地図から消えた村を舞台に繰り広げられる抗争と惨劇『バクラウ 地図から消された村』

バクラウ

2019年のブラジル/フランス映画『バクラウ 地図から消された村』を見ました。ネットフリックスで配信されていたので、予告編が気になっていたことも手伝い、鑑賞。

ホラー映画か?と思っていたら違ったのですが、非常に面白い映画でした。ブラジルの凄まじさをじっとり感じましたよ。映像はすごくきれい。ブラジルに行きたくなる。いや、この映画見たら行きたくなくなるけど。

突然村が地図(グーグルマップ)から消され、携帯電話の電波はなくなり、空にはUFOが飛び、突然死する村人も…? 誰が?何のために?残された村人たちはどうなってしまうの? というスリリングな内容。

ただし、内容はSFではありません。

冒頭で、水を巡ってコミュニティ同士で争いがあるような描写があったので、もしかしてそういう紛争のせい?と思いきや… なんと、市長選に出馬するトニーという男が殺し屋集団を雇い、村人たちを脅かしていた(ちなみにトニーは冴えない愚鈍な男)ということ。ちなみにUFOは昼間に見るとクソダサイドローンのカバーでした。

ただし、その説明なしに殺し屋たちが村人を殺そうと会議をしたり仲間割れしたりしているシーンになるので、「こいつらは何者だ?」と自然と画面に引き込まれてしまいます。

この殺し屋たちも非常に個性的で、普段は普通の職業に就いているらしい。子供を殺して言い訳する男もいれば、その行いを責め立てる男もおり、冷酷な殺人集団というわけでもない感じ。しかし最初に全員集合するシーンで、現地調達した新規メンバーをすっごい差別するんですよね。「おめぇら白人じゃねえからなぁ」「顔でわかるよな」とか言い合い、かばうメンバーも「おいおい、差別はやめろよ」とストレートな物言いをします。この時点で好感度ゼロ!

さらにボスであるマイケルはサイコパスっぽい印象であり、怒りが沸点に達すると仲間でもボコボコにするというトンデモナイ奴。

しかし村人もただでは転ばない!パコッチ(というあだ名)の男は死体を見つけたことを機に、ダムに隠れていた指名手配犯・ルンダを呼び戻し、殺された村人の復讐に動き出します。男だけではなく、女たちも武器を手に立ち上がります。というのも、前述した子供殺しがあったから。しかも村から逃げても殺されるんだから戦うしかない!

朝、村人の皆殺しに動き出す殺し屋たち。まずはある一軒に目をつけます。ここには全裸で植物に水をやるじいさんがいます(モザイクなし)。「あのジジイ原始人かよ」と言いながら放火して銃を向ける殺し屋。その頭をショットガンで吹き飛ばす爽快感!いや、めちゃくちゃ気持ち悪い(よくできた特殊メイク)のですが、鬱憤がはれるのは確か。ちなみに奥さんもマッパなのもすごい。このシーンはかっこよすぎる。その後に放火されて燃え上がる屋根を叩いて消そうとするマッパ夫婦がかわいい。

そして村からは人が消え失せていて、殺し屋たちはウロウロ。銃乱射をする殺し屋もいますが、隠れていた村人たちが一斉に銃を撃ち、なんとマイケル以外は全員生首カット。しかし、マイケルも遠くからライフルで射撃しているのですが、「俺は撃ってないよ」と言いながら仲間を撃ちまくったりととにかくクレイジー。口封じかな?

教会の前に並べられた村人の遺体(棺桶がずらりと並べられている…)と、その前に転がる殺し屋たちの生首。そして呼び出されたトニーはマイケルの追及にあってモゴモゴ、結局とらえられて処刑されることになります。この処刑が、アニメで見たことがあるロバの体にくくりつけられて荒野を引きずられるというものらしい。たぶんひたすら引きずられて体が削れてなくなっちゃうんでしょうね。こ、こわい。マイケルは村の地下に生き埋めにされることになって終わりです。

ブラジルの文化が垣間見えるという点でも面白い映画でした。テレビがないからテレビの画面がくっついた車を使ってみんなで観賞したり、水道がないから給水車で運んできて男女共用のシャワーを使ったり。娼館もあるのですが、その宣伝用のタペストリーがアジア人風のマッサージをイメージさせるものだったり。娼婦の女性たちは行きかう男におちちを見せて「どうや~!?」と笑いながら宣伝したり。それでいて、みんなスマホやタブレットは持っているから「ああ、そういえば現代だ」と思い出させてくれます。

病院にやってくる患者もだいたい二日酔いっていうのがすごい。アドバイスも「水を飲んで吐け、あと休め」だった。「母ちゃんと喧嘩したから病院にいていいか?」とかいうおっさんもいます。

美しい眼差しが印象的な主人公役・テレサも素敵なのですが、水の権利を巡って戦い指名手配犯となったルンダもカッコイイ!本業はもちろん役者さんなんでしょうけど、「村が嫌いで出ていったが、死傷者の存在を知り戻ってきて戦う」という大切な役どころを演じきっていました。また、ブラジルの悪党ファッションってちょっと日本のヤンキーファッションに通じるところがあるんですよね。伸ばした後ろ毛、ダボダボのハーレムパンツ、上は裸、指輪やアクセサリーごろごろっていうファッション。それで生首何個ももってウロウロしているもんだから、圧倒されました。

監督の前作の『アクエリアス』も気になりますね。ブラジル映画、面白かった!