破綻していく多重人格の男を待つ、異様な結末「スプリット」

スプリット

先日、劇場公開されていた「スプリット」を見てきました。監督・脚本はM・ナイト・シャマラン!
私は満足しました。とにかく、多重人格者を演じたジェームズ・マガヴォイの演技がものすごい。彼のインタビューも読んだのですが、あえて演じ分けの小道具はほとんど使わず(とはいえ、衣装やメガネは使用していますが)、あくまで演技で多重人格を演じきったそう。その目線、ため息、指の動かし方、その繊細な演技のひとつひとつがすべて、ひそやかでひたすら恐ろしい。

あらすじは、3人の女子高生を監禁した謎の男。彼は実は多重人格者であり、23の人格を持っていた。今までリーダーを担っていた人格と入れ替わるように現れた、残虐性の強い人格たち。だが、24つの人格・ビーストが解放される時、本当の悲劇が始まった……!
という感じです。

登場人物は、シンプルに言えば5人(本当はもう少し出てきます)。
本来の主人公はケイシーという少女。女子高生であり、ちょっと暗い、影のある女の子。
そして、彼女と一緒に誘拐されたマルシアとクレア。2人とも今時の女子高生。
その彼をさらったのが、多重人格者の男『ケビン』。
そして彼の主治医であるドクター、カレン・フレッシャー。彼女は多重人格者の研究を続けているおばあさんです。ケビンの異常に気付いたただ1人の人間。

なお、シャマラン監督の映画のいいところは、結末が予想できないところ!
ぜひとも、作品を先にご覧になって下さい!

といいつつ、どんな話だったかをメモっておこう。ネタバレすみません。というのも、シャマラン監督の次回作は、この映画と、かの名作「アンブレイカブル」のキャラクターが共演するらしいのであります。

スプリット1

クラスメートのパーティに参加したケイシー。彼女は周囲に溶け込まず、とにかく浮いている。クラスメートは彼女のかたくなさを嘲笑するほどだ。
ケイシーはクレアとマルシアの親に、車で送ってもらうことになる。だが、運転席に乗り込んだのは知らない男だった。彼女たちは薬で気絶させられ、謎の場所に監禁される。

パニックになるマルシアとクレア。逆にポカンとしてしまうケイシー。
マルシアとクレアは脱走を試み、バラバラに監禁されてしまう。落ち着いて謎を探るケイシーは、彼が多重人格者だと知る。今まで彼らの人格を抑えていたリーダーの男の人格が消え、「若い女を裸で踊らせるのが好き」というメガネの男の人格、優しげで博識だがすぐにナイフを持ち出す女性の人格(彼女はタートルネックを着ている)、無邪気で残酷な一面を覗かせる子供の人格などが、ケイシーを翻弄する。

ケイシーは逃げようとして子供の人格とコミュニケーションを図るが、あてにしていた彼の部屋の窓が「絵」だったことを知り、愕然とする。場を取り繕うために、子供の人格とキスをするケイシー。

その一方で、フィッシャー博士は多重人格者の彼から何度もメールをもらい、彼とコミュニケートを測っている。ごまかしている多重人格者だが、彼女はごまかせない。虐げられている人格が、彼女にメールで助けを求めていたのだ。

ケイシーはつらい過去を思い出す。彼女は父やおじにかわいがられ、幼い頃に狩猟を学んだ。だが、おじは幼い彼女にいたずらをしており、父が亡くなった後には彼女を引き取っていた。

フィッシャー博士に「ビーストがもうすぐ来る」と語る男。彼女はそれを今まで幻想だと思っていたが、たしかに24つめの人格が目覚めつつあった。
またメールをもらって彼の家にまで来たフィッシャー博士だが、真相に迫り、ビーストに殺されてしまう。ビーストになった男はみるみるうちに筋骨隆々(正直、このシーンはCGこってりで冷めます。もしかしたらDVDの時点ではもう少しキレイに見えるのかもしれない)になり、博士を抱き絞めて殺す。だが、彼女はあるメッセージを残していた。

部屋からは脱走することができたケイシー。友達2人を探すが、友達は別々の部屋で、内臓を食い荒らされていた。しかも、それを食べている途中のビーストに遭遇するケイシー。
逃げ続けるケイシーだが、博士のメモ「彼の本名を呼べ」という指示を見つけ、それを実行する。
(西洋で伝承されている童話では、悪魔はその名を呼ばれると、その本名を言い当てた者に手出しできなくなるという逸話がありますが、それをモチーフにしているのだろうか?それとも本当にそういう症状があるのだろうか?)
一瞬、彼は本当の自分に戻る。数年ぶりかもしれない。彼はパニックを起こし、ケイシーに自分の銃の在処を教える。そして、彼はまたビーストに支配される。

逃げた先で檻を見つけ、その中に立てこもるケイシー。ビーストは檻を破ろうとする。だが、彼はケイシーのあるものに気が付く。虐待の痕が、彼女の体中(普段は見えないお腹など)に残っている。
彼は動揺する。なぜから、彼が多重人格になったのもまた、母の激しい虐待が原因にあったからだ。
彼女が自分の仲間であり、傷付いた経験・過去を持つ尊い人間だと言って去っていくビースト。
彼女はその後、無事に男に発見される。

彼らはどこに監禁されていたのか?檻はなんだったのか?
実は、ビーストは普段動物園で働いており、彼女たちは檻の裏で監禁されていたのだ。
(男は働きながら、そこを住居にしていた)

ケイシーは無事に脱出した。彼女は、おじの虐待についてすべてを明かし、対抗することはできるのだろうか。それは明かされない。
ビーストはひとりで逃げている。そのニュースを、ダイナーの客がテレビを見ながら楽しそうに会話をしている。その横には、デヴィット・ダン(「アンブレイカブル」より。もちろん演じるはブルース・ウィリス!)が座っている。

ということで、続編はデヴィットとビーストが対決、というか対面する模様。どんな作品になるのだろうか?とワクワクしますね。

この映画の優れている点は、
・キャラクターが秀逸(マガヴォイの演技はもちろんのこと、全キャストの演技はすばらしい)
特にケイシーが野性味があるんだけど心は閉じていて、でも芯は強い。という印象で、しかもかわいかったです。
・冷酷そうなメガネの男、優しそうなのにキレると何をするかわからない女(しかも坊主頭にタートルネックで、いかにもアブない女性に見せている!)、狂気のキレキレダンスを見せる子供など、全部のキャラクターがとにかくぶっちぎれてる。
温厚な人格たちもちょこっと出てくるのですが、ファッションにとにかく詳しい優男の人格や、マニアックな知識を一方的にしゃべり倒す人格など、そのすべてに狂気という衣がかぶさっている感じです。
ということで、基本的には脚本より演技を楽しんでしまいました。

そもそも、脚本のドンデン返しは
①ビーストは彼女の痛みに共感して、殺さずに逃亡した
②アンブレイカブルにつながった
という2点のみなので、「結末が予想できない」といっていたシャマラン監督にはそりゃあ予想できないよ!ブルース・ウィリス出すなんて!と言いたい。

また、ビーストの体がムキムキに変化していくところは、ちょっぴり萎えてしまいましたね。そこは特殊メイクにしてほしかったなあ。血管が浮き上がってビキビキする様子って、もう見飽きている人がほとんどだと思うんです。しかも、その変化は体がたくましくなるというだけなので、見た目にもやや地味。グラップラー刃牙思い出した。

しかし、いい映画でした。