久しぶりに人を食ったような話。辺鄙な村で起きるホラー…なのか?『黄龍の村』

黄龍の村

映画を見て「あー、騙された」と思うことなんてそうそうない。『シックス・センス』くらいじゃないか。明確に「クソッ、騙された」と悔しがることができたのは。

「あー、こっちが犯人だったのね」とか「えっ、ヒロインが監禁されていた場所はこんなところだったの!?」とか「お前いきてたんかーい!」とか、そういう悔しがらされ方は散々してきたものの… ただ、わたし、騙されましたね。

2021年『黄龍の村』を見た。

ホラー映画という触れ込みではある。実際に、ホラー描写はある。でも、違う。私たちは何も知らずにこの映画を見て、ポカンとするしかない。

こんなに人を食ったような内容の映画は久しぶりであります。

物語は、キャンプに行き車がパンクして立ち往生した若者たちが、おかしな村人のおかしなルールに翻弄されるというもの。ではあるが、物語は後半に差し掛かると、まったく別の顔を見せ始める。

主人公を演じるのはキラメイジャーブルーを演じた水石亜飛夢。しかし、この人はどういうルートで役者になったんだか知らない(テニスの王子様のミュージカル出身ということは知っている)が、非常に精力的に映画やドラマに出ていて好ましい。しかも、演じている役がどれもこれもムチャクチャに狂っているか病んでいる。

この主人公・優希と悪友・孝則、恋人のなごみ、そして孝則の恋人のうらら。この4人が主要人物だ。彼らはいわゆる陽キャであり、昔のネットスラングで言えばDQN。下品でだらしなくて、悪人ではないもののその生き方は不愉快そのもの。現在の炎上系ユーチューバーを思わせる印象だ。

彼らはキャンプに行き、酒に酔い、キスを交わして大騒ぎする。

それ以外の友人もいる。だが、なぜついてきたのかよくわからない。学生時代の交友関係ならそんなものなのか?友人らしさが希薄なのだ。

人嫌いで無口な梶原。人を殺したことがあると嘯く(?)啓作。優希に攻撃的な真琴(この子だけ女性)。なぜかフリルのついたシャツを着ているおちゃらけ系のキャラ、谷村。彼らはとぼとぼと4人の後をついていく。

そんな彼らは車がパンクして、ある村に辿り着く。その村で手厚くもてなされるものの、不気味さが増していき、無理やり泊まらされた翌日に逃げ出そうとする若者たち。しかし、突然銃を持った村人たちが乱入してくる。

孝則は殺され、その肉が振舞われることに。隙をついて逃げるうらら、なごみ、優希。しかしうららは射殺され、なごみは誤射で自分を撃ち死亡。その後、喉が渇いてお供えものを貪る優希だが、村の女性陣に殺されて息絶える。

しかし。まだ映画の中盤。えっ、主人公死んだし。どうすんの?っていうか、どうなんのコレ???

と困惑しているところに、突然殺されたはずの谷村や梶原、啓作が起き上がり、村人を次々と殺し始めるのだ。

実は梶原は身内をこの村のしきたりで殺されていて、その復讐に燃え、谷村、真琴、啓作にその復讐を手伝わせていたのだ。本当の主人公は梶原だった。気が付けば、そのカットも妙に凛々しい。なぜか上半身裸になるサービスショット(としかいいようのないタイミングで脱ぐのはなんなんだよ!)もある。

ここからはひたすら復讐劇である。時にはピンチにも陥るが、ひたすらアクションシーンが続き、村が飼いならしていた神様的な存在のデカ男・十兵衛にも打ち勝ち、彼らは完全勝利を収める。

ラストでは都会の繁華街で打ち上げを楽しむ彼らの姿と、その後梶原になついてしまった十兵衛のコミカルな姿も描かれている。

わあ、どうしよう… なんじゃこら…

この映画で何より怖いのが、殺した人の肉を皆で食していることではなく、優希たちの扱いだ。映画を見ている側は「浮ついた若者たちが化け物のような村人たちに惨殺されるんだろうな」と思いながら見ている。しかし、その死は想像以上にあまりにもあっけない(ホラーらしいのは孝則くらい)。

そして、その死は誰にも惜しまれない。梶原たちも彼らについてほとんど言及することはない。完全に捨て駒だったんだろうなと思う。村に潜り込むために利用されて殺された4人。いなかったもののようにされる4人。この人たちの死は復讐の対象にはならないんですかね。

察するに、監督はアクションの要素もたくさん入れたかったんだろうと思う(『ファミリー☆ウォーズ』でも戦闘シーンがめちゃ長かった)。ホラーだけでなく、コメディの要素も多いが、やはりアクションシーンがものすごく多い。ホラー映画で見られる量・クオリティじゃない。

村人を一網打尽にしようとして少しずつ欠けていく、という話になるのかと思ったが、復讐に燃えるメンバーは全員無事。「正義は勝つ!」「ファイト一発!」とどこからか聞こえてきそうな爽やかな展開だ。

そういえば、『ファミリー☆ウォーズ』に出演していた俳優さん・女優さんたちが多く出演していたのは微笑ましい(じいさんはいなかったけど)。並行世界を見ているような奇妙さがある。

気になるのは、この映画を見に行ったファンの反応である。キラメイジャーファンで見に行った人とかいるのかしら?中盤で殺されてポカーンだろう。推しメンの死が浪費されるのって、どんな気持ちなんですかね。

しかも、彼はその直前にお供え物のお菓子とドリンクを貪って、ゲエゲエ吐き戻しているところを殺害されている。こんなに汚い吐しゃを映画内で見せつける意味も特段ないんだろうけど、パンチはすごい。こんなに汚いゲー、大人計画の『愛の罰』以来だぜ(主人公は女優であり、晴れ舞台でゲロをべしゃべしゃに浴びてしまって引退するという、こちらも負けず劣らずの怪作。しかもゾンビモノ)。

そう、気になっているのがもうひとつ。この映画、メシがぜんっぶまずそう。焼けている肉も、煮えている鍋も、人肉料理も、全部まずそう。ラストで出てきた巨大ソフト(あれば中野の某お店の巨大ソフトなんだろうか??)も、まじまじ見させられるとなんだかスゲー色。いろんな味のミックスだからなんだけど、抹茶とチョコとバニラと… 無作為に重なっているアイスクリームの層がぜんぜん食欲をそそらない。 まぁ、ダイエットにはいいですね…

一方で、打ち上げで出てきた鍋はおそらくお店のものを映しているからでしょうが、まだ見栄えがよかったです。

個人的には谷村役の俳優さんがいつもフリルつきのシャツ(リボンっぽいボウタイのシャツ。女性が着ている印象が強いデザイン)を着ているのが妙に面白かった。

見終わってから気が付いたのですが、女優のなかに「中国拳法の使い手」というキャラを与えられている人がいて、見ている途中では「ちゅうごくけんぽう…???」と思っていたんです。今、なかなか聞かなくないっスか。

で、『黄龍の村』というタイトルはブルース・リーからとっているのでは?と思う。黄色のジャンプスーツを着たブルース・リーが出演する『燃えよドラゴン』をモチーフにしているのだろうか?

PG12にしているのは、戦隊モノファンの小学生が劇場に見に来てトラウマにならないようにですかね。

まぁなんでもいいや!おもしろかったよ、私は。