殺人鬼の狂気の12年は、混じりけなしの純粋な狂気のみ『ハウス・ジャック・ビルド』

2018年のデンマーク・フランス・スウェーデン映画『ハウス・ジャック・ビルド』を見ました。

主演はマット・ディロン。ちょい役でユマ・サーマンとかも出てきますが、ひたすら殺人に狂う狂気の男の12年を描いた超問題作。152分もあるのですが、もう、ただただ狂気を見せつけられます。

監督はラース・フォン・トリアー監督なのですが、『アンチクライスト』『ニンフォマニアック』が有名だけどあまりに重すぎて私は未見。しかし、よく調べたら『ドッグウィル』を見ていました。あー思い出しただけで吐きそう(※いい映画ですよ)。

ひたすら鬱々としたストーリーが展開するのが魅力といえば魅力。建築家を目指すジャックは高慢な女性にひたすら暴言を吐かれたことをきっかけに彼女を撲殺。それ以来、殺人に取りつかれていくのです。

ターゲットは主に女性なのですが、わりと衝動的なので突然知らない女性を車で轢いたりするのは日常茶飯事。見ている側が「えっなんで?」と聞きたくなるくらい、急に殺意を見せます。

ガールフレンドには自分が殺人鬼であることをあえて打ち明けたりして、結局バストを切り取って小銭入れにして使うというトンデモネー展開もあります(しかも普段使いしてる…)。

また、ボーイスカウトの指導員なのか、キャンプの現地スタッフなのかもよくわからないですが、ピクニックに来ていた親子3人に命令しまくった挙句射殺したりと、とにかく鮮烈すぎて気持ちが悪くなる。子供の遺体は映画でも嫌ですね。本当に。

しかし、男たちを何人も並べて「どこまで銃の弾が貫通するか調べる」という実験をしようとしてトラブルが発生し(弾を間違って購入)、そのせいで知り合いをも殺し、死体置き場にしていた冷凍庫を警察に取り囲まれるジャック。

彼はそこで謎の老人に導かれ、自分の半生を振り返ります。彼は建築家になりたかった。家を建てたかった。しかし、実は頓挫していた。だから、遺体を使って家を作った。

???

と言いたくなりますが、本当に遺体のパーツを使って家の骨組みらしきものを完成させるジャック(この家のビジュアルは必見)。そして老人とともに穴に逃げ込み、地獄へ向かいます。このあたりからファンタジー。しかし、途中で欲張って別のフロアに行こうとして地獄の業火に落ちて物語も終わります。

もともと劇場公開される前にチラシを入手していて、カッコイイビジュアルだな~とのんきなことを思っていたのですが、そういう問題じゃなかったですね。非常にむごたらしい。殺される瞬間のシーンよりも、冷凍庫のなかに無造作に死体がぼとぼとおっこっているシーンのほうが震えるほど怖いし、泣きたくなるくらい胸をかきむしるのはなぜなのだろう。

マット・ディロンもハンサムな俳優ですけど、もう、その「美」はそこにない感じ。顔の造りがもう、気味が悪い。口元の動きがゴムみたいで、見ていたくない。ジャックはサイコパスであり、顔の動かし方を雑誌の切り抜きを見て学んでいるという描写があるのですが、その再現がすごくうますぎてヤダ。

もちろん、それだけものすごい情熱をもってこの映画に臨まれたのではないかと思う。こんな映画、気軽に演じようとしたら潰れてしまいますよ。

殺人の衝動にばかりかまけ、夢を成し遂げられなかった男っていうのがまた刺さります。自分にも思うところがあるから(企画中のコラムを早く出したい…)。

「殺される」ことに憧れている人って(ポーズかもしれないけど)たまにネット上で見かけないこともないですが、そんな生ぬるく願うものじゃない。この映画を見たら、絶対にこんな風に殺されたくないと思う。こんな風に殺されたいと願う人は絶対にいない。

どちらかというとサスペンスに分類されるような印象もありますが、これは立派なホラー映画です。