大真面目なのに最高に狂ってる!恐怖のドレスを巡る呪いの連鎖『ファブリック』

2019年のイギリス映画『ファブリック』。あるドレスに出会った人たちが不幸になるさまを描いたカルト映画です。ええ、カルトですよこれは。

監督は『バーバリアン怪奇映画特殊音響効果製作所』のピーター・ストリックランド。この映画、珍しく途中でギブしてしまったのですが、『ファブリック』は面白かった。

70年代カルトホラーっぽい香りがあってたまりません。少し前の時代の設定なのでしょうが、衣装もセットも凝りまくっています。

でもおすすめしたい理由は衣装でもセットでもなく!もう、「この映画作った人、頭おかしい…」って感じのニオイがプンプンしている映画だから。ストーリーがおかしいのか、脚本のセリフのチョイスがおかしいのか、俳優の演技がおかしいのか、全部なのか。わからないけど、壮大なコントを見ているようで、でも俳優さんも製作陣も大真面目なんだろうなあというちぐはぐさが、ものすごく気持ち悪くて気持ちいい。

本人はすっごくマジメにしゃべっているけど、一緒にいればいるほどおそれおののきたくなるくらい変な人、って感じ。面白いと思いつつ、怖いという気持ちも追っかけてくるような…

映画の話に戻します。

この映画はおおまかにいって二部構成になっていて、前半はシングルマザーの女性、後半は結婚を控えた男性が主人公。

前半の主人公の女性がドレスを百貨店で購入するのですが、この百貨店が魔女の巣窟であり、ドレスを購入した女性はどんどん不可思議な出来事に巻き込まれていきます。

前半

  • ブラインドデートのためにドレスを買うシングルマザー
  • ドレスを気に入るが、身に着けた次の日に肌がただれるなど悪いことも起こる
  • ドレスが勝手に移動したり、前に着用したモデルが死んだ話を聞いたり不吉な話題ばかり。なぜか返品もできない。
  • ドレスとは関係なしに彼氏ができる。
  • 破れてももとに戻るドレスが怖くなり、売り飛ばすために外出。しかし、なぜか道に飛びだしたマネキンのせいで事故を起こし死亡。

後半

  • ドレスを中古ショップで購入した男、後半の主人公のバチェラーパーティーに持ち込んで彼に着せる。彼はだんだんとドレス(というよりもタイツの女の足?)に執着するようになる。
  • 結婚予定の彼女もドレスを着てしまう。
  • 悪いことばかり続き、仕事をクビになる(この時、上司にIDカードを食われる。マジで口に入れてモグモグされる)。
  • 悪夢を見る主人公、赤ちゃんが生まれてくるが例のドレスを着ている夢を見る。その赤子に中指立てられ、医者の先生にガラス越しにホースの水かけられる
  • 主人公、百貨店のセールのCMを見ているうちにテクノブレイク死(っていうのかわからないけど突然死)
  • 主人公の彼女、百貨店の火事に巻き込まれて死亡(客同士がめちゃくちゃ喧嘩しまくるか商品を盗むかしかしていない)。ドレスだけが焼け残る。

いや、この魔女の方々がすごいんですね。中世のような真っ黒なふわふわドレスをまとい、ポエムのような喋り方で接客するんです。未見のかたはぜひ確認してほしい。こういうピン芸人、いそう… と思わなくはない。いや、芸人としてこれをネタでやったらR-1の決勝にいけるレベルだと思うんだよ、私は。

また、前半と後半の主人公をそれぞれ苦しめるアドバイザー?みたいな二人組(共通して登場する)がいるのですが、この人たちの会話シーンは明らかにコント。

「ちょっと僕たちの前で商品を説明してくれよ」とか「タイムカードを押してからトイレに行くって問題になっています」みたいな話を、すごーくアホっぽく話してくるんですね。この人たちは本当にコメディアンじゃなかろうか?というくらいテンポが最高です。

もうひとつ、シングルマザーの一人息子が年上の女と付き合っているのですが、息子のベッドで彼女の下着を見つけちゃうんですね。そのパンツに、なんと息子の顔写真がプリントしてあるんです(たぶん大事な部分に写真が当たるようにしてある)。ここもすげぇ笑ってしまった。わりと普通の、すました顔した写真がパンツにバーン!ってプリントしてあるんですもん。唐突すぎる。なんとなく、昔のフジテレビみがある。

とはいえ、怖いシーンもちゃんとあるのでご安心を。

ドレスを洗濯しようとしたら、嫌だったんですかね。洗濯機が壊れるまでドレスが暴れまわり、主人公が腕を切ってしまうシーンはびっくりしました。それよりも、洗濯機がブルブルしながら全壊したシーンももっと驚いたけど… そんなに壊れる?ってくらいぶっ壊れるし。いや、このシーンも笑ったんだった。ドリフの爆発みたいで。

百貨店でマネキンを手入れする魔女たちのシーンも印象的です。香油を塗りこみ、丁寧に磨き込まれるマネキン。しかし、下着を脱がせるとそこにはちゃんと性器が存在しており、血液がだらだら流れ出してきます。それを口に入れる魔女。さらにそれを見ている百貨店のオーナーはやたらとワナワナしているのですが、突然液体が飛び散るシーンが… こ、これは… あ、これは気持ち悪いシーンだった。

ただ、昔の『サスペリア』とかこういう気持ちで見ていた気もする。

ラスト、火事から逃げる魔女はエレベーターでどこかに潜っていくのですが、そこでは死んだモデル、前半の主人公、後半の主人公カップルがそれぞれ新しいドレスを縫わされている様子が見えます。この場面も非常にまがまがしくてすき。

捨てても捨てても戻ってくる呪いのドレス、という設定は目新しくないとも思うのですが、この味付けはすごい、すごすぎる。唖然としますわ。