狂気のモンスターとカルト教団がじわじわ追い詰めてくる傑出カナダホラー『ザ・ヴォイド 変異世界』

ザヴォイド

2016年のカナダ映画『ザ・ヴォイド 変異世界』。ちょっとしたモンスターホラー映画と思いきや、ポテンシャルで言うと『ミッド・サマー』並みだと思う。

『トータル・リコール』や『パシフィック・リム』のVFXスタッフが関係しているようですが(VFXの詳細な意味がわからないけど…)、モンスターの造形はすばらしい。ただ、よくわからないけど、常に画面が薄暗いorカメラにおさまっていないので、ばけもんの全貌が見えないのよね。すごくできがよさそうだけど、細切れにしか見えていない。

化け物に襲われるだけのお話かと思いきや、異世界の扉は開くわ、カルト教団は出てくるわ、その教祖は皮膚がズルむけて筋肉むき出しになるわ、不条理な狂気とそれに振り回される人たちの恐怖がきっちりと描かれています。前半、低予算っぽい雰囲気でなめてかかると、後半のトンデモトリップ感にやられる。なんだろう、秘宝館のようなギラギラ攻撃的な俗っぽさ、ねっとりとした闇の粘っこさ、湿度の濃い空気を感じる。起きた時に喉がカラカラになっているタイプの悪夢。

登場人物は以下の通りなんですけど。

主人公は警察官のカーター。子供を死産したカーターの嫁で医者のアリソン。その同僚のパウエル先生と、インターンのキム。患者で妊婦のマギーとそのおじいちゃんのベン。謎の追手の親子(父と息子)と、追われているこれまた謎の男。

このなかから2人が生き残ります!と言われて、あなたは誰だかわかりますか?当てられる?スゲー難しいよ。

息子を亡くして以来落ち込むカーターは、傷だらけで倒れていた謎の男を連れて病院へ。しかし、病院では突然医師が自分の顔の皮膚を剥いて人を殺すという謎の事件が起きる。カーターが運んだ男は連続殺人犯らしく、それがこの奇怪な出来事に関係しているのか。

人々の体の中から出てきて襲い掛かる、謎の肉塊モンスター。病院を取り囲む白装束の人々。突然現れた謎の粗野な親子。逃げ場はない。

パウエル医師は殺され、連続殺人犯の事件を調べに来ていた老刑事も死亡。

産気づいたマギーを救うため、アリソンは手術を決意。親子は病院内を調べ、この現象の黒幕は先ほど殺されたパウエルだと突き止める。

彼らは同じような化け物たちに家族を襲われて、その場にいた男(連続殺人事件の容疑者で、カーターが助けた人)を追ってきたのだ。男を痛めつけたのも彼らだった。

実は男はジャンキーであり、そのたまり場に現れ、儀式と称して生贄の人間を殺したのがカルト教団と教祖のパウエルだったのだという。(このあたり、よく考えればガバガバなんだけど妙に怖い)

カーターと親子は拉致されたアリソンを探して地下に向かう。しかし、アリソンは既にパウエルによって体内に化け物を宿されていた。

そして、その地下にはカーターの実験材料の人間たち(化け物に変化)がウヨウヨ…

パウエルくんは実験材料の男たちをボイラー室で飼っていたらしいです。ムチャクチャですね。一度化け物たちが火災も起こしたらしいですけど、どうやって火事の跡から回収したんでしょうね。

そしてなぜか突然始まった精神攻撃(トラウマを見せてくる)に耐える親子。

マギーはとうとう不正出血するが、なぜかベンを殺してしまう。なんと、彼女が宿していたのはパウエルの子供だったのだ。病院内に現れた信者とともに、マギーは消えてしまう。キムは隠れて息を潜める。

カーターが手術室に着いた頃には、アリソンは既に化け物の母にさせられていた。嫁の息の根を止めるカーター。

なぜか自分も全身の皮膚をムキムキして進撃の巨人のようなルックスになった素っ裸パウエルくんは、儀式を始める。マギーの体に娘を降ろし、産ませたのだ(実はパウエルも娘を失っており、彼女を取り戻すためにカルトに傾倒したと思われる)。生まれた瞬間、ウロウロドスドスする娘。

儀式は成功し、異世界とも扉がつながる。マギーや教団の部下は全員命を捧げ、カーターも「異世界に連れて行こうか、嫁が会えるぞ」とパウエルに言葉巧みに誘われる(この時、肩に刺さったオノがバインバイン揺れていてちょっとおかしい)。

しかし、異世界にパウエルを連れてダイブするカーター。そのまま異世界の扉が閉まってしまう。

化け物(パウエルの娘)を息子から守った父。一緒に炎上して死んでしまう。生存した息子は同じく生存したキムと合流する。

一方、異世界で嫁と再会したカーターは、荒れ果てた地で呆然としていた…

という、ものすごい話。このストーリーにほぼ関連していない、つまりは罪がない若者2人が生存したのは理にかなっているのか。

儀式の様子がわりとシンプル(黒い部屋に白装束の教団の男たち、三角に区切られただけの異世界への扉)だけど、ものすごくそれらしく見えていたのはすごかった。

異世界も、ただなーんにもない土地なんですが、目の前に三角の山?そそりたつ雲?=手の届かないところにある扉=おそらく帰れない、という意図がすぐに伝わりました。世界観はなんとなく『ヘル・レイザー』思い出したな。

どうでもいいけどパウエルはどこいったんだ。筋肉むきだしだから受け身とるにも痛そうだけど。娘は戻ってくるはずだから、仲良く暮らすんですかね。

あと、パウエルの娘が水牛とカバとゴリラを足して2歳児にこねさせたみたいな、すごい造形のモンスターでした。こんな姿の娘じゃないだろ!儀式、成功してないだろ!どんな娘だよ!というツッコミを入れるのはヤボなのか。