全力でカルト教団に怯える家族に楳図かずおテイストを感じる『悪魔の奴隷』

悪魔の奴隷

妊娠・出産をモチーフにしたホラー映画は多いですが、これからは「不妊」をテーマにしたホラー映画も出てきそうな気がする。そんな予感が強まる。

インドネシア映画『悪魔の奴隷』。2017年。

私はあまりよく把握していないのですが、インドネシアのカルトホラーをリメイクした映画らしい。ホント?amazonを見たら「完全復活」と書いてあったんだけど。

そのカルト作、『夜霧のジョギジョギモンスター』なんて、タイトルが良すぎないか。怖そう・面白そう・アホそう。この感覚、失いたくないですね。

とはいえ、この映画は怖い。展開や演出よりも、設定がメチャ怖い。

主人公・リニの母親は寝たきり。弟も3人おり、生活は困窮していて貧しいのですが、母が亡くなり、その後奇妙な現象が起きるようになり…

というのも、実はリニの母親は子供を授かるために悪魔を崇拝する教団に入信しており、その契約から悪魔に子供を捧げなければいけないらしい。末の子供が7歳になった時に… そのため、お母さんは子供が6歳になるたびに出産してたようなのですが(そんな自在に産めるもんでもないと思うが)、さすがにもう産めない… ということで、カルト教団が家族に迫り、さらに母の幽霊もグイグイ迫ってきます。

子供を授かるために悪魔を崇拝するという凄まじい設定(ホラーの設定としては耳にしたことあるけど)。

しかもお母さん、元芸能人なんですね。でも今は見る影もなし。悪魔に脅かされ続けたせいか。でも4人も産んだら健康を維持するの大変だよ。奥さん頑張ったよ!と明後日の方向にエールを送ってしまう。

一家に親切にしてくれていた(リニに下心があった)青年もバイク事故を起こされてゴロンゴロンして亡くなってしまうし… この男性も雑なハンサムというか、ホラー映画における当て馬感がすごいの。絶対ヒロインを守るとか守らないとか、そういうレベルの前で脱落するだろうなという感じの役どころ。いい人なんだけどね。

結局、呪いから逃げるために家から引っ越しを決意した一家ですが、衝撃の事実!かわいい末っ子は悪魔に捧げられる存在なのではなく、悪魔の器となる存在だったわけで…! そう、小さい男の子が家族を襲い始めます。ついでにカルトの信徒も襲ってきて、アクティブなゾンビのようにガンガンと家に攻め入ってきます。

新鮮なのが、通常の映画だと襲ってくる人に怯えながら逃げる家族、という演技になるじゃないですか。『シャイニング』みたいにフルフルしながらひたすら逃げる、みたいな感じ。

この映画は家族全員で「わああああっ!」「ぎゃああああああっ!」と体と顔と声すべてを使って演技をするので、ちょっと楳図かずお先生のテイストを感じましたね。素晴らしい。やっぱり、全力を感じられるとこちら側も全力でリスペクトできますよ。

最後、一家は命からがらおしゃれマンションに引っ越すんですが、おかずを分けに来てくれた近所の美人奥さんがしつこいカルトの手先であり、家に戻って旦那に「うまくいったわシメシメ」というようなことを言いながらダンスを踊り狂うという凄まじいエンディング。

そういや、末っ子のかわいい弟は置き去りにしたんだろうか。

いや~好きですよ。80年代ってこういう終わり方する映画あったなぁ。ちょっとレトロな感じなのがいいのよね。同じアジア系だから懐かしさを感じるような雰囲気もあるんだけど、昔の藤岡弘。のようなバタ臭いルックスの役者が熱い演技を繰り広げているさまはなかなかに中毒性があります。

お母さんの幽霊は怖くありませんが、インドネシアの田舎は水道じゃなくて家の中に井戸があるらしく、そこに落っこちたり死にかけたりするシーンは普通に怖かった。『リング』の井戸みたいなシーンでした。