。田舎にポルノ映画を撮影にきた性に奔放な若者たちと、朽ち果てかけているような老夫婦。しかし老夫婦の妻・パールは年老いてもなおバリバリに性欲が強く、心臓の弱い夫・ハワードはそれに応えるので精一杯。セックスをただただひたすらに“消費”する若者たちの眩しさと愚かさに老夫婦は耐えられず、大虐殺が始まる… という感じの話。
ただ、老夫婦は根っからのソシオパスっぽくもあり、「セックスするから殺す」というわけでもないようですね。老人以外全員嫌い、みたいな感じかな。
キャラクターもよいのよ。
特別な「エックス・ファクター」(=特別な何か、みたいな意味。嚙み砕くと、人をひきつけスターになれる要素みたいな感じ。アパレルブランドのエックスガールってこの意味からきてるのか!と今更気付く)を持つ、陰のあるポルノ女優・マキシーン。
スポンサーで、離婚してまでマキシーンに入れ込むおじさん・ウェイン。
無職(元軍人)でセックスしか取り柄がない男優・ジャクソン。
いわゆる「ブロンド美女」(美人だが頭カラッポみたいなキャラ)のポルノ女優・ボビー=リン。
野心溢れる若い監督・RJ。
そしてRJの彼女で録音係のお堅いロレイン。
当初、マキシーンとロレインのどちらが主役なのかな?(いわゆる、殺人鬼に狙われる“バージン”キャラはロレイン)と迷ったのですが、その理由は、前半はポルノ映画の撮影のシーンが続くためです。
それと対比するように、農場で死んだようにひっそり暮らしながら交尾をし続ける老夫婦の様子も描かれるのですが… この夫婦、なんだかオカシイ…!? というのがジワジワ迫ってくる。
そうなるとシャマラン監督の『ヴィジット』が脳裏をよぎるのですが、この映画も負けちゃいない。
きっかけは、ポルノに感動したロレインが「私も出たい!」と言い出すところ。RJは監督としてはポルノを誇りに思っていても、彼女には出てほしくないとゴネます。ここらへん、ホント手のひらクルリなのがすごいリアル。
しかし、そうこうしているうちに彼女はすっかり出演の準備を済ませ、他のキャストやスタッフもノリノリ。彼はヤリ●ンのジャクソンとロレインの絡みを撮影し、シャワー室でボロボロと泣く…という、若者らしいシーンが続きます。
そのせいでRJは農場を出ていこうとするのですが… 突然現れた老婆・パールが彼を誘惑(!?)。それを拒否すれば、パールはRJを刺殺してしまうのです。
その後も
- ウェインは釘付きの板を踏んだ後、穴から外を覗いていたらそのまま穴から目を串刺しにされる
- ロレインは監禁され、逃げようとするもドアから出した手をボコボコにされる
- ジャクソンはハワードに銃殺される
- ボビー=リンは沼に突き落とされてワニに食われる
殺人続きで燃え上がった老夫婦はまた合体(なお、この前にも合体していた)。ベッドでギシギシするのですが、その下にいたのが恐怖に怯えるマキシーン。彼女は老婆に気に入られており、寝ているところを撫でまわされ、異常性に気付き、隠れていたのです。
助けを求めるロレインのところに行くマキシーンですが、地下室から出たロレインが突然クソムーブをかましだし、絶叫・大暴れ・周囲を確認しないで飛び出すの三拍子をやらかしてそのまま射殺。
マキシーンにはまだ気付いていない老夫婦でしたが、ハワードが心臓発作で倒れ(※原因はヤリすぎ)、パールはマキシーンをショットガンで撃とうとして反動でブットビ、腰を壊します。ショットガンの反動をちゃんと描いている映画ってあんまりないので、ちょっと新鮮でした。銃に詳しい人ってこういうのメチャクチャうるさくないですか。
マキシーンは自分に毒づくババアの頭をしっかり車で轢いてから逃げていくのですが、これはハッピーエンドなのだろうか…??
ラストシーンではマキシーンが敬虔なキリスト教の家庭で育ち、そこを飛び出したことも明かされる(こことそこがリンクするのか、みたいな感じがあります)のですが、ラストの警官の一言も気が利いていていいですね。
映画撮影のカメラを見つけて「ってことは、クソみたいなホラー映画を撮ってたんだろうな」というこの発言。いやぁ、メタですね。いいメタですね。
あと、曲が全部カッコイイですね。音楽がすごくいいので、そのセンスにも痺れました。音楽に詳しくない私が言うくらいだから、ホントすごいと思う。
それにしても、おじいちゃんとおばあちゃんの性行為をモザイクありで(さすがに薄暗いが音が生生しい)見せるという悪趣味ぶりにひっくり返りそうになりますが、こういうの、たまらなく好き。
結局のところ、若さや美しさへの執着が歪んで性依存症になってしまったとかいろいろ理由はつけられるんですけども。老夫婦の寝室に土足で入り込んでしまったものすごい気まずさのようなものをさらりと描いてオチまでつけている点で、映画を見ている側は降参するしかないのかもしれません。