焦燥感と幼い娘への苛立ちが、悪霊に怯える孤独を際立たせていく『アンダー・ザ・シャドウ』

アンダー・ザ・シャドウ

2016年のイギリス/ヨルダン/カタール/イラン映画『アンダー・ザ・シャドウ』を見ました。

イラン・イラク戦争の頃が舞台となり、ある母と娘が戦争の渦に巻き込まれていきながらも、同時に邪悪な神に狙われるというトンデモナイ話。

主人公のシデーは政治活動にうつつを抜かして医学部を休学し、復学を拒否されて落ち込んでいる真っ最中。夫は招集され、夫の実家は仲が悪くて頼れない。娘は不安定で、親子喧嘩の回数が増していく。

近所の人たちは突然亡くなったり、逃げていったり… マンションに残り続けるシデーと娘だが、とうとう邪悪な神・ジンが娘に魔の手を伸ばす…!

という内容。

当時の様子がわかるのがまず興味深い(イラン・イラク戦争のこともそうだし、当時の女性の立場であったり、弾圧されている市民たちの姿だったり… 当時は洋楽のビデオテープも押収の対象になったんですね。ビックリ)し、自分のおかれている状況に息苦しさと苛立ちを感じているシデーの不安定さや歪みが、この映画の感触をよりざらつかせているという印象を受けました。心がざわざわする。

夫は自分のやりたい仕事をしているのに、なぜ自分はそうなれないのか。

自分には「母」として生きていくことしかできないのか。

強烈な焦燥感が募ります。

一方で、不安定な娘のドルサは見えない何かと話をしたり、姿を消したおままごとの人形に固執したりと、母の不安を掻き立てていきます。

この子役がとにかくすごい。おままごとを中断した母をずっと夜中まで待ち続けて「お茶会がまだ終わってないでしょうがぁ!」とガンギマリの表情でわめいたり、人形が母の部屋の引き出しから出てきたら母をめちゃくちゃ責め立てたりと、たまに悪魔に見えるようなギャンギャン大暴れで親を苦しめます。

最後、アパートに残っていた母娘はジンとミサイルから逃げようとしますが、かどわかされたり、また喧嘩になったり、それでも母は娘を救うために身を挺したり(娘が布に飲み込まれそうになり、その布に潜り込んで助けるというわりと謎の演出)とハラハラする展開が続き、最後はなんとか脱出。

アパートから逃げなければ死んでいただろうことが、ラストシーンで描かれています。

ちなみに、この後に韓国の『模倣霊』という映画も見たのですが、ちょっと似ていて驚いた。

「声を真似してかどわかしに来る悪霊」って万国共通なんですね。「ジン」は前にもホラー映画で見たことがあるが。

意外とお気に入りだけど、ドルサちゃんの破壊力はなかなか強めです。落ち着いている時に見たいですね。