最初から最後まで狂ってる!殺しでバズる配信者の狂気ホラー『スプリー』

SNS配信者を主人公にしたホラー映画が増えてきたことにはただ「時代だなぁ」と感じるわけですが、この映画はよくある“バズりにとりつかれたアホ”を通り越し、承認欲求をこじらせすぎて狂ってしまった青年の空虚さ、みたいなものを描いていてなんだか好きだ。

久しぶりに『バトルロワイヤル』の漫画版を読む機会があったのですが、映画のことも思い出しちゃった。あの時の安藤政信はすごかった。めちゃくちゃ虚ろだった。

(高岡蒼佑と山本太郎もよかったんだけど、俳優やめたからね…)

ぼんやりしている様子で振り返るだけでも、背筋が凍るような気持ちになる。そんな演技を見せてくれた主演のジョー・キーリーには脱帽です。ハンサムなのが余計に怖い。

DVDジャケットからもっとアホアホしくて騒がしいかだけの映画かと思ったら、最初から最後までサイコパス。狂ってる。振り切れてる。

そもそも、この映画はPOV映画なんですね。スマホに搭載されたインカメラ、車載カメラに加え、監視カメラの映像なども織り交ぜて、基本的には全編POV。

PCのインカメラ画面をメインにしたホラー映画は多いですし、ものすごく新しい手法ではないものの、映画として見せたいものの構成の仕方が見事というか、編集がうまいのかな?すごく見やすかったし、引き込まれた。あんまり安っぽくないのはなぜだろう。

そもそも、脚本もユニークだし裏切りの展開もお見事。

「バズらなくて悩む」「親との関係で心を痛めている」ことを説明するシーンなんてないんですね。ただ、なんとなく冒頭の動画のシーンで「コイツ面白くないんだろうな」とか、「父親嫌いなんだろうな」というのは伝わる。そのサラッと感がすごい。ものすごい流されるけど、これくらいでじゅうぶん伝わる。

そしてストーリーの大半は、「SNSでバズるために人殺しをすることに注力する1日」を描いています。しかも、それがいきなり始まる。そのスタートがねじこまれた時点で、見ているこちらの脳みそはギャーと悲鳴をあげるしかない。隣に偶然座った人が頭おかしい人だったみたいな緊張感がありますね。

主人公のカートはスプリーという、一般人がタクシーや相乗りのようなことをしてチップを稼ぐアプリの運転手の仕事をしています。で、そこで出会った人をバンバン殺しまくる。

ちょっといけすかない(けど普通の)男性講師、チャラいナンパ男、バズりたいハデハデの男女。コラボを断られた中堅配信者。もう、容赦ないです。

そしてスプリーで知り合った女性コメディアン・ジェシーを追い掛け回すカート。彼女の言葉に感銘を受けるも、改心するどころかコラボを熱望するあまり拉致し(この時にタクシー運転手を殺して車を乗っ取り、そのままなりすましもしていた)、なんと自宅まで連れていきます。

しかしジェシーが抵抗して車ごと彼の家に突っ込み(この展開には驚いた。こういう演出みたの『グレムリン』以来)、家に戻ってきた父親と遭遇。びびりまくる父親。おまけに、突然母親の遺体も出てきます。

ここで衝撃的なのが、カートが自分の母親を殺していたという展開。実は冒頭に母親が少しだけ出てきているのですが、その直後に彼女を殺めていた… という事実が出てきます。

カートは追い詰められてじわじわ狂ったんじゃなく、ストーリーが始まる前から壊れていた。こ、こわいよー。

カートは父親を射殺。ジェシーとカートの死闘の末、勝利したジェシーは死にかけの彼の頭を持ち上げてツーショットを撮影(視聴者に煽られた)。

ここからがまた怖いんですけど、カートは死亡するも、ジェシーはこの騒動を経て有名になりセレブの仲間入り。

そしてカートは一部のネットユーザーたちの間でカリスマ的な存在になってしまうのです。カリスマというよりも、超優秀なネットのおもちゃともいえるかもしれない。ファンたちは彼の過去動画を漁り、ネット掲示板は過熱し、貪るようにカートに魅了されていきます。

あっ、これニコニコ動画とTwitterで見たことある流れ…

現実でもありますよね、狂いすぎててネットのおもちゃになる配信者の方々…

この映画のテーマは「狂っているのはカートだったのか、それともその殺人を止めないで煽ったユーザーのほうなのか?」というところに尽きるとは思うんですけども。

シンプルにいえば「両方悪いぞ」なんですけどね。

なお、『スクリーム』の弱虫保安官でお馴染み、デヴィット・アークエットがカートのパパとして出演しているのも見どころかも。マジでしょうもない、若作りのおっさん(若い子からウザがられているところもまた…)を素晴らしく演じていた。後で気付いてびっくりしました。